第5章 選択の刻 第四話 最終試験 214番 2/5
ラファエルがはじめに声を出す。
「質問する。
疫病都市で、あなたが最も避けた行動は?」
「奇跡を使うこと、です」
即答だった。
しかし、そのあと一瞬だけ間が空いて、静かに続けた。
「……使えなかったからではありません。
使えば、人が集まり、流れが変わると分かっていたからです」
イザベラが視線を落とす。
記録には、同じ判断が複数回残っていた。
ラファエルの視線は、真っ直ぐに少女を捉えたまま、静かに続ける。
「奇跡を使わないことで、救えなかった者は?」
「います」言葉は短い。
「……それでも、使わない判断を変える気はありませんでした」
「怖くなかったか?」
そのラファエルの問いに、少女は一拍だけ息を置いた。
「……怖かったです。だから、そのような時は他の人に任せました。
自分一人で背負わないようにしました。
判断を誤ったら、取り返しがつかないと分かっていましたから」
「それでも、現場に立ち続けてたな……?」
ラファエルは確認するような口調で続ける。
「はい。
離れたら、もっと混乱すると分かっていたので」
霊柩士講師長の礼服の男が、そこで静かに口を挟んだ。
「僕から、よろしいでしょうか。
奇跡を使わない判断は、周囲から非難されませんでしたか」
「されました」214番は、視線を逸らさない。
「『なぜ祈らない』『なぜ救わない』と、何度も言われました」
「それでも?」
「……説明しました。
今は使わないことが、被害を増やさない判断だと」
神官が、鋭く続ける。
「祈らなかったのですか?」
「祈りました」彼女は即答する。
「でも、“奇跡を起こすための祈り”ではありません。
判断を誤らないための祈りです」
わずかに、空気が張り詰める。
「それは、聖女の在り方ではないと考える者もいるだろうな……」
神官の声は、試すようだった。
「……承知しています」
「では、聞く。
あなたは何者だ?」




