第5章 選択の刻 第四話 最終試験 214番 3/5
「それは、聖女の在り方ではないと考える者もいるだろうな……」
神官の声は、試すようだった。
「……承知しています」
「では、聞く。
あなたは何者だ?」
一瞬、少女の喉が動いた。
それでも、言葉を選び、答える。
「判断を引き受ける者です。
奇跡が必要になる、その前に」
神官は表情を変える事なく少女を見つめた。
軍人の審査官が、少女の言葉に低く問いを重ねる。
「わたしからも良いだろうか。
もし、上官から“使え”と命じられたら?」
「理由を確認します」
「それでも命令されるものだ」
「……現場の状況次第です」
逃げない。だが、即答もしなかった。
「命令が、被害を増やすと判断した場合は、従いません」
軍人の目が、わずかに細まった。
「……覚悟は、ある。……と?」
「あります。
処罰も含めて」
ラファエルが、追い討ちのように言う。
「お前は、さっき“任せた”と言ったな。
では、聞こう。
誰にも任せられなかった場面では、どうする」
214番は、初めて迷った。
視線が、一瞬だけ下に落ちる。
「……逃げません」
「それだけか?」
「一人で決めます。
その判断が間違っていたら、責任も引き受けます」
短い沈黙。
工学講師が、端末を操作しながら淡々と告げる。
「記録上、あなたは奇跡未使用率が極端に高いようです。
だが、死亡率は平均以下です」
イザベラも、続ける。
「はい。判断の遅延は見られない。
むしろ、“決めない判断”を明確に使っています」
214番は、何も言わない。
評価を求める視線も、弁解もない。
二人の講師が自分のことを伝えている。
そこにある問いを探していたが見つからなかったのだ。
マルコが、最後に口を開いた。
「確認する」その声は穏やかだった。
「あなたは、聖女になりたいですか?」
少しだけ、間が空いて少女は答えた。
「……分かりません」正直な答えだった。
「ですが」
214番は、顔を上げた。
「必要とされる場所には、立ちます。
奇跡を使う役でも、使わない役でも」
マルコは、しばらく少女を見つめていた。
やがて、小さく頷く。
「……以上」
その言葉を合図に、一人の補助講師が入室した扉とは別の扉の前に立った。
『カチャ…』
扉の開く音で、少女は促されている事を理解する。
しかし、まだ試験の終了には気づかず戸惑いながら扉に近づいた。
「お疲れ様でした。見習い聖女様。
あなたは、もう候補生ではありません。
こちらから進んでください」
そこに説明は、なかった。
しかし、214番は、一瞬だけ目を見開いた。試験の終わりを悟ったのだ。
一瞬、目を伏せたあと講師たちに振り返った。
「たくさん学びました。
ありがとうございました」
そう言って深く一礼すると、静かにドアの先に向かった。
ドアの向こうに進む姿を遮るように扉が閉まる。
その音だけが室内に静かに響いた。




