第5章 選択の刻 第四話 最終試験 219番 2/5
「“準備”とは、具体的に何を指しますか」
イザベラの質問に、少女は、唇を噛む。
「詠唱位置の確保と……
周囲の安全確認を……」
「誰が、その間、人を動かしましたか」
イザベラの問いは静かだった。
少女の視線が、わずかに揺れている。
「……周囲の者に、落ち着くように指示を……」
ラファエルが、椅子にもたれたまま言う。
「ん……?
記録盤には、その指示が残っていないようだが……?」
沈黙が落ちる。
今までの行動はすべて記録されていること。
これは試験という名の“確認”であることを少女は思い出した。慌てて言葉を探す。
「その、全員を助けたいと……思って……」
「それは、行動ですか?」工学講師の問いが、淡々と重なる。
「意思ですか?」
少女の喉が、小さく鳴った。
思うように声が出ない。
「……結果として、三名が重症化しています」イザベラが告げる。
「奇跡を使ったにもかかわらず、です」
少女の肩が、わずかに落ちた。
「それでも。
奇跡を使わなければ、もっと──」
「“もっと”は、記録に残りません」
そのイザベラの声に、感情はなかった。
「あなたのログには、“なぜそこで使ったか”が書かれていない。
“使わない選択肢”も、検討されていない」
神官が、静かに言葉を添える。
「ここから案するに……。
祈りは……あった。
判断は……、ない。……と、なる」
少女は、何か言いかけて、口を閉じた。
視線が下がり、指先が強く握られる。
少女の視線の先の壁際で何かが動いた。
補助の講師が扉の前に動いた影だった。
彼は、いつの間にか現れた扉の前に居た。
入って来たドアではない。出て行く扉とも、明らかに違う簡素なドア。
そのドアを開きながら、表情を変えずに一言告げた。
「こちらから中にお進みください」




