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私立陣屋学園能力科  作者: みやもと なまにく
2章 超能力
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14話 混乱と暴動

14話 混乱と暴動


 既に周辺はパニックと化している。あちこちから悲鳴が上がり、騒然としていた。


 「誰か! 誰か助けて! アキトンが!」


 マヤの(うった)えに耳を貸すものはおらず、一部の野次馬(やじうま)達が遠巻きに見ているだけだった。


 依然として呼吸ができないアキトはうずくまって苦悶(くもん)の表情を浮かべていた。意味もなく土を握りしめては、涙目で必死に呼吸をしようと口をパクパクと動かしている。


 ――近くに……近くにいる筈なんだ!


 アキトの思いは声にならず、誰にも伝える事が出来ない。インカムからの声にも、マヤの絶叫にも応える事が出来ず、苦しさと歯がゆさで頭がおかしくなりそうだった。


 「アキト! しっかりしろ!」


 異変を察知したユーリがアキトに駆け寄っていた。アキトを抱えて必死に声を掛ける。


 ミィナは周囲を駆けずり回り、怪しい人物が居ないか懸命に捜しているようだ。


 「誰なの!? 誰がこんな事! もうやめて! お願いだから!」


 マヤは泣きながら叫んでいた。顔をくしゃくしゃにして訴えかける姿は痛々しい。


 「森田! お前は何か知らないのか!?」


 タケルはマッチを問い詰めているようだった。マッチはまるで無気力で、相変わらずブツブツと聞き取れない言葉をつぶやいているだけだ。


 「クソッ! 一体どうなってやがる!」


 マッチを問い詰めても無意味だと悟ったタケルは、人だかりへと向かって走り出していた。


 「お願い! もう! もうやめて! やめてよっ! 卑怯者(ひきょうもの)! 出て来なさいよ! アキトンに何かあったら許さない! 誰だか知らないけど、絶対に許さない!」


 (わめ)き散らすマヤの隣で、アキトは自分が着けていたインカムをユーリに渡していた。インカムを受け取ったユーリは戸惑いながらも状況を理解し、リリィとミィナのやり取りを聞いていた。


 「ミィナ! 左の木の裏に二人!」


 「ニャニャ! 任せるニャ!」


 「俺にも指示を!」


 「! 後ろのベンチの影に人がいる! 問い詰めて!」


 「分かった! 任せろ!」


 それぞれが混乱しながら必死に駆けずり回る中、残されたマヤはアキトを抱き起こしていた。


 「アキトン! アキトン!」


 マヤは必死に名前を呼びながら、アキトをキツく抱きしめる。もがき苦しむアキトはマヤの腕を力一杯握り締めた。マヤは苦悶の表情を浮かべながら、こみ上げる怒りに身を任せる。


 「こんなのって無いよ! 私からアキトンを奪わないで! 憎いなら私を殺しなさいよ! こんな事をするような人に屈したりしない! 私の好きなアキトンに酷い事しないで! 誰にも邪魔なんかさせない! 私とアキトンの邪魔をしないで! 私に近づかないで!」


 号泣しながら叫ぶマヤが、アキトを更にキツく抱擁(ほうよう)したその時、


 「ブハッ! ガハッ……ハヒュ! ヒュッ……」


 顔面蒼白だったアキトの顔がみるみる真っ赤に変わっていく。


 「ハァ、ハァ、ゼェ、ゼェ……」


 呼吸が戻ったアキトは脂汗をかきながら、息を必死で整える。


 「も、戻った……! 死ぬところだったぞ! ハァ、ハァ」


 アキトは酸欠(さんけつ)でクラクラしながらも、直ぐに状況確認に努めようとする。悲鳴と怒号が鳴り響く中で、タケルの声が一際大きく響き渡っていた。


 「誰だ! お前か!? それともお前かァ!」


 「なんだ、てめえ!」

 「やっちまえ!」


 タケルは沢山いる男子生徒に片っ端から因縁(いんねん)を付けて回っているようで、数人の生徒と乱闘騒ぎを起こしているようだった。何発か殴られたのだろうか、左目は()れ上がり、口には血が(にじ)んでいる。


 あちこちで(ののし)りあいが始まっていた。タケルに触発(しょくはつ)されたのだろうか、押しただの、当たっただの、踏んだだのと理由をつけては小競り合いが起きている。


 「御船! もう大丈夫だ。すまねぇ、離してくれ……」


 ギュッとマヤに抱きしめられているアキトは、マヤに声を掛けるが反応がない。キツく絡まった腕は緩む事無くまとわりついている。


 頬と頬が触れ合い、柔らかな胸が押し付けられている。アキトはこんな時でもドキドキしてしまう自分に呆れていた。


 「おい、御船? 御船……!?」


 無理矢理マヤの腕を(ほど)いたアキトは驚愕する。マヤの顔は蒼白とし、苦悶の表情が浮かんでいた。口を大きく開け、だらしなくヨダレを垂らしていた。


 「おい! 御船! お前……まさか!」


 アキトに(ほど)かれたマヤの腕は直ぐに自分の首元に向かう。指が、まるでピアノを掻き鳴らすかのように首を掻きむしっている。


 「おい! しっかりしろ! 呼吸が、息が出来ないんだな!? クソッ! なんで! どうなってんだっ!?」


 アキトはミコに渡し損ねた4機目のインカムをポケットから取り出し、耳に突っ込むと、


 「リリィ! 状況は!? 一体どうなってやがる!」


 「アッキー! マッチはシロよ! 犯人は他にいる!」


 「そんなことは分かってる! どいつだ! どいつが犯人なんだ! 俺がぶん殴ってやる!」


 「捜索中ニャ! 数が多すぎてわかんニャいニャ!」


 「アキト! どいつもこいつもハズレばかりだ! どういう訳かあちこちで乱闘になってる! 犯人に心当たりは無いのか!」


 「ユーリ! そんなモノは無ぇ! クソッ! 早くしないと! 御船がヤバい!」


 マヤは地べたを這いずりながらもがき苦しんでいる。顔は血の気が無く、いよいよ白目を剥いている。


 ――ダーン!


 銃声がした瞬間、タケルと揉みあっている男子生徒が吹っ飛んだ。


 「なっ! リリィ!」


 「ゴム弾よ! 障害を排除してるだけ!」


 「障害って! 大丈夫なのか?! 吹っ飛んでるぞ!」


 ――ダーン! ダーン!


 リリィはアキトを無視して次々と狙いを定め、男子生徒を撃ち抜いていく。


 「リリィ、やめろ! なんて事だ……何だよ! このザマは! 収拾がつかねぇぞ! どこだ! どこにいるんだよ! 一体、誰が犯人なんだよ! 一体、何がどうなってんだ!」


 もはや暴動と化している状況にアキトが絶望にも似た感情を抱き、頭を抱えていたその時、


 「アキ! 犯人は男子だとは限りません! もしかしたら!」


 ミコが遠くで叫んでいた。


 「ミコ! まさか! いや……確かに俺は男だと決めつけてた……けど! 怪しい女子生徒なんて、そんなヤツ……」


 ぱっと見ただけでも女子生徒はほとんどが既に退避しているようで、混乱に(じょう)じて日頃の鬱憤(うっぷん)を晴らすように乱闘騒ぎを起こしている男子生徒で(あふ)れかえっている。


 「ミィナ! どこだ!? 来い! 御船を頼む!」


 「ニャニャ!」


 「アッキー! 11時の方向!」


 リリィに言われるまま前方を注視したアキトは、遠くで男子生徒に隠れるように位置どった女子生徒と思われる姿を発見した。


 「アイツか!? 御船! 待ってろ!」


 アキトは走り出していた。直ぐに女子生徒は気づいたようで、校舎に向かって逃げ出している。


 「気づかれたのか!? 逃げやがった! 誰か! そいつを捕らえてくれ! その、手袋をした女を!」


 アキトの叫びも虚しく、誰も意図を分かってくれないようで、女子生徒は人ゴミに紛れていく。


 「クソッ! 逃げちまう! リリィ! 狙撃だ!」


 「無理よ! 射線上に木があるわ!」

 

 「クソッ! 誰か! タケル! ユーリ! ミィナ!」


 「ニャニャー!」


 右前方から黒い塊がアキトに向かって急速に近づいている。直ぐに気づいたアキトは、


 「ミィナ! 来い!」


 アキトはバスケットボールでパスを貰うかの如く両手を広げる。


 ミィナはアキトの胸に飛び込んでいた。


 「ミィナ! お前の能力を見せてみろ!」


 「ニャ!? ニャニャ!? ちょ! まっ!」


 アキトは、抱きかかえたミィナを右手で肩まで上げたかと思うと、


 「逃がさねぇ! ミィナァ! ()って来いっっ! うおぉぉりぁああっっ!」


 間髪入れず、アキトは思いっきりミィナをぶん投げていた。


 「フニャニャァァァアアアァァァ!!」


 弾丸のように宙を疾走するミィナの先には、コソコソと人ゴミに紛れ、校舎へと向かう女子生徒がいる。ミィナは涙を流しながらも、空中で必死に体をよじりながら態勢を整える。


 「アキトォ! 動物虐待ニャァァ! 覚えとくニャァァァ!」


 文字通り一直線に女子生徒に向かうミィナ。空中で前足を限界まで伸ばし、柔らかな肉球で女子生徒の頭に触れようとしていた。


 「魅せてやるのニャ! いくニャ! 物質固定(フィクゼーション)ニャァァァアアア……!!」


 ギリギリで女子生徒の頭に触れたミィナは、そのままの勢いで校舎の中に飛び込んでいった。


 「!!」


 瞬間、女子生徒はピタッと動きが止まる。


 「タケルゥウ!! 確保ぉお!!」


 アキトの絶叫が響き渡る。


 「任せろぉお!!」


 タケルはそう叫ぶと、猛スピードで走り出す。ユーリは既に走り出していた。


 その場にいた生徒たちは、タケルやユーリがやろうとしている事を咄嗟に理解したようだ。まるで引き寄せられるように女子生徒に沢山の男子生徒達が覆いかぶさる。


 「捕まえた!」


 そうタケルの声が聞こえた刹那、


 ――ドウッ!


 「ぐはっっ!」

 「どわっ!」

 「うぎゃあ!」

 

 巻き戻しでも見ているかのように一斉に男子生徒達が弾け飛んだ。女子生徒から突風でも沸き起こったかのように見事に宙を舞っていた。


 「離して! たまるかよぉ!」


 既にしっかりと女子生徒の腕を掴んでいたタケルは、吹き飛ばされながらも更に力を込める。その手は掴んだままで、女子生徒と一緒に誰よりも勢い良く吹っ飛んでいく。


 「やべぇ!」


 タケルは空中で女子生徒を引き寄せると、胸にしっかりと抱き、やがて来るであろう衝撃に備えていた。


 ――ドサッ!


 「ぐおおぉ! 痛ぇ!」


 背中から地面に叩きつけられたタケルは、ゴロゴロと転がりながらもしっかりと女子生徒を抱き、離すことはなかった。


 

読んで頂いてありがとうございます。

次こそ、なるべく早く投稿したいと思っております。

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