21話 白昼夢(デイドリーム)
21話 白昼夢
「それで? 相談ってなんだ?」
部室に戻ったアキトはテーブルに並べられたお菓子をつまみながら、マヤに問いかけていた。
「その前にゴメンね、アキトン。塩みー先輩になかなかアポ取れないんだよ。どうも最近忙しいみたいで、彼女さんとデートも出来ないってボヤいてたよ。一応ヒマが出来たら連絡くれるって言ってくれてるんだけど……」
「そうか……まあ、仕方ないな。生徒会は生徒会で色々あるんだろうし。急いでなくもないけど、焦ってるワケじゃないしな……」
「よかったよぅ……それでね、でね、相談っていうのはね……」
「お、おい!」
グイグイと迫ってくるマヤに、アキトはドキっとしてしまう。つい胸に目が行ってしまい、制服の中に押し込められた暴威が否応なしにアキトを昂らせる。
「ちょっ、い、いいから落ち着け! ちゃんと聞くから!」
――ガチャン!
「コーヒー! 淹れましたよ!」
なんだかミコがイライラしているようだ。荒っぽく音を立ててコーヒーカップをテーブルに置く。乱暴にソファに腰掛けると、ムスっと頬を膨らませてマグカップを傾けている。
「……どうしたんだよ?」
「ミコタン、今は私のターンだよ? 約束したじゃん!」
「わ、分かっています……分かってはいるんですが……」
マヤに責められたミコが寂しそうに下を向く。
「お前ら何の話を……」
「アキトン、聞いて。私ね、なんだかおかしくなっちゃったみたい……昨日から変な夢を見るの」
「夢?」
「夢っていうか、寝てないんだよ? ちゃんと起きてるのに夢を見るの……」
「起きてるのに夢? ……白昼夢ってやつか?」
「白昼夢? それなに?」
「たしか、目覚めている時に見る夢の事を白昼夢って言うんだよ。走馬灯は過去の体験を見るのに対して、白昼夢は自分の願望が見えるとかなんとか……」
「願望! そうかも!」
マヤは独り納得した様子でウンウンと頷いている。アキトはワケが分からずポカーンと呆けてしまっていた。
「あのね、ミコタンってすっごいかわいいでしょ? だからなのかな?」
「だから一体何の話を……」
「昨日の夜にね、何度も言うけど夜っていっても寝てないんだよ? はっきり意識があるのに、夢で鏡を見てたの。その鏡には裸のミコタンが映っててね、自分のおっぱいをそれはもう激しく、艶かしく揉んでるの! それで、寄せたり上げたり回したりしててね……」
「マ、ママ、マーヤ!? な、何を……」
「そ、それは興味深い!」
「ニャニャ! 詳しく聞かせるニャ!」
それまで一心不乱にお菓子をがっついていたミィナが、目の色を変えてアキトの膝に飛び乗る。
「あのね、ミコタンのおっぱい、ちっちゃめだけどちゃんとあって、形もすっごい良くて、その……先端の色も綺麗なんだよ!」
「せっ、先端!!」
「ティクビニャ! ティクビニャ!」
「はわわわわ……」
「ほら、私の胸ってその……アレじゃない? 邪魔だし、重いし、太って見えちゃうし、揺れると恥ずかしいし、将来重力に逆らえなくなるのかな……なんて無駄に考えちゃうし、鏡の中のミコタンの裸体、本当に綺麗で羨ましかったんだよ」
「そ、そんなに自分を貶めるなよ……だ、大は小を兼ねるって言うだろ? 色んな使い方があるだろうし……御船のその……む、胸も凄い綺麗で魅力的だったぞ? 今は分からなくてもいい! もっと大人になればきっと分かる! アレは誇っていい!」
「!! アキトン……そんなに熱弁されると……」
「!? 使い方って……何に使う気なんですか……!?」
「ニャは♪」
「い、いやいやいや、ち、違うぞ? へ、変な意味じゃ無くてだな!」
不穏な気配を察したアキトは必死に言い訳を探していた。
「では、どういう意味なんですか! ゆ、許せません! やはり記憶を!」
「は、恥ずかしいよ……」
「エッチニャ! エッチニャ!」
マヤは顔を赤らめモジモジしだし、ミコは怒ってブツブツと呪詛のような言葉を呟いている。ミィナは人一倍嬉しそうに部室を駆けずり回り出した。三者三様の反応に対処しきれず、アキトは半ばパニックになっていた。
「も、もう記憶でも何でも消してくれ……そして話を元に戻してくれ……」
「アキトンには全部見られちゃったからなぁ……」
「アキには二度と使わないと決めたつもりでしたが……やっぱり抑えられそうにありません……」
「面白い事にニャったニャ! ニャったニャー!」
「頼む! 話を戻してくれ! 他に何が見えたんだ!? そんなものが見えたってのが相談なのか!?」
「そ、そんなもの……アキは私の……その……興味ないんですね……」
「いやいや、興味はあるぞ! ……って俺は一体何を言ってるんだ!?」
「そ、そんなに強く言われると……恥ずかしいです」
「アキトンって、エッチだね!」
「ニャハハハ!」
アキトは恥ずかしくて顔から火が出そうな思いをしていた。咄嗟とはいえ、とんでもない事を口走った事に焦っている。
「あはは、アキトンが可哀想だから話を戻すね! ミコタンの他にもアキトンも見えたんだよ! 黒いマンモスみたいな絵が書かれたマグカップで、なにか飲んでいたよ!」
「え?」
「それにね、ママだかお姉ちゃんみたいな人の肩を嬉しそうに? 揉んでたよ?」
「ちょ、ちょっと待て! 何時なんだ? 御船、それは何時だって言った!?」
「ふぇ? だから……昨日の夜に見たんだけど……」
「……それって……」
「アキ! これって……」
急に真面目な顔で考え込むアキトに、部室は静まり返る。
「推測だが……御船、お前が見たものは白昼夢なんかじゃねぇ。昨日の夜、おそらく同じ時間にミコが見ていた景色だと思うんだが」
「ふぇ? それってどういう事かなぁ?」
「超能力……なのでしょうか?」
ボソリとミコが呟く。
「御船、お前の言った状況に心当たりがあるんだ。俺は昨日、初めて他人に新しい能力、電気治療を使ったんだ……まあ、能力の呼び名は気にするな。言ってみればただの低周波マッサージみたいなもんだ。俺は夜な夜な自分の能力の特訓をしてるんだが、ある周波と言うか間隔と言うか、口で説明するのは難しいな……まあ、あるタイミングで電子を動かすと筋肉を収縮出来る事に気付いたんだ」
「人体のあらゆるパーツは脳から発せられる電気信号で動いていると聞いたことがあります」
「ああ、俺も少しばかり電気や電子について勉強してみたんだ」
「それと夢とどんな関係があるの?」
「言っただろ? 昨日の夜、初めてハナエさんに試したんだ。低周波マッサージの要領で筋肉に刺激を与えれば、肩凝りを解したり、血行を良く出来るかもって」
「その様子をミコタンが見ていて……私が夢でそれを……??」
「当ててやろうか? 御船がその夢を見たのは、夜9時30分頃だな?」
「えっと……うん! たしか、そうだよ!」
「てことは、だ……」
「遠隔透視……違うニャ。視覚共有かしら……ニャ」
ミィナが唐突に喋り出す。
「ミ、ミィナ、それが御船の能力なのか? やはり能力に目覚めたって事なのか?」
「ミィナ、その二つは同じような能力っぽいですね。どちらにしても凄いですが……」
「……似ているようでこの二つは全くの別物ニャ。遠隔透視は自身の五感を強化する超感覚つまりESPに分類されるニャ。視覚共有の方は精神感応に代表される共感覚系統ニャ。ちニャみにアキトのように物質や分子、電子ニャんかに物理的影響を与えられるのはPKと略される念動力系統ニャ」
「ミィナ、詳しいんだよ!」
「凄いです!」
「んだよ、猫のクセに……」
「超能力の初歩の初歩ニャ。そのうち授業で習うニャ。どちらにしてもマヤが見たのは実際起きた現実である可能性が高いニャ」
「そっか……私もついに能力者かぁ……」
「ちょっと待て。現実に起きている事を見てたって事は……ミコ……お前……」
「!!」
「!?」
「ごっ、誤解ですっ! わ、私は……揉むと大きくなると聞いて……」
ミコの顔がみるみる赤くなっていく。挙動がおかしく、目は泳いでいた。
嬉しそうに駆けずり回るミィナの傍で、マヤの顔がみるみるうちに青ざめていく。急にヘタリ込み、頭を抱えて小刻みに震え出していた。
「お、おい! 御船! どうした!?」
「現実……なんだよね……? ねえ! 私がみた夢は、本当に現実なんだよね!?」
青ざめた顔で取り乱している。現実を受け入れられない、受け入れたくないといった様子で涙目でアキトにしがみつく。
「マーヤ! 落ち着いて下さい!」
「ど、どうしたんだ!」
「様子がおかしいニャ!」
「ああ……そんな……そんな事って……」
「落ち着け! 考えてもみろ。何を見たのか知らないが、きっとそれはもう終わった出来事なんだ!」
「……ご、ゴメン……みんな……取り乱しちゃって……」
「いいから何があったか話してみろ」
「……今日の朝、通学途中にね……嫌な夢を見たの……ウチの学園の制服を着た生徒が、血まみれで倒れていたの! 手を後ろで縛られて、何の抵抗も出来ないのに……その生徒を、怖い人達が蹴ったり殴ったりして……顔がボロボロだった! 原型を留めていないぐらい! 血がべっとりとついてて、どんな顔かも分からないぐらいなの! はっきりと見えたから、怖くて……」
「っ!?」
「何だと!」
「ニャニャ!」
「ど、どうしよう……通報した方がいいかな……?」
「通報ったって……決定的な証拠がねぇからなぁ……」
「でも、これが事実であれば、早くしないと手遅れになりますよ……?」
「アヤコ先生かセオドール先生に相談してみるか?」
「部長さんとリリィはどうかな……?」
「ダメです。連絡がつきません……」
「全く……あの二人はどこほっつき歩いてるんだよ……」
「ここで騒いでてもしょうがニャいニャ。動くなら早く方がいいニャ」
「そうだな……よし、御船と俺でその夢を見た場所に行ってみよう。場所が特定出来れば捜査の助けになるだろう。ミコ、お前はセオドール先生に報告だ。ミィナはアヤコ先生を頼む」
「分かりました……」
「任せるニャ……アキト、くれぐれも無理はするニャ、ニャ」
「分かってるよ! ちょっと街をぶらつくだけだろ。心配すんな」
ミィナはイト、リリィが不在の中で一抹の不安を感じていた。
「何があっても独断専行はダメニャ。都度、報告連絡相談ニャ!」
「はいはい! ホウレンソウね!」
「ミィナ、大丈夫。私がついてるから!」
「マーヤ、私たちが先生を連れて合流するまでアキをお願いします!」
こうして慌ただしく各々が部室を後にするのだった。
読んで頂いてありがとうございます。
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