11話 優柔不断
11話 優柔不断
「……というワケなんだが……タケル、どう思う?」
「はぁ? なんだよそれ、自慢か?」
翌日、アキトはタケルに相談していた。自分が考えた計画の補佐、つまり噂を広める為の協力を求める傍ら、ミコとマヤについての率直な感想を聞いていた。
「大体の状況は飲み込めた。実験と称して御船にガチ告白してみたら、御船のハートに火を着けちまった。丸井と御船の二人に言い寄られてボクちゃんモテモテ、迷っちゃう!? って事か? ふざけんな!」
「バカ! 声がでかいよ! そして、そんなつもりはねぇ!」
タケルはイラついてるようだ。いや、呆れているだけかもしれない。
「タケル、真面目に聞いてくれ! こんな事、お前にしか相談出来ん」
「俺は至って真面目だ! 真面目にイラついてる」
「だから、俺もこんな事になるなんて思っても見なかったんだって! 俺は御船は本気なのか、試しているのか迷うだろうと予想してたんだよ! 俺の告白云々よりも、その後俺に何らかの不調があるか無いか、そっちの方を気にするだろうと思い込んでた。笑い話で済む筈だったんだ!」
「……そんで、アテが外れてマジでお前を意識しだしてるって? もう一度言わせてもらう……ふざけんな!」
「だ、だから、声がでかいよ!」
やはりタケルは相当にイラついているようだ。腕を組んで歯を食いしばるように悔しそうな顔をしている。
「タケル、言っておくが、俺には本当の事は分からないんだ。これはミコが言ってたんだ。御船の様子がどうもおかしいと。どうも俺の告白を真剣に考えているようだと」
「はぁ……当たり前だろ! 告白されれば真剣にもなるさ! しかも相手は友達の彼氏っぽいポジションのヤツとくれば、悩むのは当たり前だ! 告白を受け入れるとか、好きになるとか云々は別としても、意識ぐらいはするだろうよ!」
「……そうか、そうだよな」
「ここからは想像でしかないが、女の勘を侮るな。丸井だってれっきとした女だ。しかも、自分の……大事な男の問題なんだ。アイツがそんな事を言うって事は、御船がお前を男として意識している、又は意識しだしているってのは間違い無いだろう。どうすんだ? 今なら押せばイケる可能性が高いぞ?」
「い、イカねぇよ! てか、イケねぇよ! ミコに何て言うんだよ!」
「……お前はどう思ってんだ? お前は丸井と付き合ってんのか? 御船に乗り換えようとしてんのか? どうなんだ?」
「人を電車のように言うなよ! 乗り換えるとか乗り換えない以前に、俺はまだミコにも乗れてねぇ……」
「……お前……そんな明け透けに……」
「ち、違うぞ! 乗るってのはそういう意味じゃ無い! ちゃんと告白というか、そういう手順というか……兎に角、ハッキリと思いを伝えていないというか……なんというか……」
「丸井も大変だな……」
タケルがボソッとつぶやいた言葉には、明確な呆れを含んでいた。
「俺が優柔不断なのは認めるよ……なんというか、別にハッキリと言わなくても今の関係で居られれば、それで……」
「逃げてるだけだろ。相手はいつだってハッキリと言って欲しいもんさ」
「……」
「まあ、丸井はお前にベッタリだしな。別に御船にアタックして、ダメなら丸井に行けばいいだろ」
「! お前なあ! ミコを何だと思ってやがる!」
「……お前がやろうとしてる事は傍から見てるとそういう事だぞ?」
「!」
「丸井や御船との関係をこじらせたく無いなら、ハッキリさせる事だ。丸井が好きなら好きだと言ってやれ。御船が好きなら当たって砕けろ」
「……砕けちゃダメだろ……」
「この俺如きが幸せ絶頂なアキトきゅんに言える事はそんだけだ。お前のようなヤツは最悪な選択をしかねん。どっちにもいい顔をして、どっちにも愛想をつかれるなよ? 二兎追うものは……ってヤツだ」
「俺にそんな甲斐性なんかねぇよ」
「ふん! じゃあな、俺はもう行く。全く、お前に噂の事を話した俺が間違ってたんだ。しょうがないから取り敢えず、噂は流してやる。三日後だ……三日後の放課後に告白する気らしいって事でいいだろう。それまでになんとかしろ。丸井が大切なら、御船にちゃんと説明しろよ?」
「……分かってるよ」
「噂の流布は俺に任せろ。やると言ったからには完璧にこなしてみせるさ。もちろん、森田の監視もしてやる。彼女もちの信頼できるヤツにだけ協力を仰ごう。じゃあな!」
タケルはヒラヒラと手を振りながらどこかへ行ってしまった。
アキトがタケルに最も期待した助言は、マヤに真実を打ち明けるか否かという一点に尽きる。真実を打ち明けてもなお、協力してくれるだろうか、それとも打ち明けずとも計画に支障は無いだろうか、という不安からだが、案の定ハッキリとした助言は引き出せ無かった。
それどころか、アキトにとっては余計に頭を抱える結果となってしまった。
「……どうしたもんかねぇ。御船とまともに会話出来る気がしねぇ……全く、何を意識してんだか……女の勘だって? 御船が俺を好きになるなんて無い無い! どうせミコの早とちりだ。全く、アイツはいつも……取り敢えず声だけ掛けてみるか。話の流れでサラっと言ってやろう。わりぃ、アレは実験だった。ってな……うん、イケる気がしてきた」
アキトは半ば自暴自棄になり、考えるのをやめた。そして、当たって砕けるが如くマヤを探しに行くのだった。
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「おーい! 御船ー!」
校門で帰宅しようとしていたマヤを見つけたアキトは、一瞬躊躇しながらも勇気を振り絞って声を掛けた。
「! アキトン!?」
「よ、よお……今、帰りか?」
吹っ切れたつもりだったが、本人を目の前にすると否が応でも意識してしまうアキトがいた。
「どどど、どうしたのかなぁ? アキトン……」
意識しているのはマヤも同じなようで、完全に目が泳ぎ、しどろもどろになっている。
「い、いや、ほら、たまたま見かけてさ、声を掛けた次第なんだよ、うん」
「そそ、そっかぁ。アハハ……」
「そ、そうだぞ……ゴホン……」
「……」
お互い妙に意識してしまい、言葉が出てこない。アキトはまともにマヤの顔を見る事が出来ず、目線が定まらない。
マヤは下を向いてしきりに自身の髪の毛を弄りたおしていた。
「そ、そう言えば、この前休んでたんだって? 具合でも悪かったのか? 体の調子はどうだ?」
「うん、大丈夫だよ? 心配してくれて、ありがと……」
「そうか、良かった。そう言えば、アレから何ともないぞ!」
「え? アレ……ねぇ……」
そう言うと、マヤの顔が急激に紅潮していく。
「いや、ほら、まだ気にしてたらなって……」
「うん。アキトンのおかげでホントに救われたよ……どんなにお礼を言っても言い切れないぐらい」
「俺は大した事はしてないよ。ただの偶然に過ぎないよ。それで……」
「うん。アキトン……」
「……どうした?」
「あのね……わたし……アレからいっぱい、いっっぱい考えたの……それでね……」
ヤバい。この流れはヤバい。そう悟ったアキトは、
「御船! 俺はあの時、精一杯の気持ちを伝えた……伝えたいと、そう思ったからだ。だけど、なんでだろうな。勇気が出ないんだ……怖いんだよ。聞きたいけど聞きたくない、知りたいけど知りたくない自分がいる……だから、三日後! 三日後の放課後、中庭に来てくれ。そこで、もう一度、俺の気持ちを聞いて欲しい。そして……お前の気持ちを聞かせて欲しい……」
アキトはしっかりとマヤの目を見てそう言った。
「……うん」
マヤはしっかりとアキトの目を見てそう頷いた。
校門でマヤを見送ったアキトは呆然としていた。
「……やっちまった……」
死んだ魚のような目でそう言ったアキトは、はっきりと自分の優柔不断さと不甲斐なさを自覚していた。
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