第5章 選択の刻 第二話 閉ざされた審査室 1/3
学園の中央の廊下は幾つも交差していた。
その廊下の一つ。その奥に、ほとんど知られていない扉がある。
装飾もなければ、案内板もない。
普段はただの壁の一部のように思う様な、人の目に留まることもない場所。
今日は、いつもは壁の一部と化した扉は開かれていた。
静まり返った中央棟の奥へ、講師が一人、また一人と集まり、その扉の中に入っていく。
やがて最後の一人が入室すると、その扉は音もなく閉まった。
外は、まだ陽が昇ったばかり。
校庭では候補生たちが、日々のルーティンである実技訓練を行っている。彼女たちは、このあとに降りかかる運命を想像すらしていないだろう。
その部屋の扉が閉じると、外からの雑音が消えて部屋は静かになった。
部屋には長机がコの字に並べられ、正面中央にマルコが座り、その左右にイザベラとラファエルが座っている。
左右の机には4名分の席があり、部屋の後方には補助講師たちが控え、会議の開始を待っていた。
マルコ達の長机の上には、候補生全員分の記録版の水晶板がいくつも並べられていた。
候補生一人につき一枚。
そこにはまだ合否の文字はない。あるのは、行動の記録と判断の痕跡だけだ。
そして、水晶板の隅には、共通して一つの印が浮かんでいる。
円形章。だが、それは完全な円ではなく、わずかに欠けていた。
校長の承認印。完成を示すためのものではない。
『この記録を、最終試験として扱う』それを告げる、通過の印だった。
その記録版には膨大な記録の断片──。
候補生たちの行動、滞留時間、発話数、介入の瞬間。
数字と短文だけで構成された冷たい記録が、収められている。
左右の四つの席が埋まり、それぞれがマルコと小さく頷きながら視線を交差させた。
「今回は霊柩士講師長、魔導工学講師長とさらに、二席の審査官を招いている。
神官殿、帝都軍審査官殿、多忙の折にもかかわらずお越しいただき、深く感謝する」
その言葉に二人の男性が小さく頷いた。
一人は、軍人。
濃紺の軍礼装は無駄なく整えられ、肩章には将官の階級章。胸元にはいくつかの小さな勲章が並ぶ。
彼は白手袋を外した手が、静かに机の上に置かれていた。
顔立ちは鋭く、日焼けした肌には長い戦歴を思わせる細かな皺。視線だけで人を測るような、軍人特有の静かな威圧があった。
もう一人は、神官。長い指が祈祷珠をゆっくりと転がしていた。
袖口には細い金糸の刺繍が施され、胸元には小さな聖印。白に近い淡灰色の長衣が、椅子の足元まで静かに落ちている。
彼に軍人のような威圧はない。しかし、その静かな視線は言葉の奥まで見通そうとしているようだった。




