第5章 選択の刻 第三話 その扉の向こう
候補生たは、いつものルーティンと思っていた。
初めてのその場所は、新たな訓練場あるいは講義室なのだろう。
誰もが、そう信じて疑わない。
扉の前に、候補生たちは並ばされていた。
そこは講義室でも、演習場でもない。
窓のない廊下の突き当たりにある、小さな部屋だった。
壁には装飾も標語もなく、訓練校らしい気配すら薄い。
誰も、説明を受けていない。ただ、ここに集められたのだ。
その床は、音を吸い込んでいた。
石張りの床に、十四人分の足音があるはずなのに、誰の音も響かない。
左右二列に並ばされた候補生たちは、視線を前に固定したまま、息の仕方だけを調整していた。
正面の扉からマルコ、ラファエルが出てきた。
イザベラが点呼結果を報告をすると、小さく頷いたマルコは一歩前に出た。
「最終試験を行う」
講師長マルコの声は、いつもと変わらなかった。
淡々としていて、感情の起伏がない。
逆に候補生たちに、マルコの言葉を理解するには一瞬では足りなかった。
「すでに伝えてある通り、これまでの訓練記録はすべて評価対象だ。
今回行うのは、その最終確認に過ぎない」
“確認”。
その言葉に、候補生の何人かが無意識に息を詰めた。
ここまで積み重ねてきたものを、今さら確認するだけ。そう言われて、楽になれる者はいない。
「一人ずつ、入室してもらう」
扉の向こうに、誰がいるのかは説明されなかった。
だが、察しはつく。
これまで座学を行ってきた講師。
実技訓練で現場に立っていた教官。
記録を取り、判断を下してきた目。
全員が、向こう側にいるのだろう。
「聖女として答えれば良い。
質問は多くない。
答えに、正解はない」
マルコは、そこで一拍置いた。
「だが──。判断は下す」
その一言で、廊下の空気が変わった。
ここにいる全員が理解する。
これは、試験ではない。
決定だ。
「呼ばれた者から、入れ」
候補生たちは、互いの顔を見なかった。
今さら、励まし合う意味はない。
誰が先でも、誰が最後でも、結果は変わらないと知っている。
扉の前に立ったとき。
ようやく、一つだけ確かなことが分かった。
この部屋に入った瞬間から、もう“候補生”ではいられなくなる。
暫くして、扉が静かに開いた。
「214番。入室してください」




