第5章 選択の刻 第四話 最終試験 214番 5/5
「たくさん学びました。
ありがとうございました」
少女は精一杯の気持ちを込めて深く一礼した。
そして閉まる扉を背中で聞いて歩き出す。
扉の向こうに出ると、そこは静かな廊下だった。人の気配もなく、窓もない。
壁に取り付けられた灯りが、淡く白い光を発して明るさを保っている。
やがて廊下の先に、開けた空間が見えてきた。仕切りのない広い室内は更衣室だった。
わずかに、布と金属の混じったような匂いが漂っていた。ここで幾人もの候補生が、同じように制服を脱いできたのだろう。
壁一面には、規則正しく並んだパネルがあった。
それぞれに番号が刻まれ、その下には淡い光が宿っている。
今年のパネルだけが、ほのかに強く光を放っていた。指先で触れると、静かに反応し、数字が浮かび上がる。
——211から233。
その中で、いくつかの番号は、すでに光を失っていた。
点滅すらせず、沈んだ暗さ。
それは最終試験の前に、この場を去った者たちの番号だ。
少女は自分の番号を探す。
——214。
少女は手を伸ばし、その番号に触れる。
微かな音とともに、パネルの一部が開くと、内部は空洞になっていた。
少女は制服の留め具に手をかける。
訓練校で過ごした日々の重みが、その布に宿っているように感じられた。
袖を抜き、畳み整えた制服を、空洞の中へと収めと、布が触れる音が、小さく響いた。
次の瞬間、パネルは静かに閉じる。
——214の光が、消えた。
少女はしばらく、その場所を見つめていた。
それが終わりを意味するのか、
あるいは、次へ進むための区切りなのか。
答えはまだ、言葉にはならない。
ただ一つ確かなのは、もう“候補生”ではないということだけ。
そんな思いを抱きながら少女は私服に袖を通した。
布の感触が、少しだけ現実を引き戻す。
そして何も言わず、振り返ることもなく、更衣室を後にした。
扉の外に出ると、陽の光が少女を照らす。そこは校舎の裏手側だった。
少し先に、整然と並んだ馬車が待っている。御者が一礼すると、少女に声をかけた。
「見習い聖女様。
お迎えに参りました」
214番は一瞬馬車を見つめたあと、ゆっくりと歩みを進める。
馬車の側まで来ると、御者の手がそっと扉を開いた。
「あ、あの……?
どちらに行くのでしょう?」
少女は問いかける。
「帝都聖環省本部です」
その言葉に、少女は胸の奥がざわりと震えるのを感じた。
聖環省の本部。
聖女を志すもので知らない者はいない。聖女はここから全国各地に配属される。
彼女は初めて最終試験の結果を理解した。
そして同時に改めて覚悟する。
自分がこれから見習い聖女として生きる道。
『公式な任務を担う道』が、確かに始まる。
御者が手綱を操ると、馬車はゆっくりと校舎を離れて行った。




