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私立陣屋学園能力科  作者: みやもと なまにく
2章 超能力
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26話 脚力強化(ランナバウト)

お久しぶりです……

26話 脚力強化(ランナバウト)


 ジメジメとした不快な湿気と、血と体臭が入り交じったすえた臭いの中、ひんやりと冷たいコンクリートのような硬い床に顔を押し付けているようだった。視界は無く真っ暗闇で、手足を動かす事さえ出来ない。ジンジンと痛む後頭部も不快指数を上げるのに一役買っている。


 「うぅ……縛られているのか……」


 「目が覚めたか……?」


 「! 誰だ?」


 「そんなに驚くなよ。俺の名前は諏訪(すわ)トモキだ……陣屋学園の生徒だ」


 苦しそうな声で語る名前には聞き覚えがある。


 「そうか、君が……」


 「知ってんのか?」


 「ファイアスターターの問題児、赤い彗星とは君の事だろう?」


 「問題児じゃねぇよ! 特攻隊長って言ってくれ! てか、お前も学園の生徒なのか?」


 「……自然科学部部長と言えば分かるかい?」


 「! まさか……長南イト!」


 「僕も有名になったもんだ」


 「何でお前がこんな所に連れて来られたんだよ……」


 「こんな所? 済まないけれど、動けるなら目隠しを外してはくれないか? 後ろ手に縛られて身動きが取れないんだ。全く、酷い事をするもんだよ」


 「残念だがそれは俺も一緒だ。こっちは目隠しはされてないけどな」


 「……それは困った。動けない上に視界も無い……それに、頭が痛くて仕方が無いよ」


 「我慢(がまん)しろよ。俺は五日程も前からそれはそれは酷い扱いを受けてんだぞ。もうボロボロなんだ」


 「そいつは大変だ。僕なら耐えられそうに無い」


 「直に慣れるさ……痛みにも苦痛にも」


 トモキはやるせなさを多分に含んだ声で、寂しそうにそう言った。


 「……奴らは次は何時(いつ)、見回りに来るんだい?」


 「知るかよ。1時間後か、はたまた明日か……まあ、さっきグラサンが来たから(しばら)くは来ないだろうけどな。呼びたきゃそこのボタンを……つっても見えねぇのか。まあ、ボタンを押せば誰かが来る。トイレにでも行きたきゃ俺がボタンを押してやるよ」


 「今まで何人程顔を見た?」


 「ん? 社長と筋肉ダルマを入れると5人……かな?」


 「筋肉ダルマとは黒スーツの事か?」


 「は? みんな黒スーツだろ? 筋肉ダルマとグラサンとオールバックとハゲ、それと社長。それで5人だ。よく来るのはグラサン、次いでオールバックだ。ハゲはたまにしか来ねぇ。社長と筋肉ダルマはお前を連れてきた時に久しぶりに見たぐらいだ」


 「なるほど……よく分かった。脱出するなら早い方がいいな……僕には長い間は耐えられそうに無い」


 「脱出出来んのか!? マジかよ!」


 「うるさい! デカい声を出すな!」


 「わ、悪ぃ……」


 「……君が足を引っ張ら無ければこの部屋を出るのは容易だ。ただ、出た後が問題だな。微妙に揺れている。恐らくここは船の中だろう。困った事に……僕は泳げない」


 「マジかよ……足を引っ張んのはオメェじゃねぇかよ」


 「ぐうの音も出ないね……」


 「はぁ、期待して損したぜ……って何をブツブツ喋ってんだ?」


 「……少し黙ってて貰えるかな。僕はリリィと違って座標の指定に時間が掛かるんだ」


 「?」


 「ナイフは8番で間違い無かったと思うんだけどね……よし、来たぞ」


 「? 頭大丈夫か?」


 イトはいつの間にか右手に握られたコンバットナイフで腕に巻かれたケーブルタイを器用に切っている。


 「おいおい! どこから出したんだよ! そんな物騒(ぶっそう)なモン!」


 「うるさいと言っている! これは僕の能力だ。正確には僕のでは無いけどね。期待してないが、君の能力も一応聞いておこうか。脱出の助けになるかもしれない」


 「……こっちだって聞きたい事は山ほどあるが、まあいいさ。俺の能力は脚力強化(ランナバウト)だ。常人の約3倍のスピードで動けるぜ!」


 「それで赤い彗星か……」


 「ザコとは違うんだよ! ザコとは!」


 「それは青い巨星、ランバ・〇ルだけどね……」


 「ん? ランナバウトだって言ってるだろ!」


 「……」


 ケーブルタイを切って自由になったイトは目隠しを外し、トモキの顔をマジマジと見ていた。縛られていた腕は赤黒く変色し、痛々しい。立つのがやっとの狭い空間でようやく解放されたと言わんばかりに、腕を回したり伸びをして自由を味わっているかのようだ。


 「……ふん! 生徒会に喧嘩(ケンカ)を売りすぎだ。能力を下らない事に使いやがって……」


 「な、なんで知ってんだ!? お、俺だって好きでやってんじゃねぇぞ! ヤツら、本当に容赦(ようしゃ)ねぇんだ! こっちにだって闘えるヤツが居るって事を思い知らせねぇとエスカレートするって言うから!」


 「君やタイガが抑止力って事か? その結果どうなった? 泥沼じゃないか」


 「お前! どこまで知ってんだ!」


 「君が女に(だま)されて、金を盗んだ事も知っている」


 「!!」


 「バカな事をしてくれたものだ」


 「ま、まさかこんな事になるなんて思って無かったんだ……俺はカエデさんに持ってきてくれと頼まれただけだったんだ……あんな大金が入ってるなんて……」


 イトはトモキの話を聞こえていないかのように無視し、監禁された部屋の観察に取り掛かっていた。トモキには目もくれず何か使える物は無いかと狭い部屋を物色している。


 「お、おい! 頼むよ! 俺のも外してくれよ! カエデさんが心配なんだ! ヤツらに捕まって非道い目に遭ってないか……」


 「……カエデとかいうクズなら今頃はのんびりと()()()()満喫してるだろう」


 「! 無事なんだな!?」


 トモキは心底ホッとした様子だ。


 「君はバカか? 自分を騙した女の安否(あんぴ)を心配してどうする? そもそもあの女は……」


 「ん? なんだ?」


 「……いや、もういい。君のそんな顔を見たらもうどうでも良くなった。それよりも君はずっとこんな所に監禁されていたのか?」


 「違ぇよ。昨日の深夜ここに連れて来られたんだよ。お前、何かやらかしたのか? 黒スーツ達が厄介なヤツだとか、ガキの癖にありえないモノを持ってるだとか、相当警戒してたぜ? まあ、その理由が今分かったけどな……」


 「ベレッタを取り返さなきゃだね……ギリギリで物質固定(フィクゼーション)が間に合ったとは思うが、いつまで持つか分からない……」


 「おーい。そろそろ自由にしてくれてもいいんじゃないかね」


 「そもそも、社長にだけ何故能力が効かなかったんだ? 初めてとはいえ完全に再現出来ていたはずだ。僕の能力に対する理解が(とぼ)しかったとは思えない……能力を無効化する能力? だとしたらベレッタは……」


 「また始まったよ……」


 「時間が惜しい。さっさと脱出するぞ」


 「いやいや、お前に言われたかねぇよ……」


 イトに拘束を解かれたトモキは、久しぶりに自由になった喜びを全身で感じていた。


 「いやぁ、やっぱ自由に動けるっていいねぇ! 長南イト! 感謝するぜ!」


 「少しは黙っていたらどうだい? これ以上僕をイラつかせるならここに置いていってもいいんだよ?」


 「おいおい、怖い事言うなよ! 悪かったよ。きっと役に立つからさ!」


 「サッサとヤツらを呼べ。ここを出るぞ」


 「へ? 呼んじゃマズいだろ?」


 「鍵が掛かってる。ヤツらに開けさせよう。心配するな。僕が何とかする」


 「し、知らねぇからな!」


 そう言うとトモキは思い切りスイッチを叩き押した。


 ジリリリリと遠くで音が聞こえる。暫くして音が止んだかと思うと、コツコツと足音が近づいてくる。


 「ランナバウト、君は黙って座ってろ」


 「りょ、了解!」


 扉の影に張り付いたイトは、唇に指を当てトモキに黙ってろよと合図を送る。と同時に扉に備え付けられた(のぞ)き窓が音を立てて開いた。覗き窓から見えるサングラスが不気味に光っており、表情さえ(うかが)い知れない。


 「どうした? 諏訪(すわ)、何の用だ?」


 「……」


 「! おい! もう一人のヤツはどこへ行った! 諏訪(すわ)! 黙ってねぇで答えろや!」


 「……」


 「クソが! 痛い目にあわねえと分かんねえようだな!」


 ガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえる。扉が開いた直後、


 「悪いな。突発性記憶喪失(アムネシアブラックアウト)!」


 「なっ!?」


 ガクンとグラサンの膝が落ちる。それでも必死にイトを掴もうとするのだが、叶わず床にぶっ倒れてしまった。


 「お、おい……頭から行きやがった! 自慢のグラサンがへし折れちまってんぞ!? 何をしたんだよ?」


 「記憶と意識を刈り取った。長くは持たない。サッサと脱出するぞ」


 「あ、ああ。行こう……とその前に、一発ぶん殴っといていいか?」


 「止めておけ。さっきも言ったが長くは持たない。余り刺激を与えるな」


 「んだよ。つまんねぇ」


 「甲板(かんぱん)に移動するぞ。他にも誰かいるかもしれない。気を付けろ」


 イトはいつの間にか手に持ったハンドガンをガチャガチャと弄っている。


 「お、おい……それって、まさかホンモノじゃねぇよな? な?」


 「念の為だよ。安心しろ。今のところ君を撃つつもりは無い」


 「いや、答えになってないんすけど……」


 警戒しながら甲板に出た二人は暗闇の中にいた。辺りはすっかりと日が落ちている。船は係留(けいりゅう)されているようだが、接岸(せつがん)した岸壁(がんぺき)は程遠く、とてもじゃないが飛び移れるような距離では無い。


 「デケェな……」


 「ああ、せいぜいクルーザー級だろうと思っていたが、貨客船(かきゃくせん)ぐらいはありそうだ」


 「どうする長南イト? グラサンだけとは思えねえ。早く逃げねぇと」


 「跳ぶぞ」


 「……言うと思ったが、無理だ」


 「3倍のスピードで動けるんだろう? 飛距離だって出るはずだ」


 「ギリ届かねえ。ずっと監禁されてたしな。本調子ならもしかしたらって所だけどよ。それに、届いたとしてお前はどうする?」


 「? 何を言っている? お前が俺をおぶって跳ぶんだ」


 「はあぁ? バカ言ってんじゃねぇぞ! 無理に決まってんだろ! 俺一人でも無理だってのに!」


 「心配するな。足場を作ってやる。上手くいくかは分からないが、一度だけ空気を固めて足場を作る。空気支配(エアマスター)物質固定(フィクゼーション)の合わせ技だ」


 「? 何の話だ?」


 「お前は黙って跳べばいい。鳥になったつもりで飛ぶんだ」


 そう言うとイトはそそくさとトモキの背中におぶさろうとする。


 「お、おい! 勝手に乗っかるな! 無理だって!」


 「言ったろう? 僕は泳げない」


 「何でそんなに偉そうなんだよ……だいたい、足場を作れるんなら橋を作れよ!」


 「それこそ無理だ。燃費が悪いんだよ。向こう岸に着く前に僕が力尽きる。時間が惜しい。サッサと飛べ」


 「だ、だから勝手に背中に乗ろうとすんな!」


 「僕は君を助けた。次は君の番だ。それとも、君の能力はその程度なのかい? 確か、役に立つと言っていたな? どうなんだい、ランナバウト?」


 「……わ、分かったよ! やりゃいいんだろ! 飛べばいいんだろ! やってやるよ!」


 「よし、よく見ろ。岸壁(がんぺき)とこの船の丁度(ちょうど)中間だ。そこに足場を作る。見誤(みあやま)るなよ?」


 「ま、任せとけ! よし、乗れ! 俺の能力(ちから)を見せてやる!」


 イトは、ヤレヤレといった様子でトモキの背中に乗っかる。おんぶした状態で立ち上がったトモキは、自らの足に全神経を集中した。足が薄く発光する。イトをおぶったまま助走の為か後方へ下がると、


 「長南イト、いいか? 行くぞ? しっかり捕まってろよ!」


 「早くしろ」


 「シャア! 見せてやんよ! 俺の能力の……凄さってヤツを!」


 最初からトップスピードで助走する。自転車よりもなお早い、まるで高排気量のバイクにでも乗っているかのような凄まじい加速感がイトを襲う。


 「うおりぁあっ!」


 雄叫びと共に全力でジャンプする。だが、10メートルは優にあろうかという距離に、イト(ウェイト)をおぶっている。声とは裏腹にあからさまに失速していく。


 「や、ヤベぇ!」


 「落ち着け! もう一度飛べ!」


 トモキの足に二人分の重量がかかる。空中に突然現れた堅い足場に、意図せず降り立った左足は悲鳴を上げている。


 「うぐっ! クソっタレぇ!」


 歯を食いしばって飛び上がったトモキ渾身(こんしん)の二回目のジャンプは、残念ながら更に飛距離を縮め、二人を絶望に落とす。


 「ダメだ!」

 「性能拡張(チート)!!」


 トモキが叫ぶのと同時に、イトは浮かび上がった身体を丸め、トモキの背中を土台に思い切り飛んだ。


 イトの身体はまるでロケットのように一直線に岸壁へと向かって射出されていた。


 「て、てめぇ! 俺を踏み台にしやがっ……」


 ――ドボォン!


 海に落ちたトモキをよそにギリギリで岸壁に着地したイトは、勢いのままゴロゴロと転がると、大の字になって寝そべっている。


 「はぁはぁ……危なかった……」


 イトは能力を使い過ぎた反動で、凄まじい倦怠感(けんたいかん)に襲われ、微動だに出来ずにいた。



**********************



 「長南イト……てめぇ……ぶっ殺す!」


 トモキはやっとの思いでロープを伝って岸壁をよじ登ってきたようだ。


 「やぁ、ランナバウト。無事で何よりだ」


 「ふざけんな! 初めから俺を踏み台にする気だったな! おかげでびしょ濡れだ!」


 「おいおい、誰のおかげで脱出出来たと思ってる?」


 「それとこれとは別だ! 一発殴らねぇと気が済まねぇ!」

 

 「そうか。では、殴るといい。だが、僕が驚いて引き金を引いてしまっても文句は言うなよ?」


 「なっ! 脅す気かよ!」


 「下らない言い争いをしてるヒマは無い。とっととアジトへと向かうぞ。タイガが心配だ」


 「くっ! いつか殴る!」


 「ランナバウト、肩を貸せ。能力を使い過ぎた」


 「なんだよ。顔色が悪いぞ? 大丈夫かよ!」


 「気にするな…….それよりあそこにバイクがある。見えるか? アレをパクって来い」


 「パ、パクって!? お前、本気で言ってんのか!」

 

 「当たり前だ。それより寄るな。臭いから……」


 「なっ! 誰のせいで落っこちたと思ってんだよ!」


 「いいから早くしろ」


 「無理だって! バイクパクってパクられんのはゴメンだぜ! それに、どうやってパクんだよ!」


 「ヤレヤレ……君は不良失格だな。それとも、今時の不良はこの程度なのか? 直結のやり方ぐらいは知ってるだろう?」


 「ちょっ! 直結って……お前……」


 「緊急事態だ。言い訳はつく。ハンドルロックの解除は出来るか? 直結とホイールロックは任せろ」


 「なっ! ちょっと待て! 誰もやるなんて……それに、工具がねぇと……」


 「これを使え」


 イトがどこからかバールを取り出し、トモキに手渡す。


 「お前はどら〇モンかよ! 次から次へと……」


 「物体転送(アポトーシス)だ。どら〇モンと一緒にしないで貰いたい!」


 「どっちでもいいよ!」


 「そろそろ限界だ……いくら僕でも無限に能力を使えるワケじゃ無い」

 

 と言いながらイトは先程のハンドガンに消音器(サプレッサー)を付けている。


 「……すげぇな、お前……」


 覚悟を決めたトモキは、バールを使ってハンドルロックと格闘していた。イトはシートを外すと張り巡らされた配線を一つ一つ確認している。


 「なるほど……よし、電気念動(エレキネシス)!」


 --ドルン……ドッドッドッ……


 音を立ててエンジンが始動した。


 「よし! 長南イト、こっちもOKだ」


 --バシュ! バシュ!


 「うお!! 撃つんなら一声掛けてくれよ! 危ねぇだろ! てか、うるせぇ!」


 「消音器(サプレッサー)では作動音までは消せない。ホイールロックは破壊した。いいから早く運転しろ。僕はもう限界だ……ファイアスターターのアジトまで行くんだ。くれぐれも警察には捕まるなよ」


 「好き放題言いやがって! お前のせいで俺は犯罪者だ! 何かあったら責任取って貰うからな!」


 イトを後ろに乗せ、トモキは盗んだバイクで走り出すのであった。

読んで頂いて誠にありがとうございます。

次回も宜しく御願い致します。

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