第5章 選択の刻 第四話 最終試験 219番 4/5
219番は、最後まで走っていた。
声を出し、手を伸ばし、誰も見捨てなかった。
だが。
誰も、彼女に判断を預けられなかった。
選ばなかった。
選ぶという責任を、引き受けなかった。
彼女のその様子は、端末を通して講師たちも見つめていた。
白い空間の中に立つ、長身の少女がこちらを向いている。
深く一礼しながら『ありがとうございました』と声が端末から聞こえてきた。
少女が扉の向こうに歩き出し、扉が閉じると同時に端末の映像もプツリ…と暗くなった。
講師たちに短い沈黙の時間が訪れ、軍人の審査官がはじめに口を開く。
「……想定通り、なのか?」
他の講師に問うように低く言う。
霊柩講師長が小さく息を吐きながら答えた。
「彼女は決して、悪いわけではないです」
それは、誰も否定しなかった。
続いて工学講師が水晶板を操作しながら言う。
「状況把握は早い。
体力もあるし、現場で声を出せる。
“動ける人材”ではあります、が──。判断の軸が、外部にありません。
すべて“助けたい”に収束しています」
イザベラが、記録から視線を上げる。
「“助けたい”は理由になりません。
判断を正当化する言葉としては、それは最も危険です」
軍人は腕を組んだまま、小さく息を吐いたあと低く言った。
「前線に立てば、真っ先に走る。だが、止まる合図を出さない。
……それは部下がついて行って、壊れる」
神官は、静かに首を振る。
「祈りは、正直でした。
ですが、祈りに判断を預けてしまっている。
ふむ……それは、聖女ではありません」
ラファエルが、ようやく口を開く。
「奇跡を使うこと自体は、悪くない。
だが……、使った“あと”だな。
全員を救おうとした。だが、誰も選ばなかった、と」
それが、この試験での結論だった。
霊柩講師長が、講師たちを確認するように見渡す。
「預けられない、という判断。
……一致でしょうか?」
イザベラは短く頷いた。
「はい。
彼女に任せられるのは、力仕事と補助まで。
判断役ではありません」
「……本人は、最後まで気づいていなかったようだが」
ポツリと言った軍人の言葉に対して、イザベラの声は淡々としていた。
「だから切ります。
気づかせるために」
短い沈黙のあと、マルコが顔を上げる。
「では──、次を呼ぶ」
記録は閉じられ、空気は切り替わった。
219番の名は、評価表の中で静かに定位置へ収まった。
『221番。
入室してください』




