第5章 選択の刻 第二話 閉ざされた審査室 3/3
“最終試験”の言葉にラファエルが、苦笑まじりに肩をすくめた。
椅子に背を預けたまま、別の板を眺めている。
「毎回思うが……。
これを試験だと思って来る候補生は、気の毒だな。
問題は、残り……。落とすか、回すか」
「そんな……。“回す”って言い方、もうやめませんか?
皆んな頑張ってここまで来ました」
霊柩講師が短く息を吐く。
工学講師は肩をすくめた。
「でも実際、配置次第で生きるか死ぬか変わる」
神官は黙ったまま、祈るように両手を組み、軍務服の講師は、腕を組んだまま一言も挟まなかった。
マルコは全員を見渡してから、きっぱりと言った。
「だから、事前には何も言わない。
自分が、何をしてきたか。
試験では、それを自分の口で語ってもらうだけだ。
そして。
最終試験は、質問を一つか二つ。内容も、深掘りはしない」
「十分だ」ラファエルが言う。
「答えよりも、間を見る」
マルコは、ゆっくりと息を吐いた。
全員の視線が、彼に集まる。
「では、確認する。
慣習どおり最終試験は、今までのすべての延長だ。
よって。
通す者も、落とす者も、本人に理由は説明しない。
だが、記録は残す」
全員が頷きと挙手で意思表示し、異論は、出ない。
イザベラが、水晶板を一枚ずつ入れ替えていく。
スクリーンに映る番号が、整然と並び替えられていった。
「呼び出し順ですが」彼女は一瞬だけ視線を上げた。
「番号順や成績順にはしません」
「当然だ」ラファエルが言う。
「そうしないと意味がない」
礼服の男が顔を歪ませてマルコに視線を向けた。
「また、落ちる者から……?
こんなに人数がいるのに……?」
「呼ぶ」マルコは即答した。
そのマルコの発言に、眉を歪ませた軍人が、低く言った。
「それでは空気を沈める」
「違う」マルコは首を振る。
「空気が沈むのは、勝手に期待した結果だ」
イザベラが続ける。
「中盤には、評価が割れた者を混ぜます。
待てるかどうかを見ましょう」
工学講師が頷く。
「では、終盤は?」
「送り出せる者を」マルコは言った。
「最後まで残しても、崩れない者として」
神官が、そこで初めて口を開いた。
「……慈悲は?」
一瞬、沈黙が落ちる。
マルコは静かに答えた。
「ここに来るまでが、慈悲だ」
「申し上げます」
イザベラが、静かに、そして淡々と数字を読み上げていった。
『214番、219番、221番、226番……』
水晶板の並びが、呼ばれる番号順に並んでそ最終形に落ち着く。
順番はばらばらで、規則性がないように見える。
だが、この場にいる全員だけが知っていた。
この順番そのものが、最後の試験であることを──。
「では」マルコが言う。
「候補生への、合否について」
「退室誘導の際に、補助講師の振り分けで良いと思います」
イザベラが確認する。
ラファエルは笑わない。
「自分がどこに行くか、最後の一歩まで分からない。
これは──」
チラリと送られた視線に気づいた軍人は小さく頷いた。
「……うむ……前線は、いつもそうだ」
誰も反論しなかった。
最終試験の事前会議は、そこで終わった。
すでに決まっている結果を、どう見せるか。
それだけを詰める、静かな時間だった。
イザベラが先を立った。
「では、彼女たちを集めます」




