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私立陣屋学園能力科  作者: みやもと なまにく
2章 超能力
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17話 珈琲茶房あおいや

17話 珈琲茶房あおいや


 「ここか? ヤケに(さび)れた喫茶店だが……」


 アキトはタケルからのメールに添付してあった地図と、目の前の寂れた喫茶店を交互に見ながら首を捻っていた。


 薄汚れた看板には、珈琲茶房(コーヒーさぼう)あおいやと書かれている。


 「間違い無いようだが……」


 不安に感じながら、アキトはそっと扉を開けると、カラン、カランと乾いた音が店内に響き渡った。


 「アキト! こっちだ」


 奥から聞こえてくるタケルの声にビクつきながら店内を見渡す。意外にも寂れた外観の割に店内は掃除が行き届いており、客こそ居ないが普通の小洒落(こじゃれ)た喫茶店のようだった。


 無駄に元気よく手を振ってアキトを手招きするのは、紛れもなくタケルだった。


 「タケル、なんだよここ? お前にしてはオシャレ過ぎだろ」


 「知る人ぞ知る名店なんだよ。と、言いたいところだが、奥さんに先立たれてやる気が無くなったおっさんが世捨て人の様に営業してる潰れかけのただの喫茶店だよ」


 「そ、そうなのか」


 「アキト、コーヒーでいいよな? オジサン、コーヒーをふたつ頼む」


 タケルはアキトに適当に確認すると、コーヒーをオーダーする。


 「お、おい。オジサンって……」


 「ん? 気にするな。ここのマスターは俺のおふくろの兄貴だ。本当に叔父さんなんだよ」


 「マジか! あんなオシャレなオッサン、お前とは全く似てないな!」


 「うるせぇよ! 誰にも言ってないんだからお前も喋るなよ! 叔父さんはアオイさん……奥さんを二年前に病気で亡くしてんだ。それからあまり人と関わらずにひっそりと生きてんだ。そっとしておいてやってくれ」


 「そっか、店の名前は奥さんの……」


 「珈琲、お待ちどうさま。タケル君、そのぐらいにしておいて欲しいね。もう二年だ。私だっていつまでも死んだような生活はしてられんよ」


 マスターがコーヒーをふたつ運んできた。タケルはバツが悪そうな顔をしている。


 「これは私の(おご)りだ」


 そう言ってアイスクリームの乗った皿をふたりの前に置く。


 「あ、ありがとうございます!」


 「なんだよ、叔父さん。コーヒー代は払えってのか?」


 「当たり前だろう。その辺の珈琲と一緒にするな。ウチのブレンドはアオイも好きだった最高のブレンドとローストだ。金を払わないなら直ぐに帰れ」


 「わ、分かったよ……社員割引に学割を乗せて頼むよ」


 「フン。そんなモノは無いが、特別に一杯目はサービスしてやる」


 「叔父さん! 話が分かるぜ!」


 「私の事はマスターと呼べ」


 「分かったぜ! マスター!」


 ふたりの会話をアキトは必死に笑いを堪えて聞いていた。


 「……美味いな。部室で飲むコーヒー以上だ」


 「言ったろ? ここのブレンドは最高なんだよ」


 「マスターが言ったんだろ……外観を小綺麗にすればいくらでも人が入りそうだけどな」


 「叔父……マスターは賑やかなのは好きじゃないんだ。本当にコーヒーが好きな客だけ来ればいいんだってよ。まあ、その結果お客が入らないんだけどな」


 「そうなのか……それより、タケル。話ってのはなんだ? わざわざひとりで来いって言うんだからだいたい察しは付くが……」


 タケルからのメールには絶対にひとりで来いと念が押してあった。場所も誰も、高校生であれば尚更寄り付かないような寂れた喫茶店なのだ。他人に聞かせたくない話なのは察しが付く。


 加えて丸一日眠っていたにも拘らず、あの事件以降犯人の話が一向に出ないのは、取り押さえたタケルが何かしら動いているだろう事は予想がつく。


 「……もうすぐ着く頃だ。まあ、美味いコーヒーでも飲んでろ」


 ――カラン、カラン


 タケルがそう言ったのも束の間、店の扉が開き乾いた音が響く。


 「……こ、こんにちは」


 「いらっしゃい。お嬢さん、おひとりですかな?」


 「い、いえ、人と待ち合わせを……」


 扉を開けてオドオドと店に入ってきたのは制服姿にメガネを掛けた真面目そうな少女だった。


 「委員長! こっちだ!」

 

 客が他に居ないから直ぐに分かりそうなものだが、タケルは必要以上に手を振りながら少女を手招きしている。


 少女はタケルに気づくと、そそくさとふたりのいるテーブルに近づく。軽いお辞儀をすると恥ずかしそうにタケルの隣に腰掛けた。


 「アキト、紹介しよう。彼女は俺のクラスの委員長、浦原(うらはら)サオリだ」


 「は、はじめまして……浦原サオリです」


 「はじめまして。大東アキトっす」


 「アキト、察しの通り彼女が一連の事件の……まあ、なんだ……犯人って事になるのかな……?」


 タケルは言い難そうにそう言うと、チラチラとアキトの反応を見ている。


 「……大東さん、本当に済みませんでした!」


 サオリは急に立ち上がると、涙目で頭を下げた。


 「……という訳なんだ。彼女は本当に反省している。どんな罰も受けると言ってる。必要なら転校も()さないくらい、重く受け止めているんだ」


 「当たり前だ! 殺され掛けたんだ。俺じゃねぇぞ? 御船がだ。今も入院してる……」


 「そ、それは……」


 「まあ、待て。お前の言いたい事は分かる。言い争いや弾劾(だんがい)の為に呼んだんじゃねぇ。まずは彼女の話を聞いてくれ。報復はそれからでいいだろ? 頭ごなしに責めてもお互いスッキリしねぇもんだ。遺恨(いこん)があるのはお互い分かってんだ。だから、お前だけを呼んだんだ。外野は要らねぇ。当事者同士でまずは話し合おうぜ」


 「……言い訳を聞かせる為に呼んだのか? 泣き落とす為に俺を呼んだのか? タケル、お前はどっちの味方なんだ?」


 「……俺はあくまでも中立だ。お互いの主張を聞くためにここにいる。言い訳と言われればそれまでだが……」


 タケルは真剣にアキトを見据える。話だけでも聞いてやってくれ、そう言っているように見えた。


 「……タケル君、もういいの……やっぱり私……」


 「待てよ、委員長。アキト、お前は委員長の何を知ってる? 名前を知っていたか? 隣のクラスで同じように授業を受けている事を知っていたか? どんな性格なのか、どんな事に興味があるのか、どんな事を考えてんのか知ってんのか?」


 「……」


 「大人の世界じゃ、やっちまった事はその代償を払うしかねぇ。みんなから、世間から袋叩きにあって、金も職も失って社会的制裁とやらを受けるんだ。ムショに入って不味い飯を喰うハメになるんだろう。だけど、俺らはガキだ。親に食わせて貰ってるただのガキだ。コイツへの制裁はすなわち親への制裁へと変わるだろう。それがコイツの反省を促す事にはなるんだろうが、俺はそんなモン、クソ喰らえだ! 俺たちは仲間じゃねぇか? 能力科に入れるヤツなんて極少数しかいねぇんだ。違うか?」


 「……それとこれとは違うと思うが、いいだろう。聞くだけ聞いてやる」


 「……すまねぇな。お前ならそう言うと思ってた」


 タケルに(ほだ)されてつい気が緩んでしまう。数少ない友人の頼みを一蹴する程アキトも鬼ではない。


 「……珈琲、お待ちどうさま。彼女にはコレを」


 そう言ってマスターがコーヒーとパフェっぽいものを運んでくる。


 「もちろん、サービスだよ」


 そう言うとマスターはカウンターへと戻っていった。


 「……じゃあ話して貰おうか……コーヒーでも飲んで落ち着いてからでいいからさ」


 アキトは若干不貞腐れながらコーヒーを口に運ぶ。香りが口いっぱいに広がり、荒んだ心を癒すかのようだ。


 「……あの……私は……」


 しばらく沈黙していたサオリが急に口を開いた。オドオドしながら、無理やり絞り出す様に声を出す。アキトは何も言わず、出来るだけ刺激しないよう表情を殺してサオリに注目した。


 「その……私は……マヤの……マヤの事が好きでした」


 唐突に百合宣言されたアキトは驚いて目を丸くしていた。


 「……分かっています。可笑しいですよね? マヤだって……受け容れてくれるはずないのに……あまつさえ、彼女に酷い事を……」


 「……」


 言いたい事は山ほどあるが、アキトは言おうとして口を(つぐ)んだ。感情的になってしまうと思ったからだ。サオリもそれを察したようで、


 「ありがとうございます……マヤは私の憧れでした。可愛いですし、スタイルも凄いし……何よりあの屈託のない明るい性格が、私なんかと正反対で……人気者なのも当然ですわ……彼女を独り占めしたかったんです……」


 涙を浮かべてそう語るサオリをじっと見ていた。タケルも口を挟むことは無く、サオリは続ける。


 「空気を操る能力を自覚したのは最近です。空気が読めない私が操る事が出来るなんて滑稽(こっけい)ですわよね……私はマヤに神聖さを感じていました。男が寄り付くのが許せなかった。ちょっと脅すつもりだったんです……悩んでいる事も知ってました。でも、悩みを相談してくれるのは本当に嬉しかった……幸せだった……まさか、あんな事になるなんて……」


 「あんな事って……お前がやったんだ! お前はそうやって何人不幸にしやがった!」


 「……分かっていますわ。許されない、許されるはずがない事ぐらい。ただ、動機を聞いて欲しいだけです……どんどんエスカレートしていって、取り返しが付かなくなっていった愚かな女の顛末ですわ」


 「どこかで止めるべきだったんだ! 下手したら死んでたんだぞ!?」


 「そうです。大東さん、そしてタケル君、あなた達が止めて下さったのです。本当に感謝しています。あのまま捕まらなかったら、私はいずれ人を殺めていたでしょう。能力とは恐ろしいものです。優越感と全能感に支配されてしまう……」


 「! 能力のせいにするな! お前の意志の弱さが招いた結果だ! そんな事だとまた繰り返すぞ! 能力のせいにして逃げるな! そんなの犯罪者の思考じゃないか! 俺は悪くない、悪いのは社会だとか、法だとか他人のせいにして逃げてるだけの、意思の弱い犯罪者の思考だ! ふざけるな!」


 「アキト! そのぐらいに……」


 「いいんです! その通りですから! 私が悪いんです! でも……何かのせいにしないと……私……ううぅ……」


 サオリはテーブルに突っ伏して泣き出してしまった。それでもアキトのイライラは止まることは無かった。


 「……委員長がこんなだから、俺が代わって説明しよう……委員長は御船を愛していたんだよ。嫉妬や独占欲もあったんだろうが、委員長はあのあと直ぐに自殺しようと自分に能力を使ったんだ。気絶して能力が解除されたんだが、ヤバかったんだ。愛していたから許せなかったんだ。御船の気持ちがお前に向いた事に……」


 「……言いたい事は分かった。だが、はいそうですかってワケには行かねぇ。別に警察に突き出すつもりはねぇが、記憶を消させて貰う。二度と能力を使えないように、記憶ごと抹消させて貰うぞ」


 「そんな事が出来るのか……?」


 「永遠にとはいかないかもしれんが、しばらくは使えなくなるだろう。それと、タケル。お前はなんでコイツの肩を持つんだ? ずっと違和感があった。変な下心があんのか?」


 「なっ! 何を……急に……そんなワケねぇだろ……ウチのクラスの委員長なんだ。居なくなると、困るからだよ……」


 カマをかけたアキトの言葉に、見事に引っかかっているタケルの姿がそこにあった。


 「なんでそんなしどろもどろなんだよ。顔にそうですと書いてあるようだぞ? 噂の金髪美少女の事はどうした? 落とすんじゃ無かったのか?」


 「おい! こんなところで言うことじゃねぇだろ!」


 「……ひとつ考えがある。俺はその女が許せねぇ。能力が使えなくなっても、性格が変わるワケじゃねぇからな。またトラブルを引き起こさないって保証もない。その上タケルまで味方に付けて調子に乗ってやがる」


 「そ、そんな……」

 「そんな言い方ねぇだろ!」


 「なんでタケルがキレてんだよ」


 「コイツは淋しかったんだよ! 俺たちと違って友達どころか知り合いも居なかったんだ! 御船が心の支えだったんだ! 突き放せば、もっと心が荒んじまうんだよ!」


 「じゃあ、お前がコイツの心の支えになれ」


 「へ?」

 「え?」


 「お前がコイツの側に居て、見張ってろ。くだらない考えを起こさないように、お前が側で監視しろよ。別に問題ないだろ? お前は彼女もいねぇし気兼ねなく監視できる。そしてコイツは男に興味がねぇから()()()も起きねぇだろうし」


 「なっ!」

 「わ、私は別にレズビアンとかトランスジェンダーじゃ……」


 「いいのか悪いのか、ハッキリしろよ!」


 「お、俺は構わねえ! 委員長を一人にはしておけねぇしな!」


 「わ、私には……拒否権は無いわ……」


 「なら決まりだな。タケル、頼んだぞ?」


 「おう! 任せろ!」


 こうして、タケルとサオリは何とも微妙な関係へと昇格した。アキトは何となくタケルがサオリに好意を抱いている様な気がして、アシストをしたつもりになっていた。満足気な顔でテーブルに五百円玉を置くと、


 「マスター! コーヒー美味しかったです! また来てもいいですか?」


 「いつでも……待っているよ」


 「あざっす! じゃあ、また」


 そう言って珈琲茶房あおいやを後にした。


 「……い、委員長……これから宜しく頼むぜ……?」


 「は、はいっ! タケル君、よ、宜しくお願いします」


 「今日はまたメガネなんだな……メガネ無い方がいいって言ったろ?」


 「タケル君がそう言うなら……今度コンタクト作りに行きましょう?」


 「お、おう。しゃーない。一緒に行ってやるよ!」


 照れながら話すふたりを、マスターが微笑んで見ていた。


読んで頂き、ありがとうございます。

遅くなってすみません……

多忙につきお察し下さいませ……

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