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私立陣屋学園能力科  作者: みやもと なまにく
2章 超能力
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23話 空気支配(エアマスター)

23話 空気支配(エアマスター


 部室を飛び出したアキトとマヤはマヤが白昼夢(はくちゅうむ)を見たという場所へと向かっていた。


 「アキトン、こっちこっち!」


 「御船、こんな道通れるのか?」


 「大丈夫だよぅ。毎日通ってるんだから」


 マヤが先導して進む道はやたらとマニアックで、人が通る事を想定しているとは言い難いような狭い隙間を平気で突っ込んでいく。


 こっちの方が早いから、ただそれだけの理由でマヤは慣れた足取りで用水路を飛び越え、フェンスを(くぐ)り、道無き道を突き進む。


 「おいおい! そんなとこ(また)いで……」


 「制服を引っ掛けないように気を付けてね!」


 「おいおいおい! バカ! パ、パンツが見えてるぞ!」


 「えっ!? ダメだよ、アキトン! こっち見ないで! って、うひゃー! 引っ掛かっちゃったよ!」


 「だ、大丈夫か?」


 「ダメだって! 見ないでって! それ以上近づいちゃ、ダメっ!」


 「そんな事言ってる場合かよ! 動くなよ! 制服が破れちまうだろ! 今外してやるから!」


 「ひぇー」


 マヤは金網(かなあみ)に引っ掛かったスカートを懸命に外そうとしている。(めく)れ上がったスカートは遮蔽物(しゃへいぶつ)としての機能を完全に失い、淡いピンクのパンツと真っ白いムチっとした太ももが露わになっていた。


 時折、意図せず見えてしまう見慣れたミコのそれとは違う、()ったレースがあしらわれた大人びたパンツと肉付きのいい太ももにアキトの目は釘付けになってしまっていた。


 「う、動くなよ? 余計に取れなくなっちゃうからな!」


 マヤは真っ赤な顔をして必死に手でパンツを隠そうとしている。


 モジモジと足を動かすマヤをよそに、我に返ったアキトはなるべくパンツを見ないようにしながら引っ掛かりを(ほど)く。


 「と、取れたぞ! ちょっとほつれちまったけど、大丈夫だろ」


 「あ、ありがと、アキトン……」


 「こんな道通るからだろ……俺が居なかったらどうしたんだよ」


 「いつもは引っ掛かったりしないもん。アキトンが変な事言うからだぞ?」


 「あのなぁ……」


 「アキトン、もうすぐだよ! この路地の先なんだよ」


 「お、おう。……ん? 何だか見覚えがあるような、ないような……」


 「どしたの? アキトン?」


 どこか見た事のあるような風景に、アキトは立ち止まり周りを見渡し始めた。


 「おお! そうか! 御船、こっちだ!」


 「ふぇ? アキトン、違うよ! そっちじゃないって!」


 「確か、この奥……あった! 珈琲茶房あおいや! この道に繋がってたのか!」


 人通りの少ない路地裏にひっそりと(たたず)む喫茶店。相変わらず寂れてはいるが、小さく珈琲茶房あおいやと書かれた看板の下には、これまた小さく営業中と書かれていた。


 「ほぇ? ここって喫茶店なのかな?」


 「ちょっと寄ってくか? ここは外観はアレだけど中はスゲェお洒落(しゃれ)なんだぜ? コーヒーも美味いし、マスターが渋めのナイスミドルで……」


 「でもでも、血塗(ちまみ)れの……」


 「それなんだけど、落ち着いた場所でちゃんと能力を使った方がいいと思うんだよな。場所も近そうだし、コーヒーでも飲みながらゆっくり試そうぜ?」


 「そ、そうかな? 多分、能力自体は使えると思うんだよ。でも、どこが見えるのかはやってみないとわかんないの」


 「こういった能力で一番難しいのは座標の指定なんだそうだ。兎に角、ミコとミィナに場所を教えて、待ちながらゆっくり試そう。お茶でもしながらさ」


 「アキトンがそう言うなら……」


 アキトは悩むマヤをよそにさっさとあおいやの扉を開ける。カランカランと心地よい乾いた音色と、コーヒーの良い香りが二人を出迎えた。


 「いらっしゃい……おや?」


 「マスター! 元気? 近くを通りかかったんで、つい寄っちゃいました」


 「アキト君じゃないか、先日はどうも。タケルと待ち合わせかい? おや? これは失礼。彼女とデートの最中のようだね」


 「えっ? い、いやいや、別にデートってワケじゃ……」


 「マスターさん! はじめまして! 私、御船マヤって言います。その……やっぱり彼女に見えました?! てへっ!」


 「こ、コラコラ!」


 「元気で可愛らしい彼女さんじゃないか。アキト君も隅に置けないね」


 「えへへー」


 マヤは満面の笑みを浮かべ、浮き足立っていた。


 「マスター、いいからブレンドを二つ頼む……ん?」


 奥の方でコソコソと動く人影が見える。アキトは目を細めて観察する。


 「タケル? タケルじゃねぇか。それに……浦原(うらはら)!」


 「え? タケル君?……と、サオリン?! どういう事かなぁ? もしや二人は……」


 まずい! アキトは直感的にそう思うのだが、上手い言い訳も思い付かない。思考停止してるうちにマヤは二人の目の前に仁王立ちしていた。


 「これってやっぱりデートだよね?! ねっ?!」


 嬉しそうに目を輝かせるマヤを尻目に、タケルとサオリはバツが悪そうにしている。


 「タ、タケル……」


 「御船さん、この事は内緒にしておいて貰ってもいいかな? その……委員長が嫌がると思うから……」


 「間中君……別に……私は……」


 どうしていいか分からず、あたふたするしか出来ないアキトには頼れないという判断だろうか、タケルが真剣な顔でマヤに訴えている。


 「サオリン! 泣いてるの……? ダメだよ、タケル君! 彼女を泣かせちゃ!」


 「御船! いいから! そっとしておいてやろうぜ!? なっ? 邪魔されたく無いだろうし……」


 「でもっ! サオリン泣いてるんだよ!」


 「付き合ってんなら良くある事だろ? 俺たちだって邪魔されたく無いだろ?」


 「ほへ? そ、それって、ど、どういう意味かなぁ? かなぁ?」


 「いやいや、ほら、何しに来たんだか忘れたのかよ!」


 急に赤い顔をし出すマヤと、全く役に立たないアキトに(しび)れを切らしたタケルは、


 「アキト! ちょっとこっちに来い!」


 強引にアキトの肩を掴むと、店の外へと連れ出した。


 「タケル、わ、悪ぃ……」


 「過ぎた事だ。気にすんな。あの調子だとサオリの事は言ってねぇんだな?」


 「言うわけないだろ! 約束したからな」


 「すまん、アキト。実は今日な、鷺谷(さぎや)先輩のとこに行ってきた」


 「鷺谷って……リョウ先輩か? 入院している病院へ行ったのか?」


 「そうだよ。全て話してきた」


 「それで、リョウ先輩は……?」


 「思ってる通りだよ。これでもかってぐらい(ののし)られたよ……まあ、当然だわな。殺されかけたんだから……」


 「それで泣いてたのか……」


 「でもよ、これだけは言わせてくれ。アイツは……サオリはそんなつもりは無かったんだ……ちょっと脅すだけのつもりだったんだよ……」


 「……それを信じるか信じないかはこれからの浦原次第だろ……俺でさえ許せねぇんだ。リョウ先輩や御船なんて……」


 「頼む、御船にはもう少しだけ黙っていてくれ! 近いうちに、必ず……」


 「……お前も無理すんな。御船なら問題ない」


 「ああ、すまねぇ」


 「お前が謝る事じゃねぇだろ」


 自業自得とはいえサオリも苦しんでいる事実にアキトは胸を締め付けられるような感覚を自覚していた。


 「じゃぁ、俺たちはもう行くから。アキト、御船さん、ごゆっくり」


 タケルは店に戻るや否やそそくさとサオリを連れて出て行った。


 「御船……」


 「分かってるよ、アキトン。誰にも言わない! 二人だけの秘密だよね、ねっ?!」


 「ま、まぁそう言う事だ……」


 「えへへー。サオリンったら男嫌いとか言っといて……」


 「もうその話はいいから、落ち着いたら能力を使ってみてくれよ?」


 「そ、そうだったね! よし! 私の能力、白昼夢(デイドリーム)の出番だね!」


 「何だよ、その中二っぽい名前……」


 「アキトンが名付けたんじゃん?」


 「……」


――カランカラン


 乾いたベルの音と共に制服を着た男達が入ってきた。左腕には揃いの腕章を付けている。


 「ん? あれは……生徒会?」


 男達はアキトの視線に気づくと、真っ直ぐにアキトへと近付いてくる。


 「おやおや、ここにもいた。全く、今年の一年は本当に困ったものだな」


 「……ちっす。なんすか? 生徒会役員が俺達に何の用ですか?」


 「やっぱり能力科か……表の二人と言い、お前らと言い……我が学園の風紀を乱すのは決まって能力科の生徒だ」


 「風紀って……別にそんなんじゃねぇっすよ」


 「学校帰りに男女二人で喫茶店にいるのを健全と言えるのか?」


 「別に……悪い事はしてねぇと思うんすけど。それに……」


 「それに? 何だ? 我々生徒会執行部直属風紀委員会別働組織、治安維持委員会に言い訳があるのなら表で聞こうか?」


 「長っ!」


 「待ちたまえ。ここは私の店だ。表の二人と言ったな? 先程出て行ったのは私の(おい)っ子だ。そしてこの二人は甥の友達なのだが。何をする気かは知らないが、私の甥と友人に危害を加えるつもりなら、私も黙ってはいられないな」


 不穏(ふおん)な空気を察知したのか、マスターが割って入る。生徒会役員の腕章を付けた男子生徒は一瞬驚いたような顔を見せたが、直ぐに高圧的な態度に戻ると、


 「なんですか、おじさん? これは我々陣屋学園生徒会の問題です。部外者がでしゃばらないでもらえますかね?」


 「……言いたい事は分かった。だが、ここは私の店だ。私には客を選ぶ権利がある」


 「……クソジジィが……」


 生徒会役員の腕章を付けた男子生徒は、苛立ちを隠せないでいる。マスターと睨み合ったまま微動だにしない。


 「マ、マスター、悪い。これ以上迷惑はかけらんねぇ。ちょっと表で話を付けてくる」


 「アキト君、待ちたまえ」


 「いいんすよ。どのみち生徒会の連中に用があったんだ。ちょっと順番が逆になっただけっすよ」


 「アキトン……」


 「御船はここで待ってろ。やれる事をやるんだ。心配するな。落ち着いて、お前なら出来る」


 「む、無理だよ! こんなの、集中出来るワケないよ!」


 「……ミコに連絡しろ。アヤコ先生……は期待出来ないが、セオドール先生ならきっと来てくれる。大丈夫、俺が保証する」


 アキトは狼狽(うろた)えるマヤの不安をこれ以上(あお)らぬように、できる限り平常を装って説き伏せる。


 「うっし、ちょっくら文句のひとつでも言ってくるわ」


 マヤの頭をポンポンと軽く叩くと、アキトは満面の笑顔で生徒会役員の男達と共にあおいやを出ていった。


 「これは……!? 当たりだ! 当たりも当たり、大当たりだ! ハハハハハ! コイツはスゲェ!」


 店の外に出たアキトが見たものは、狂ったようにはしゃぎ回る一人の男子生徒だった。


 「ど、どうしたんすか、柏木(かしわぎ)さん!?」

 「委員長! 何があったんですか?!」


 一緒にいる治安維持委員は、柏木と呼ばれた生徒の奇妙な行動にどうしていいか分からないようだ。


 「なんなんだよ……アイツ……狂ってんのか?」


 アキトはガッツポーズをして走り回るその男にドン引きしていた。いや、アキトだけでは無い。一緒にいた役員達も彼らに絡まれていたタケルやサオリも呆気にとられていた。


 「凄い! 凄いぞ! 例えるなら空気支配(エアマスター)! 恐るべき能力! 最強じゃないか! 発火能力(パイロキネシス)に勝るとも劣らない! こんなチンケな根暗女には勿体無い! この僕こそが! フハハハハ! ブハハハハ!」


 涙を流しながら大笑いするその男の顔は薄気味悪く、周囲をドン引きさせる。


 「フヒヒヒヒ……アヒャヒャヒャヒャ……」


 「ちょっと……柏木さん……?」


 治安維持委員の男が笑い転げる柏木に触れようとした時、


 「触るなっ!!」


 柏木がそう叫んだ瞬間、

 

 「! どわぁああ……!!」


 委員の男が大きな叫び声を上げて吹っ飛んでいく。


 「邪魔をするな! ちゃんと……自分のモノにしないと……フヒヒ……」


 アキトは棒立ちで固まってしまっていた。


 「か、柏木……どこかで聞いたことが……?」


 異様な光景の中、アキトは必死に思い出そうとしていた。



読んで頂き、誠にありがとうございます!

またか、とお思いでしょうが、次こそは早めにアップしたいと本気で思っております……

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