第5章 選択の刻 第四話 最終試験 219番 5/5
補助講師の「お疲れ様でした」という声と、その姿を見て、少女は試験の終わりを察した。
そのまま丁寧な口調で、補助講師は続ける。
「あなたはもう候補生ではありません。
こちらからお進みください」
少女は、一瞬だけ顔を上げた。
示された扉は、この部屋に入室したときの簡素なものに似ている気がしたのだ。
その向こうに、講師たちがいるような気がした。
しかし。
扉の先は白い光が満ちているだけで、他には何も見えなかった。
これまでのすべての訓練は、記録されていた。
つい先ほどの追加試験も、講師たちは見ているはず。
少女はくるりと振り返り、部屋の中を見渡すように宙へと視線を巡らせた。
今の自分の姿も、見られているのだろう。
そう思い、深く一礼する。
「ありがとうございました」
それから219番は、補助講師に促された扉の向こうへと歩き出した。
少しずつ呼吸が整ってきた頃、廊下の先に広がる空間が見えてくる。
219番は更衣室にたどり着いた。
壁一面に並ぶパネルと番号。
ところどころに、淡い光が宿っている。
その中でも光の強いパネルに触れると、自分の番号を含めた数字の羅列が現れた。
219番は制服の留め具に手をかけながら、試験を振り返る。
──分からなかった。
何かに気づいていないことだけは分かる。
だが、その肝心な“何か”に、気づけていない。
この制服を脱げば、候補生ではなくなる。
では、ここを出たら、自分は何者になるのだろう?
光る番号に触れ、制服を現れた空洞の中へ収めると、パネルは静かに閉じた。
同時に“219”の光も『フッ』と消える。
その219番の光が消えると、少女の胸を、形にならない未来がよぎる。
それを振り払うように扉に手をかけ、彼女は外へ出た。
一歩進むと、陽の光が視界に飛び込んだ。
視線の先から、御者が近づいてくる。
「ご案内いたします。
こちらへ、どうぞ」
219番は戸惑いながらも、御者の後ろを歩き始めた。
小型の馬車が列をなして待機している。
その中にある中型の馬車の前で、御者は振り返り、深く一礼した。
「こちらで“皆さま”を、お待ちいただきます」
「わかりました」
少女が小さく答えると、御者は気遣うように足場を用意した。
「長くなると思いますよ。
中でお待ちになりませんか?」
少女はその言葉に感謝しながらも、小さく首を横に振った。
「では……、このままにしておきますので。
いつでも中にお入りください」
御者はそう言って、その場を離れていった。
仲間なのだろう。他の小型の馬車の御者たちと、言葉を交わし始めている。
少女はその様子を一瞬だけ見やり、
やがて、自分が出てきた校舎の扉へと視線を戻した。
彼女は、ずっと、そこを見つめていた。




