9話 一人暮らし
大変お待たせ致しまして、誠に申し訳ありません。
それでは、お楽しみください。
9話 一人暮らし
翌日の放課後になり、マヤの様子を伺いに行ったミコが戻ってきた。
「アキ、今日はマーヤはお休みしているそうです……」
「そうか。この間の告白が効いてるのかな……?」
「そうかも知れません。アキは何とも無いのですか?」
「ああ、すこぶる快調だよ。いよいよ御船の能力原因説は消えたと考えて良さそうだな……」
「昨日アヤコ先生に聞いた件についてはどう考えますか?」
「うーん、一人は普通科のテニス部所属だったからな。御船と接点があると言えるだろう。あと一人……この間保健室で鉢合わせたヤツは普通科で水泳部って話だからな。こっちはぶっちゃけ接点が無さそうだけど……」
昨日、あの後保健室へと向かったアキトとミコは、アヤコから保健室へと運ばれた二人の男子生徒の情報を得ていた。一人はテニス部所属だ。マヤと繋がる。そしてもう一人、学科も部活も違う生徒に何らかの接点があれば……という事だ。
「それはそうとミコ、お前やたら御船と仲良くなってたよな?」
「アキ! そ、それは嫉妬ですか!? 大丈夫ですよ! 私は浮気はしません!」
「アホか!」
「す、すみません……興奮しました。でも安心してください。私は異性愛者です!」
「……その割にいつもリリィとイチャイチャしてるよな! うらやま……いや、どうなんだ!?」
「テヘ」
てへぺろったミコにツッコミを入れるか迷ったアキトだが、調子に乗るのが目に見えるようで気にせず続ける。
「……まあ、そんな事はどうでもいい。御船が休んでいるならそれはチャンスだ」
「どういう事でしょう?……! まさか、弱ってるのをいい事に……アレやコレ……」
「ミコ、いい加減にしろ! どうしたんだ? 誰の影響だよ! リリィか? ミィナか? それともイトか? やっぱりおかしなヤツらとつるむとおかしくなっちまうのか? 恐るべし!」
自然科学部に出入りするようになってクセの強い面子とつるむ機会が増えたからなのか、それとも長年の隠し事が無くなって胸のつっかえが取れたからなのかは分からないが、ここ最近のミコは元気を取り戻していた。と同時に本来の面倒臭いミコがちょこちょこ顔を出し、アキトはツッコミ疲れを感じる程になっていた。
「まあ、元気がいいのはいい事だよな……」
「元気があれば何でも出来たりします」
「……まあそうだな。兎に角、一番手っ取り早い方法で行く事にしよう」
「何をするですか?」
「お見舞アゲインだよ! 友達が休んだ時には見舞いに行くもんだ。女子なら尚更だろ? ミコ、御船の家に特攻だ! 部屋まで上がり込め。お前が行くんだ」
「おぉ! ぼっちが考えそうな事ですが、それは役得ですね! マーヤの部屋……グヘヘ……」
「……おい、ちっちゃいオッサンが出てきてるぞ……くれぐれも感づかれるなよ? 俺が告白した事を知らない体でいるんだぞ?」
「それは……なかなかハードなミッションですね……それで、接触してどうするんですか?」
「決まってる。直接接点を聞いてくるんだ。1年普通科、水泳部の田辺ヨシヒロ、通称べーやんとの接点を! 折角のチャンスだ。ついでに色々と探りを入れてこい。例えば……カップサイズ……いや、なんでもない!」
「い、イエッサー!」
「どうしてもやりにくいなら俺の告白が実験だった事を、もうバラしてもいいだろう。俺が勝手にやった事にすればいい……」
「イエス、サー!」
「でもでも、もしそれで、御船が俺の事を酷く非難するようなら……更に言うと、顔も見たくないなんて事になったら……ミコの能力で御船の記憶を消して貰っても……いいですか……?」
「い、イエス……サー?」
「違うんだ! べ、別に御船に嫌われたく無いとか、そんなんじゃ……」
「……分かってますよ。私だってそんなの嫌です、サー」
「……で、ではサージェントミコ、作戦開始だ……」
「サー、イエス、サー!」
アキトはホッとしながらミコに任せる事に決めていた。
「……ホントに大丈夫だろうか……?」
こうして、二人は既にマヤの担任にリサーチ済であるマヤの家へと向かうのだった。もちろん、手土産を買うのも怠りはしない。
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「……ここだな」
「……ここですね」
マヤは一人暮らしをしているらしい。年季の入ったアパートメントといった景観で、とてもじゃないが花の女子高生に似合うようなモノでは無かった。
「……思ったよりも寂れてますね」
「そうだな。寮が出来るまでのツナギだそうだが……」
現在、私立陣屋学園は学生寮を目下のところ建設中なのである。全国各地から能力科の生徒を集めている割には、土地の確保が難航していた。ようやく抑えた土地も爆発事件で一旦建設を中止せざるを得ないなど、思うように進まなかったようだ。
政府から補助金を得てはいるが、その分能力科は学費免除としている為、先立つものが無かったという側面もあった。更には能力科ばかり優遇し過ぎだという批判も今なお根強い。
「都内の家賃は地方出身者には信じ難いでしょうね」
「……どんな所でも一人暮らしってのは憧れるもんだけどな。俺も早く……」
「アキ、あの部屋のようです」
「あ、ああ、ではサージェントミコ、健闘を祈る。俺はその辺で時間を潰してるから、作戦が完了した時点で連絡しろ」
「イエス……分かりました。それでは!」
ピッと敬礼してから、ミコはアパートへと潜入していった。
「さて、と。どこで時間を潰そうかねぇ……」
――コンコン
ミコはインターホンすら設置されていないマヤが住む部屋の扉をノックする。
「は、はい!? どちら様ですか?」
一瞬間をおいて中から返事が返ってきた。なかなかに元気そうな返事に驚く。
「丸井です。ミコです」
「え!? ミ、ミコタン!?」
急に中が騒がしくなる。何やら話し声がするようだ。
――ガチャ
扉を開けて、私服姿のマヤが顔を出す。少し不安そうで心なしか申し訳無さそうな顔だ。ラフな格好でも主張を忘れない胸元に目がいく。
「むぅ……マーヤ、元気ですか? お休みしたと聞いてお見舞いに来ました」
「ミコタン……どうして? どうしてここが分かったの?」
「A組担任の賢木先生に聞きました。見舞いに行くと言ったら教えてくれましたよ?」
「そ、そっかぁ、こんな所で立ち話もなんだから、よ、良かったら入って!」
マヤはいつもとは違ってよそよそしく、目が泳いでいる。アキトの告白が効いているのは間違いなさそうだった。
「マヤ? どうしたの? 来客は誰だったのかしら?」
部屋の奥から声がする。ミコが覗き込むと一人の見慣れぬ女子生徒がいた。
「サオリン、ゴメンね。お友達が……紹介するね」
どうやら先客がいたようで、サオリンと呼ばれた女子生徒は不安そうな顔でミコを見ていた。
「ミコタン、彼女はA組委員長のサオリン」
サオリンは居住まいを正すと、
「ど、どうも……浦原サオリです」
サオリは委員長という肩書き通り、メガネを上げ、ビシっと丁寧なお辞儀をしてみせた。
「サオリン、彼女はB組のミコタン」
「ど、どうもです。丸井ミコです……」
緊張していたミコはつい敬礼してしまい、慌てて顔を赤らめていた。
「と、取り敢えずミコタン、上がって!」
お互いに自己紹介を済ました所で、マヤがミコを部屋へと案内した。
「じゃ、じゃあ私はこれで失礼しようかしら……」
サオリは初対面のミコにどう絡んでいいのか分からないのか、退出しようとする。
「ダメ! サオリン、帰らないで!」
「マ、マヤ? どうしたのかしら?」
「ほ、ほらほら、折角だから仲良くなって欲しいなって……」
自分と二人きりはキツい、そう考えているのだろうという事がミコには手に取るように分かった。マヤの為とはいえ、騙しているような気がして心が痛む。
「そうですね……折角マーヤを介して知り合えたのですから、三人でワイワイしましょう」
「そうね……ミコさん、貴女の噂は聞いています。とても優秀だそうですね……そして、男性と同棲している……とんでもない話ですわ! その件について色々と問い詰めたいと常々思っていた所です」
サオリはクイっとメガネを上げ直し、ミコを見る。
「……いいでしょう。かかって来るが宜しくて、です!」
ミコはお気に入りの右下勢独立の動作から片足立ちで構えている。
「え? ちょ、ちょっと! 二人ともどうしたの!? それと、ミコタン、パンツ見えてるよ?」
ミコとサオリはお互いを睨み合い、ニヤリと同時に表情を崩すのだった。
「もう! ワタシん家で何するの!? 仲良くして! 直ぐにお茶を淹れるから! 大人しく待っててくれないと怒るんだからね!」
マヤは涙目で懇願する。ミコとサオリは慌ててマヤをなだめる。
「マーヤ、冗談ですよ! 冗談!」
「そ、そうよ、マヤ! 気が合うだけなのよ!」
「……ホントに?」
二人ともマヤの渾身の上目遣いには勝てないようで、
「ハイ!」
「もちろんよ!」
「それならいいの。待ってて! くれぐれも仲良くっ、だからね!」
そう言うとマヤはキッチンへと向かおうとして立ち止まった。
「ミコタン……今日はアキトンと一緒じゃないの?」
「……はい。どうかしましたか?」
「いや、元気かなって……」
「元気過ぎて困ってるぐらいです」
「!? だ、大胆なのね……」
「! いえ! そういう意味ではありませんよ!?」
「あはは、そうだよね。でも、良かった。じゃあ、仲良く待ってて! 仲良くね!」
そう言って今度こそマヤはキッチンへと消えていった。
「チッ……一時停戦ですね」
「そうね……また今度にしましょう。マヤをキズ付けたく無いですわ」
会って間もないが、ミコはサオリを苦手に感じていた。自分を見る目がどこか値踏みするようで、心を開く気が微塵も感じられなかったからだ。極度の潔癖症といった感じで、時折見せる汚い物を見るような目に苛立ちを感じていた。
マヤがコーヒーを持って戻ってからも、サオリはマヤにベッタリで、なるべくミコに絡もうとはしなかった。
「……男子と同棲しているのがそんなに気に食わないですか……?」
「当たり前よ! 汚らわしい! 毎晩……ひとつ屋根の下なんて……」
「……アキと私はそういう関係ではありません。幼馴染で、姉弟というか……」
ミコの話にもサオリのミコを見る目に変化はなかったのだが、
「そうなんだ……」
マヤが急にそう言って少し嬉しそうにするのを見たミコは、ハッとした。サオリに気を取られ、マヤの事を失念していた。コーヒーを飲みながら遠くを見るように、
「そっか……」
と、そうつぶやくマヤの顔を見たミコは、疑念が確信へと変わっていくのを感じていた。
読んで頂いてありがとうございます。
仕事が繁忙期につき、こんなにも遅れてしまいました事、お詫び致します。
次こそ、なるべく早く投稿させて頂きます……




