10話 作戦会議
10話 作戦会議
「で? どうだったんだ?」
「なかなかに骨の折れる相手でした……」
ミコは顎に手を当て、何事か考えているようだ。何だかイラついているように見える。
あの後ミコは、結局サオリとは和解出来ぬまま解散となってしまった。
「なんだ? 御船とケンカでもしたのか?」
「……マーヤとはしていませんよ。ですが、そちらも厄介な事になりました」
「ワケが分からん!」
「こっちの話です。女同士の……アキには関係ありません」
「そうか……だが、いい加減報告を頼む。どうだったんだ? 御船と、べーやんとの接点はあったのか?」
「……誰ですか? それは?」
「いやいやいや、わかれよ! 田辺とかいう水泳部員だよ! お前は何しに御船の家に上がり込んだんだ……」
「あぁ、そんな事ですか。大丈夫ですよ。ちゃんと接点はありました」
「なに!? 本当か?」
「はい、マーヤはテニス部に入部する前、水泳部に見学に行っています。部活をしながらダイエット出来ると考えてたようです」
「そうなのか……なんで水泳部を辞めてテニス部にしたんだろう?」
「……あまり女子の秘密に深入りするものではありませんよ」
「ま、まあそうだな。水着が恥ずかしいとかそんなところだろう。今回の件とは関係無いしな……ちょっと見てみたかった気もするが……」
「……それで、アキはどう考えているのですか?」
アキトは急に声色が変わったミコの顔を恐くて見る事が出来ず、気づかない振りをして続けた。
「そ、それなんだが、俺はこう考えている……」
アキトは事件を解明しようと自分なりの推測を立てていた。ミコの報告はアキトの推測に何ら支障をきたすものではなく、むしろ想像通りといったところだった。
「恐らく一連の事件には御船では無い犯人がいる。そしてその犯人は御船に好意を抱いていると見て間違い無いだろう」
「私もそう思います。つまりマーヤの事が好きな犯人がマーヤに近づく者に、何らかの能力のようなものを使って……」
「そういう事だ。能力はざっくり言うと空気を操るような、そんな能力じゃないかと思う。窒息や何も無いのに人を突き飛ばすっていう事象に説明がつく。まあ、あくまで予想だけど」
「なるほどです。可能性は高そうですね」
「つまり犯人像として上がるのは、能力科で御船に好意のある男子生徒……」
「この間言っていたストーカーというのは……?」
「アイツは……バッチリ条件に合致する」
「ではやはり……」
「最も犯人である可能性が高い人物と見て間違い無いだろう」
アキトはマッチが犯人ではないかと睨んでいた。得意のストーキングでマヤに近づく者を片っ端から能力で排斥していたのでは、と内心疑っていた。
「でも、アイツがそんな事出来るようには思えないって考えている俺もいる。というか、確信が無いのに疑うのもどうなんだろう」
「アキは優しいですね」
「……違ったら可哀想だしな。案外憎めないヤツなんだよ。アホだけど。でもアイツが何の攻撃も受けていない事に説明がつかない。真っ先に標的になりそうなのに……」
「では、こう考えましょう。誤った道に進もうとしている友人を引き止めるんです。引き返せなくなる前に」
「……そうだな。そういう事にしよう。だが、アイツは友人では無い。知人って事で」
アキトは覚悟を決めていた。
*****************
翌日、アキトとミコは部室に来ていた。アキトが考えた、ある計画を実行する為に部員の力を借りようとしていた。
「……その計画とやらを聞かニャい事には協力するとは言えニャいニャ」
「それはこれから話す。ちょっと無謀というか、目立ち過ぎるから本当はちゃんとした人選をしたい所なんだが……」
「ミィニャもリリィもかわいすぎてどうしても目立っちゃうのニャ……かわいいは罪ニャ」
「俺の計画はこうだ……」
「ちょっとぉ! 人のはニャしを聞きニャさいよ!」
「うるせぇ! お前は人じゃなくて猫だろ!」
「アッキー、ミィナを虐めないで」
「リリィも甘やかすな! 話が進まねぇ!」
「アキ、落ち着いて下さい。今回はイトさんの協力は得られません。この4人でやるしかないんです。ケンカしてる場合ではありませんよ?」
「ミコ……分かってる……けど……ああ! もうしょうがねぇ! どのみち2人じゃ無理があるからな。今はまさに猫の手も借りたい時だ。何でも手伝うって言ってくれた時は本当に嬉しかった。ありがとうよ!」
「どういたしまして。じゃあ、話してくれる? ミィナの口は私が押さえておくから」
リリィに口を塞がれたミィナは苦しそうにもがいている。
「そうだな。現在の状況はさっき話した通りだ。その上で、俺がもう一度御船に告白しようと思う」
「どんだけ告白好きニャのニャ……」
「……」
「ごめんなさい。今のは私のミスね。大丈夫、次は首を絞めるから」
「ニャニャ! リリィ、 悪かったニャ! 反省してるニャ! 本当だニャ! そんな目をしニャいで欲しいニャ……」
三人から冷たい非難の眼差しで見られたミィナはシュンとしてしまった。
「……話を続けるぞ。御船にも協力してもらうつもりだ。前回の告白の理由を話す。そして俺に何も変化が無かった事を分かってもらうんだ。一連の事件は御船に責任が無いという前提で、もう一度、今度は公の場、つまり大勢のギャラリーの前で告白する。」
「人前で……?」
たまらずリリィが口を挟んだ。
「そうだよ。俺が告白するって噂を流すんだ。場所と時間を指定して、犯人をおびき出すんだよ。そんで、いざ告白ってなった時、俺に能力を使った奴を取っ捕まえるって作戦だ」
「……噂を聞いた途端に攻撃を受ける可能性があるわ」
「そこは上手いこと噂を流すさ。何か話があって呼び出したぐらいに。後から尾ひれを付ければいいんじゃないかな? 半信半疑で攻撃なんてしないだろ?」
「そんニャ上手くいくかニャ?」
「別に先に攻撃を受けたって良いんだ。常に警戒してれば告白前に証拠を押さえられる。 最悪取り逃しても命までは取られないだろうし、何度攻撃されたって諦めずに告白までもっていければ何ら問題は無い」
「……リョウさんは死にかけましたよ? 未だに入院してます。危険すぎます!」
「多少の危険は仕方ないよ。だけど、補って余りある程のメリットがある」
「……今の所はデメリットしかニャいようニャ……?」
「そんな事は無いだろ! 俺は犯人に心当たりがある。つまり、マークする奴は一人で良いんだ。もし違っても、噂を聞いて人が集まった時には絶対に近くに潜んでいる筈だ。リリィ、お前が能力を使う上で一番苦労した事はなんだった?」
「え?」
急に問われたリリィは驚いて目を丸くしている。アキトはそんなリリィに目もくれず、
「座標の指定、イトはそう言っていた。だから必ず近くにいる。そして能力を使う時は体の一部が発光する。淡い光だが、見逃す筈がねぇ。俺は告白しながら犯人を煽りまくってやるつもりだ。怒りで我を忘れて能力を使っちまうぐらいに!」
聞けば聞くほど浅はかさが見え隠れするが、アキトの決心したような目と語り口調には妙な説得力があった。
「それに、御船は噂のせいで変なあだ名を付けられてる。大勢の生徒達の前で根も葉もない噂だったんだって見せつける必要があるんだ。汚名を返上させてやる!」
アキトの言葉に三人は吸い込まれていくようだった。
「更に、自然科学部の宣伝効果も見込めるだろう。今や噂は学園中に広まっている。御船の不本意なあだ名、リョウ先輩の発狂、次々と保健室に運ばれる謎の窒息患者。これを一つの事件として公の場で解決すれば、自然科学部の評判も上がるんじゃないか? その上で生徒会に嫌がらせを受けていると吹聴すれば、こちらが被害者の立場を確立出来るんじゃ? そうなりゃ自ずと味方をしてくれる生徒が増えると思うんだが……」
「……意外ニャ。アキトのクセにニャかニャかだニャ」
「……そう上手くはいかないとは思うけれど、チャレンジしてみる価値はあるわ」
「……確かに……怖いですが……」
「もちろん、ギャラリーが多いほど変な噂が立ちにくいってメリットもあるぞ」
アキトは三人の顔を順番に見つめ、異議の無い事を確認すると、パンッと手を叩く。
「決まりだ! 早速作戦会議と行こう」
何だかイケそうな気がする。そう思った時に直ぐに行動を起こすのがアキトだ。周りを巻き込んで、その気にさせる。
「まずは御船だ。この前の俺の告白がある種の実験だった事を説明しなきゃならねぇ。そしてこの作戦の重要な役割を演じてもらわないとな。この説明役は、ミコ、頼めるか?」
皆、ミコに注目する。ミコは暫く押し黙っていた。うつむいて、拳をギュッと握ると、
「……でき……ません……」
「! なんでだよ! この役はお前にしか頼めないんだぞ?」
「……マーヤは悩んでいます……アキの事を本気で……彼女は私達のように軽い気持ちでいる訳ではないんです」
「え……?」
「……言えません! 簡単に言わないで下さい! マーヤは……マーヤを騙すような事をしていたなんて、私の口からは言えません……マーヤのあんな顔を見てしまっては……アキの言葉が嘘だったなんて、とても……」
「……お、おい……」
「軽く考えていたんです……マーヤの為だって、自分に言い聞かせて……終わってしまえば笑い話で済むんだって……でも、マーヤはアキに惹かれはじめているんです! 私には……そんな無神経な事は言えません……」
「そんなバカな話が……そ、そうだ! ミコ! お前の能力で、御船の記憶を消そう! そうだよ! 元からそのつもりだった! 困った事が起きても俺たちには能力があるんだ!」
「マーヤの気持ちを無かった事に出来るんですか? それこそ彼女の気持ちを、想いを踏みにじる行為です。それに私の能力、記憶喪失は完全ではありません……」
ミコの意思は固いようだった。唇をキュッと結び、どう取り繕おうとも首を縦に振る姿を想像できなかった。
「……わかったよ。御船には俺から説明する……考えてみれば、それが一番だ。ミコ、すまない……」
ミコはどうしたらいいのか分からなくなっていた。自分の気持ちと、マヤの想い。あの時アキトの実験に賛同してしまった事を悔やんでいた。
ただ、同じ恋をする者を身勝手に扱う事だけは、どうしても許せなかった。
読んで頂いてありがとうございます。
次もなるべく早く投稿させて頂きます。
よろしくお願いします。




