第5章 選択の刻 第二話 閉ざされた審査室 2/3
マルコがイザベラではなく、もう一人の女性の講師に視線を向けた。彼女が視線を受け止める様に頷くと、正面に半透明で大きな水晶盤がスクリーンで現れる。
魔導工学の講師長である彼女の装いは、薄汚れたいつもの白衣ではなく、今日は訓練校の講師の制服を着ていた。普段は袖を通すことのないその装いが、この場の厳粛さを物語っている。
スクリーンに14名の候補生の写真が映し出されると、マルコは静かに続けた。
「ここに今回の候補生の全員分の記録版が揃っている。
14名。異例の人数──、且つ、この全員が最終試験に進む」
淡々とした声だった。
だが、それは誇りでも不満でもない。ただの事実確認だ。
イザベラが頷く。
「通例、脱落は想定内です。
むしろ、ここまで残った人数としては、多い。……今回は想定外です」
そう言いながら一枚の水晶板に指先を触れる。連動する様に全員の前のスクリーンも変化した。
そこに浮かんだのは、ある候補生の訓練初日からの軌跡だった。
立ち位置の変化、奇跡の使用回数、沈黙の長さ。
「これは一例です。
大半が合格ラインは、すでに越えています」
その声は淡々としていた。
彼女は指先で一つ一つの記録に触れる。
「越えていない者も、同様に。
疫病都市で崩れなかった者が、思った以上にいました」
「いや……。
正確には、崩れても戻ってきた、だな」
ラファエルが小さく息を吐く。
机に肘をつき、記録を見ながら指で弾いた。
「完全に平然としていた奴はいない。
だが、立ち止まったままの奴も、少ない」
軍人が一瞬だけ目を細め、祈祷珠に触れていた神官の指先が一瞬ピクリと止まった。
しばし、沈黙が落ちる。
誰も、その評価を否定しない。
黒い礼装服姿の男が口を開いた。
彼は、この訓練校で奇跡運用学と倫理の講義を担当した。霊柩士の講師長でもある。
「拒否地区については?」
イザベラが即答する。
「奇跡行使の試行は数名。全員、無効。
ただし──。
“使えない”と分かった後の行動に、差が出ました」
ラファエルが頷いた。
「焦った者。安堵した者。
そして……奇跡がない方が、判断が安定した者もいる」
イザベラが、静かに言葉を重ねる。
「記録から評価は、ほぼ固まっています。
最終試験で覆ることは……ありません」
“最終試験”という言葉が、部屋に落ちる。




