表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/104

 第5章 選択の刻 第一話 裁定の前夜

 


 訓練校を見渡せる位置に校長室はあった。

 高い窓の向こうには、静まり返った校舎と、その奥に広がる訓練場が見える。

 その景色を背にして校長は椅子に座り、机を挟んでマルコは前に立っていた。


 入室した彼が机上に並べたのは、14枚の記録版。

 候補生一人ひとりの訓練記録と評価が刻まれている。


 この記録版に校長の承認章が刻まれた時点で、最終試験の実施が正式に決定する。

 校長の視線がその記録版を捉えると、彼女の口元がわずかに緩む。


「あら……」


 その小さく零れた声に、マルコは表情を変えないまま告げた。


「候補生残数、14名。

 全員に最終試験を受けさせます」


 校長は一枚を手に取り、記録版に目を落とす。


「今回は多いですね。

 珍しい……」


 通例であれば、この段階まで残る候補生は6名、あるいは7名ほど。

 今回の14名という数は、明らかに異例だった。


「結果は、不変なく終わると見越しています」


「あらまあ。

 優しいのか、冷たいのか……」


 校長はくすりと笑う。


「貴方らしいわね」


 淡々と立つマルコを横目に、校長は机上を指先で軽く叩いた。

 そして、机の隅に束ねられていた資料の山を示す。


 校長が記録版を確かめるあいだ、マルコは彼女の手元ではなく、背後の窓の外を見ていた。


 脚は肩幅に開き、腕は背に回したまま。

 それがこの部屋での“休め”の姿勢だった。


「今回は。そんなにすぐ承認章は出ないわよ。

 “十四人”なんですからね」


 指先が資料の束を指し、視線は記録版に向けながら「終わるまで、それを見ていて」と告げた。


 マルコは資料を手に取ると、思わず眉がわずかに歪ませる。

 校長はその表情を見て、楽しげに笑った。


「ふふっ。多いと、そんな顔になるわよね」そして続ける。


「安心なさい。それは辺境都市や港湾、城塞都市から届いた候補生推薦状。

 まだ魔力値すら測っていない子たちよ」


 書類の山を軽く叩く。


「でも……」


 校長の声は柔らかかった。


「必ず誰かは、ここに来るわね」


 マルコはその言葉にわずかに興味を示し、資料を抱えて応接用のソファへ腰を下ろした。

 その様子を見て校長は小さく笑い、再び記録版へ視線を戻す。



 やがて、すべての確認が終わり、校長からマルコに声がかかる。

 マルコは見ていた資料を整えて校長の机に戻すと、ふたたび休めの姿勢を取った。


 校長は静かに椅子から立ち上がる。


 そして胸の前に両手の指を組み、祈りの体制をとりながら静かに目を閉じた。


「マルコ・ディ・アルヴェルト講師長」


 その声は、先ほどまでよりもわずかに重みを帯びていた。


「これより行われる最終試験において——

 合否の裁定を含むすべての権限を、あなたに委ねます」


 静かな宣言が続く。


「その目と、その判断をもって、聖女を選びなさい。

 その判断を、我が訓練校の最終意思とします」


 言葉が終わると同時に。

 机上に重ねられた記録版が、わずかに青白い光を放った。


 光の静まりと同時に、マルコは脚を揃え、姿勢を正す。

 そして、きっちりと30度の礼を取った。



 その記録版は——


 明日、最終試験に臨む14人の候補生たちの、未来を決める道標となっていた。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ