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私立陣屋学園能力科  作者: みやもと なまにく
2章 超能力
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25話 能力強奪(スキルスナッチ)

25話 能力強奪(スキルスナッチ)


 「何だ何だ!?」

 「人が飛んだぞ!?」


 治安維持委員のメンバー達は何が起こったのか理解出来ないようで、皆慌てふためいていた。喧騒の中心には気持ち悪い笑みを浮かべた学生が大声で何事か叫んでいる。


 「凄いぞこの能力(ちから)は……南チアキから奪った能力がゴミに思える程に!


 「か、柏木さん! どうしちゃったんですか……」


 「これがあれば(みなみ)チアキの壁走り(ウォールウォーク)など下位互換もいい所だ! もはや不要だな……容量も一杯だし捨ててもいいだろう……」


 「何をブツブツ言ってるんすか!?」


 治安委員の生徒が柏木の肩に触れようとした時、


 「触んなっつってんだよ!」


 ドウ! と突風が吹いた様に男が吹き飛ぶ。しかし、先程とは違い3メートル程離れた所で踏みとどまった。


 「なっ! こ、これは……燃費が、悪すぎる!」


 柏木はその場で頭を抱えたかと思うと、ガックリと膝を着いてしまった。


 「サオリ! 大丈夫か? しっかりしろ! クソッ! あのヤロォ!」


 タケルが何やら叫んでいる。見ると、タケルの腕の中で青い顔をしたサオリが脱力していた。アキトはタケルに駆け寄る。


 「タケル、どうした!? 嫌な予感がする!」


 「アキト、奇遇だな! 俺もだよ! サオリの……サオリの様子がおかしい!」


 サオリは酷く苦しそうで、呼吸が荒い。タケルは動揺を隠せないでいる。


 「タ、タケル君……も、持っていかれたわ……頭の中が……ポッカリと……なんだか気持ち悪い……」


 「! アキト……これって……」


 「クソッ! 思った通りだ! 柏木とかいう奴、アイツは能力者だ! 恐らく、他人の能力を奪う能力……浦原の能力を奪いやがった! あの能力……そうとしか考えられねぇ!」


 「じゃあ、奴が言っていた空気支配(エアマスター)ってのはサオリの……!」


 「間違いねぇ! 厄介な能力を厄介そうな奴に!」


 「どうしたらいい!? どうすれば取り返せる!?」


 「分かんねぇ! わっかんねぇよ!」


 「アキト、ここは一旦あおいやに戻ろう! サオリをこのままにはしておけねぇ! 手伝ってくれ!」


 「分かった!」


 サオリの腕を一本づつ肩に抱えて三人はあおいやへと離脱する。周辺に集まった人だかりは柏木の動向が気になるようで、アキトやタケルにはさほど興味が無いようだった。


 「待て! 待ちやがれ! 説明しろっ! どういう事だ! この能力は、あの時の……お前ら……うっ……うっぷ……クソッ……頭が痛てぇ、吐き気が……」


 ただ、柏木だけは逃げるようにあおいやへと向かうアキト達を見逃しはしなかった。


 「やべぇぞ! 気付かれた!」


 「待てって言ってん……おぇぇぇ……」


 柏木はフラフラと立ち上がったかと思うと、込み上げる吐き気に(あらが)えずに嘔吐(おうと)してしまっている。


 「おぇぇ……ぜ、全部出たぞ……クソッタレ……」


 「うわっ! 柏木さん! ゲロっちゃったんすか?!」


 「う、うるせぇ……奴らに問いただす事がある……生徒会をハメやがったのはきっと奴らだ……うぷっ……ど、退いてろ!」


 「ダメですって! 休んでて下さい! 我々が確保しますから!」


 「もっと……コンパクトに操作するんだ……カロリーも脳の演算速度も足りてねぇんだ……操作するのは少量でいい……弾丸のように小さく圧縮して……」


 パシュ! ――ビシッ!


 エアガンのような風を切る音がしたかと思うと、何かがあおいやの看板を揺らす。


 「なっ! アイツ! 空気砲を撃って来てんぞ!?」


 「チッ! 射線(しゃせん)が定まらねぇ! 威力もイマイチだ! だが、次は……外さねぇ!」


 「お、おい! タケル! 急げ! また来るぞ! 次はきっと確実に当てて来る!」


 「アキト! 俺に任せろ! 俺の影に隠れるんだ!」


 「なっ……何を言ってるんだ! 次はきっとあんなもんじゃねぇぞ!」


 タケルはニヤリと笑みを浮かべると、サオリを抱き締めた。


 「お、おい!」


 「いいから俺に隠れてろ!」


 「ブッ飛べぇ!!」


 バシュゥ! ――ビシッッ!


 先程よりも大きい音を立てて放たれた空気砲は、見事にタケルの背中に命中したようだ。しかし、タケルは全く意にも介さず、


 「今だ! アキト、走れ!」


 「どうなってんだよ!」


 アキトは言われるがまま走り、あおいやの扉を勢いよく開けた。サオリを抱えたタケルが猛ダッシュであおいやに飛び込む。


 「なっ! いつの間に! ぐおぉっ!」


 続いてアキト中へ入ろうとした時、どこからか走ってきた委員の男にタックルをかまされてしまった。


 「タケル! 扉を締めろ! 鍵を掛けるんだ!」


 「し、しかし……アキト!」


 「いいから早くしろ!」


 揉み合いになりながらもアキトは必死に声を張り上げた。


 「クソぉっ! アキト! すまねぇ!」


 バン!


 勢いよく扉が閉まる。残されたアキトは委員の男に羽交(はが)()めにされながら必死に抵抗を試みていた。


 「てめぇ……ただで済むと思うなよ! おい! そいつを起こせ! 一発ぶん殴らないと気が済まねぇ!」


 柏木は頭に手を当てながらフラフラとアキトに近づいてくる。


 「()めろ!」


 タケルがマスターと一緒にあおいやから出てきて叫ぶ。


 「なんだぁ? 逃げたんじゃねぇのか? 大人しくボロい店に(こも)ってればいいものを……お前達は知ってるんだろう? この能力の恐ろしさを! その気になればひっそりとお前等を殺す事も出来るって事を!」


 「クッ……」


 「何でだよ……何で生徒会のアンタが能力者なんだ? 生徒会は能力者と対立してんじゃ無いのか!?」


 「ああ、その事か。そんなのは簡単な事だ。俺も能力者が大嫌いだからだよ! 俺以外に能力者は必要ねぇ! 全て奪い尽くしてやる! 能力者は俺一人でいいんだよ!」


 「勝手な事を!」


 「お前も持ってんのか? 持ってんだろ? そっちの奴は確実に持ってるよなぁ? 俺の圧縮空気砲(エアガン)を喰らったってのに何でもねぇって顔してたもんなぁ? どんな能力だ? 教えてくれよ? ああ、そうだ。奪えばいいんだ! この俺の能力、能力強奪(スキルスナッチ)でな!」


 「それがお前の能力か!」


 「心配すんな。順番に奪ってやる。当たり前の様に使ってる能力を奪われて耐えられるかなぁ? 絶望しないでいられるかなぁ? フハハハ、有用な能力ならこの俺がちゃあんと有効活用してやる。安心して奪われろ!」


 「てめぇ!」


 「そこまでだ! 全員動くな!」


 耳元で叫ばれたかのように鮮明な声がした。と同時にその場に居たものはまるで時が止まってしまったかのようにピタリと動きを止めていた。


 ――な……何だ?


 「せ、生徒会長……」


 どこかで誰かが呟いた。アキトはハッとして声の主を探す。


 怒りとも憂いとも取れる表情に、途轍もない威圧感。神々しささえも感じられる圧倒的な存在感で生徒会の長、一葉ソウジの姿がそこにあった。


 「一葉ソウジ……」


 アキトは呆気に取られ、一言そう呟く事しか出来なかった。


 「柏木委員長!」


 「は、はい!」


 「何をしている? また奪ったのか? 控えろと言ったはずだ」


 「す、すみません……」


 先程まで威勢のよかった柏木がまるで飼い犬の様に大人しくなっている。額からは汗が垂れ、怯える様な表情を浮かべていた。


 「仕方の無い奴だ。柏木委員長、次は無いぞ」


 「は、はい……」


 「よし、全員そこを動くな!」


 異常な程に良く通る声が、まるで身体を縛るかの様にまとわりつく。その場に居る生徒は誰一人動くことは出来ないでいた。アキトも例外では無く、ソウジから目を離す事さえ出来ずにいた。


 「アキト君、大丈夫か?」


 急に声をかけられ驚いて見ると、塩見の姿があった。


 「御船から電話があってね。丁度近くに居たんで駆けつけてみれば……一体何があったんだ?」


 「塩見先輩……お久しぶりです。俺も何が何だか……」


 「塩見、もしや彼が?」


 「はい会長、彼が大東アキトです」


 ソウジはじっとアキトを見ている。アキトは吸い込まれる様なソウジの瞳から目を逸らす事も出来ない。


 「君がイトの……聞きたい事がある。生徒会室まで来て貰おう」


 「ま、待ってくれ! やらなきゃいけない事が……」


 「何だ? 言ってみろ」


 「うちの生徒がこの近く……かどうかは分からないが、監禁されて非道い目にあっているんだ!」


 「……誰だ?」


 「それは分からない……けど!」


 「そうか。では捜索は我々生徒会執行部が責任を持って当たろう。君は僕と共に来い」


 「は、はい……」


 「塩見、捜索はお前が仕切れ」


 「会長! 本気で言ってるんですか?」


 「彼が嘘を言ってる様には見えない。少なくとも僕はそう感じた。君はどうだ?」


 「わ、分かりました」


 「待ちたまえ。わざわざ学園まで戻る必要は無い。話をするだけなら私の店でどうかね? 丁度今日は客も少ない」


 「今日は? いつもだろ……」


 タケルのツッコミなど聞こえないようで、マスターはしっかりとソウジを見据えていた。


 「……いいでしょう。店をお借りさせて頂きます。塩見、君も来い」


 マスターに言われるがままあおいやへと移動する。タケル、アキトに続いてソウジと塩見も入店した。


 あおいやではマヤが心配そうにサオリを看病している。


 「アキトン……どうなってるの……?」


 アキト達に続いて塩見や生徒会長までも入ってきた事に驚いているようだ。


 「会長……要件の前に(おもて)の柏木とかいう人について教えて貰ってもいいすか?」


 「何が知りたい?」


 「アイツは能力者です。他人の能力を奪う能力、能力強奪(スキルスナッチ)と呼んでました」


 「……その通りだ」


 「! 何でだよ! アンタは能力を憎んでるんじゃ無いのか! あんな事があったってのにまた能力で人が傷つくとは思わないのかよ!」


 「君が何を知っているのかは知らんが、確かに僕は能力を憎んでいる。僕にとって最も大切なモノを奪ったからだ。だからこそ、能力はしっかりと管理されなければならないとそう思ったまでだ」


 「アンタが、生徒会長のアンタが管理するって言うのか?」


 「僕でなくてもいいんだがね。理事長はいささか放任主義過ぎるし、学園長はヌルいからな」


 「だからといってあんなヤバいヤツに好き勝手させるのは納得いかねぇ!」


 「ヤバい? 君に何が分かる? 彼は従順だよ。たまに暴走気味になる事はあるけどね。ファイアスターターの様なクズ共とは違う」


 「ファイアスターターがどんな組織なのかは知らねぇが、柏木とかいうヤツだって相当ヤバいだろ! アイツにあんな能力持たせちゃダメだ!」


 「……君ならいいとでも? そこの女子なら許せるのか? 僕は柏木という生徒を良く知っている。僕にとっては君達の方が余程危険に思えるがね」


 「クソッ!」


 「……さて、本題に入ろう。中庭の暴動事件を引き起こしたのは君達だな? 何故か首謀者(しゅぼうしゃ)は生徒会執行部だという噂が立っている。どういう事だ? 君達は……いや、イトは何を企んでいる?」


 「そんな事も分かんねぇのか? アンタら生徒会の横暴に我慢ならねぇからに決まってんだろ! 俺たち自然科学部を潰そうとして、襲撃までした事を忘れたって言うのか!?」


 「そんな事か……君は1年生だそうだな? 何も知らないで幸せな事だ」


 「どういう事だ?」


 「イトの話を鵜呑みにし過ぎだ。ファイアスターターを我々生徒会に()き付けたのは他でもない、長南イトだ。我々は自衛組織に他ならない」


 「?? 一体何を言っている?」


 「言葉の通りだよ。君は自然科学部の前身、超能力研究会を知っているか?」


 「知っている。イトに全て聞いた」


 「そうか。これは新聞沙汰にもなったから知っているだろうが、1年程前に爆発事故があった。大した爆発でも無かったようだが、生徒が一人命を落としている」


 「小牧野(こまきの)ミナ……」


 「……そうだ。そんな痛ましい事件があったにも(かか)わらず、張本人であるヤツはシレッと自然科学部などと名前を変え、倒壊した部室を再建した。猫を合法的に飼うために自然科学部としたそうだが、そんなもの! 認められるワケがない! 生徒会は満場一致で自然科学部の廃部を決めた、そんな時だ。生徒会執行部襲撃事件が起きたのは」


 「襲撃事件……?」


 「能力者による襲撃だ。我々には為す術もなく一人また一人と病院送りとなっていく……犯人はファイアパターンが描かれた布切れで顔を隠し、常人では考えられないスピードで駆け回る。赤い彗星と揶揄(やゆ)する輩もいた程だ」


 「そ、そんな……」


 「ファイアスターターのリーダーと長南イトが親友同士である事は知っているだろう? 奴らは自分の居場所を守る為、結託(けったく)して我々生徒会執行部に反旗を(ひるがえ)したという事だ」


 「ど、どういう事だ……? た、確かにイトは自分が悪い様な事は言っていたが……襲ったのは生徒会が先じゃあ無いのか……? そもそも襲撃なんてしてファイアスターターには何のメリットがあるんだ?」


 「この学園は伝統的に能力者と非能力者が対立する風潮がある。僕はそんな伝統を壊したかった……結果溝を深める事になってしまったことは本当に反省すべき点だとは思うがね」


 「そ、そんな……どうして……生徒会は被害者なのか? イトのワガママってのは本当なのか……? 俺は会長を改心させようと……こんな……」


 「大東アキト、僕は能力を憎んでいる。能力は好き勝手使っていいものじゃないと思っている。ここ最近、何故だか分からないが、能力が飛躍的に進化しているんだ。今までとは違い、格段に強力になってきている。これもイトが事件を起こしてからの事だ。おかしいとは思わないか?」


 「なんだよ……それ……もう、ワケが分かんねぇよ!」


 「大東アキト、僕に力を貸せ。生徒会執行部にも数人だが能力者がいる。柏木に似たような、能力を封じる事が出来る者がいる。ファイアスターターの様な危険な奴らから能力を奪う手助けをしてくれ」


 アキトは頭がこんがらがってしまっていた。何が真実かわからず、誰を信用して良いのか分からない。ただ、目の前にいる一葉ソウジの言葉は何故かすんなりと受け入れられる気がしていた。妙な説得力と、信憑性を感じていた。


 「一葉会長……まずは……」


 「まずは監禁、暴行されているという生徒を探そう。君も協力してくれ」


 アキトとソウジはしっかりと手を握り合っていた。 



読んで頂いてありがとうございます。

遅くなりまして……以下……

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