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私立陣屋学園能力科  作者: みやもと なまにく
2章 超能力
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20話 懐古

20話 懐古


 人の気配どころか、生物の気配すら感じられない(すす)けた倉庫群。その中に一際(ひときわ)異彩(いさい)を放つショッキングピンクに塗られた古い倉庫があった。


 綺麗にアイロン掛けされ、(えり)がピンと立った白衣に身を包んだイトは倉庫の扉の前に立つと、手に持つ愛銃(ベレッタ)のスライドを少しだけ引く。チャンバーに弾丸が装填されているのを確認すると、ため息をひとつつき、白衣のポケットにベレッタをねじ込んだ。


 趣味の悪いその倉庫は今は使われてはいないようで、あちこちに落書きがされており、至る所が(さび)で朽ち果てていた。


 扉の取っ手を握ると錆がべっとりと手に付着し、気分を害される。イトは嫌そうな顔をしながら扉を引いた。


 ギギッと、これまた不快な音を立てるばかりで、錆で固着してしまった扉はなかなかにして言うことを聞かないようだ。


 イトは、やっとの思いで人ひとり侵入出来そうな隙間を作ると、なるべく身にまとった白衣に扉が触れぬよう気をつけながら中へと入っていった。


 倉庫内に入った途端(とたん)、鼻をつく刺激臭が襲ってくる。たまらず白衣の(そで)で鼻と口を(おお)うと、奥へ奥へと進んで行く。


 何に使っていたのだか見当もつかない大きな機械の影に、チラリと人影が見える。身長180センチはゆうにあるだろう大柄で筋肉質なゴツい体格に浅黒い肌。日本人離れしたその男は金とも銀とも言えぬような奇妙な色で光り輝く癖のある髪に、可視光線を透過させないのかと思うほどに濃いサングラスを掛けていた。顔にはサングラスでは隠しきれないほどの大きな古傷が痛々しく、否応なしに同情を誘う。


 その大男は、直ぐにイトの存在に気付いたようだ。腰掛けた機械から立ち上がると、汚れを払いながらイトに近づき話しかけた。


 「遅かったな」


 「待ったかい? それはすまなかった」


 「……久しいな」


 「……ああ、そうだね」


 「元気そうでなによりだ」


 「お互いにね」


 「……まさか本当に来てくれるとは思わなかったぜ」


 「借りが……あるからね」


 「……まだそんな事を言ってんのか」


 「いくら返しても、返したりない大きな借りさ」


 「ふん! 貸しを作った覚えはねぇ」


 「君に無くても僕には重くのしかかっている……それを理解出来ないワケじゃないだろう?」


 「勝手に言ってろ」


 「……サングラスは僕に過去を読ませない為のモノかい?」


 「……傷を隠しているだけだ」


 「目の調子はどうだい?」


 「……左目は死んだ。知っているだろう? どうにもならん。だが、右目は生きている」


 「アヤコならきっと……」


 「言うな。これは(いまし)めだ。俺は……人殺しだからな」


 「僕も共犯だよ。君と同じさ。そして同じように(つぐな)い方を知らない」


 「……」


 「……」


 「イト、順調に増やしてんのか?」


 「資産の事かい? それとも能力の事かな?」


 「……」


 「タイガ、ソウジに会ったのか?」


 「……知っていたのか?」


 「ちょっと、新聞でね」


 「新聞? 何の話だ?」


 「いや、なんでもない。こっちの話だ。そんな事より争いを(おさ)めるつもりは無いのかい?」


 「アイツが非を認めて謝罪するのなら、考えてやってもいい」


 「ソウジとお前の(あいだ)に何があった?」


 「ヤツは俺や能力者……能力を恨んでいる。生徒会だかなんだか知らんが、ヤツらの能力者狩りで俺たちは酷い目にあっている」


 「……それだよ……にわかには信じ難い……アイツが一方的に暴力に訴えるなんて事があるだろうか? アイツに何があった?」


 「だから直接()って問い詰めた」


 「……ソウジはなんと?」


 「こっちが先に手を出したの一点張りだ」


 「どうしてそうなった? 僕には分からない……」


 「誰にも分からん。俺もお前も……きっとソウジにだって分かんねぇんだ」


 「違いない……」


 「……イト、悪いが過去を(なつ)かしんでいるヒマはねぇ」


 「何かあったのか? (かたく)なに僕らを避けていた君の方からコンタクトを取ってきたって事は、よっぽどの事なんだろう?」


 「……単刀直入(たんとうちょくにゅう)に言おう……(かね)を貸して欲しい」


 「……いくらだ?」


 「……2千万ほどだ」


 「! 高校生にとってはとんでもない大金だな」


 「普通の高校生なら、な。だがお前にとってはそうでもないだろう?」


 「……返ってくるアテのない金を貸すつもりは無い。他を当たれ」


 「お前にしか頼めん」


 「……」


 「必ず返す。頼む……」


 「頭を上げろ」


 「……」


 「頭を上げろと言っている!」


 「……」


 「……タイガ、何があった?」


 「!」


 「勘違いするなよ? 僕は君に金を貸すつもりは微塵(みじん)も無い! 何が起こっているのか気になるだけだ」


 「……仲間(バカ)の後始末に金がいる。ヤバい金に手を付けて、シメられた()()(おど)されている」


 「お前が直接関わってないなら放っておけ」


 「仲間の不始末は(あたま)の俺の不始末だ」


 「お前のそういう所は嫌いじゃないが……金を渡して終わりだと本気で思っているのか?」


 「……」


 「()めておけ。一度渡したら最後だ。延々(えんえん)と(むし)り取られるのがオチだ」


 「やらかしたのはこっちの人間だ。誠意を見せる必要がある」


 「なら土下座しろ。気が済むまで殴られろ。それしかない」


 「……とっくにやったさ。暴力は無かったがな」


 「……」


 「もう謝って済む問題じゃねぇ。バカが年上女に()れ込んで事務所から金を持ち出しやがったんだ。女はそのバカに一服(いっぷく)盛って金を持ち逃げ……一人でどこかへ消えちまいやがった」


 「未成年者を(だま)すとは……2千万ポッチで……クズが!」


 「見抜け無かった俺の責任だ。トモキだけでなく、他の仲間も熱を上げていたが、俺だけは冷静なつもりだった。本当に気の利く美人だった。だが、裏があるのを俺はどこかで確信していたっていうのに……最初からトモキ(ごと)きに手に負える女じゃ無かったんだ」


 「……警察に相談しろ」


 「タレ込んだらトモキは殺される! そのぐらい分かんだろ! 俺はもう……二度と仲間を失いたくねぇ」


 「……」


 「トモキ(バカ)と連絡がつかなくなったのは三日程前からだ。おそらくどこかに監禁されているんだろう」


 「……言いたくは無いが、既に殺されている可能性は……」


 「動画が送られてきた。少なくとも昨日までは生きている」


 「見せてみろ」


 「どういうワケか、一度見たら跡形(あとかた)もなく消えてしまった」


 「チッ、厄介(やっかい)な……」


 「……お前はさっき、返しても返しきれない借りがあると言ったな? 本当にそう思っているなら黙って俺に金を貸せ」


 「沈みゆく者に救命胴衣を買う為の金を渡すバカは居ない。君にとっての救命胴衣そのものになり得ないのなら、僕は断固拒否するのみだ」


 「てめぇ……この口だけ野郎!」


 「うるさい、考え無しの脳筋が!」


 「……」


 「……お前はどこかで僕に(すが)ったんだ。常識で考えて払える筈のない金額を吹っかけられたってのに、お前は僕なら何とか出来るかもしれないと僕の事を思い浮かべたんだ」


 「そ、そんな事は……」


 「バカはお前だよ、タイガ。闇に潜んで生きる大人を甘く見るな。お前のその考えは既に相手にバレているぞ」


 「まさか……」


 「ただの高校生に……いや、お前は高校生では無いが、社会に出て間もない未成年者に、そんな法外な金額なんて用意出来るなんて最初(はな)っから思っちゃいないんだよ。おおかた代わりに違法スレスレ、場合によっては完全にアウトな仕事をさせようとでもしていたんだろう。未成年であれば前科がつかないし、実名がバレるような事も少ないからだ。ファイアスターターは無駄に人数も増えている。使い捨ての駒が大量に手に入るぐらいの考えなんだよ」


 「なんて事だ……もしその憶測(おくそく)が間違って無かったとしたら……俺は墓穴を……」


 「もう手遅れだ。どうせ君の事だ。払うアテがあるような事をほのめかしたんだろう? だとしたら考えても見ろ。向こうにしてみればカモネギもいいところだ。ノーリスクで金が戻ってくるんだからな」


 「クソッ!」


 「どんな奴らかは知らないが、覚悟をしておけ。闇に生きる大人は金の匂いには驚くほど敏感だ。どんな手を使っても毟り取ろうとしてくるだろう」


 「フハハハハハハ……ハハ……笑うしかねぇな……俺は愚かだ……能力にかまけて調子に乗ってるだけのガキだ」


 「……自棄(じき)になるな。まだ完全にそうと決まったワケじゃない」


 「(なぐさ)めはよせ。お前の考えは(まと)を得ている……思い返せばいつもそうだった……お前はいつだって正しい……今日の話は忘れてくれ。お前に迷惑はかけられねぇ。てめぇで蒔いた種はてめぇで何とかする。……すまなかったな」


 「どこへ行く? どうするつもりだ?」


 「……指でも()めれば、許してもらえるかねぇ?」


 「タイガ!」


 「……冗談だ。心配するな」






 「バカヤロウ……」






 「……リリィ、聞こえるか?」


 「……良好よ、イト」


 「話は聞いていたな? お前は消えた女を探せ。僕はタイガを監視する」


 「……了解」





 「タイガ……お前だけじゃないさ……僕だって同じだ……これ以上失ってたまるか!」


 静かな倉庫にイトの声が響いていた――



読んで頂いてありがとうございます。

ようやく仕事が落ち着いてきましたので、ペースを上げていきまっす!

次話は明日か、明後日か……

取り敢えずお待たせ致しません。

とか調子のいい事言ってみる……

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