7話 超能力研究会
回想です。念の為。
あと、グロテスクな表現があります。
注意願います。
7話 超能力研究会
――1年程前
「では、ここに超能力研究会をただ今より発足致します!」
「よっしゃ! こんなめでてぇ日は飲もう! と言っても未成年らしくコーヒーだけどな!」
「直ぐに用意するから待っててねん」
1年生の長南イトの呼びかけによって新設された超能力研究会は、超能力の可能性を模索するという目的の為に作られた……というのは表向きで、理事長の計らいで部室棟の空き部屋を住居としてあてがわれたイトが、大義名分の為に創設したと言っても過言ではない。
部として認められていないサークル活動ではあるが、活動する事で部室から追い出されないように体裁を整えるという意味合いが大きかった。
創設メンバーは長南イト、長南リリィ、恩田タイガ、そして小牧野ミナの四人だ。全員が能力科1年A組のクラスメイト(リリィは初日から不登校であったが)であり、全員が能力者だった。
イトとタイガはサークルのリーダーをミナに押し付けた。真面目でしっかり者、その上明るく社交的なミナはクラス委員を任され、生徒会の手伝いにも顔を出す程の優等生だったからだ。
四人は毎日部室に入り浸り、趣味や勉学の時間にあてたり、他愛のない話で盛り上がったりと、高校生活を謳歌していた。
ひと月ほど経ったある日、ミナが一人の男子生徒を連れてきた。
「はじめまして! 僕は2年3組、一葉ソウジ、見学させてくれないか!」
「みんなゴメンねぇ、どぉしてもってゆうからさぁ、連れてきちった!」
「……ミナ、せめて事前連絡して欲しいね」
「そうだぞ! 先輩に何のもてなしも出来ねぇじゃねーか!」
「小牧野を責めないでくれ! 僕が勝手に付いてきたんだから!」
ソウジと名乗った2年生は笑顔の絶えない人当たりのいい好青年といった感じだった。普通科所属の無能力者であったが、人一倍超能力に対して関心が強かった。
「……どうだ? イト?」
「……ああ、悪いヤツじゃ無さそうだ。少なくともスパイではないね」
「そうか、お前が言うんだから間違い無いんだろう」
「それと、ミナに気があるようだね」
「それは見てれば分かる」
「なに? タイガ……お前、そんなナリして凄いな」
「うるせぇ……」
「何をコソコソしてるんだい? 僕の事は先輩だなんて思う必要は無いよ! 気軽にソウジって呼んでくれて構わない。それで、君がイトでそっちのデカイのがタイガだろ? あそこで黙々とゲームをしてる金髪の女の子は誰なんだい?」
「……彼女は僕の妹のリリィだよ。ちょっとばかし心に問題があってミナと、たまに餌をたかりにくる野良猫にしか心を開かないから、そっとしておいて欲しいね」
「そうなのか……ではそうしよう」
その日から何かと部室に顔を出し、差し入れという賄賂を使って取り入ったソウジと超能力研究会の面々は急速に仲良くなっていった。
そして数ヶ月が経ち、季節もそろそろ冬に差し掛かろうとしていたある日、
「ミナ、今日はソウジは来ないのかよ?」
「うん、なんか生徒会の仕事があるんだって」
「お前は行かなくていいのかよ?」
「あたしは生徒会の手伝いをしてるだけだもん」
「そうなのか。それで、まだ生徒会はこの部屋の事を問題視してんのか?」
「うーん、話題にはなるけどねぇ。理事長とソウちゃんが必死になって擁護してるって感じぃ?」
「まあ、やりすぎと言われても否定出来ないぐらいまで改造しちまったしな」
「タイガってそんなナリして意外と真面目だよねぇ」
「うるせぇ」
「ま、ソウちゃんは生徒会長にも可愛がられてるみたいだし、任せておけばダイジョブじゃん?」
「……アイツなら何とかしてくれるっていう妙な安心感があるんだよな……」
「ふあぁ、昨日夜更かししちったからリリィとお昼寝でもしてこよっと」
そう言ってミナは隣の部屋へと消えていった。
――ガチャ
「ただいま」
イトが外出先から戻ってきた。手には大きな袋を抱えている。
「お! イト、戻ったか。悪いな」
「気にするな。荷物を取りに行ったついでだ」
「それで、その袋の中身がアルコールランプなんだな?」
「そうだよ。言っておくけど、コレはコーヒーをサイフォンで淹れる為であって、君の能力の実験はついでだからな?」
「分かったから、早く出せよ!」
「……仕方がないな」
イトは袋をテーブルに置くと、一つずつ中に入っているものを取り出していく。
「燃料用のメタノールの他にも消毒用のエタノールも買ってきた。他にも燃えやすそうな物を片っ端だ。どういう分子構造が君の能力と相性がいいか分からないからね」
「御託はいいんだよ。火がつけば何だっていい!」
「……やれやれ、タイガ。言っておくが、今現在の君はろうそくに火を灯すのに5分以上掛かるんだぞ? 発火能力者どころか着火器具としても役不足だよ」
「ガハハハ、心配するな。それは三日前までの俺だ。今の俺はろうそくに火を灯すのに1分もかからん! 30秒だ!」
「なんだと? 10分から5分に短縮するのに何ヶ月掛かったと思ってる?」
「イト、お前が言ったんだぜ? 能力とは脳と意志の力だと!」
「……お前……そんなナリで理解したっていうのかい?」
「うるせぇ!」
「……真偽の程は分からないが、俄然やる気は出てきたよ」
そう言ってイトはアルコールランプにアルコールを注ぎ、芯にもしっかりとアルコールを含ませた。
「よし、準備は出来た。じゃあ君の能力で火を点けてみてくれ」
イトにそう言われたタイガは、ニマっと笑うと右手をランプに添え、指をパチンと鳴らした。
瞬間、ポッと音を立ててランプに火が灯る。
――!
「見たか、イト! 一瞬だ! 一瞬だぞ!?」
タイガは自分でも信じられないといった様子で子供のようにはしゃいでいる。
「……凄いな……しかしタイガ、さっきのは何の真似だ?」
「ん? 前に何かで見たんだよ。指を鳴らすと火が出るんだ。イケてるだろ?」
「……タイガ……お前そんなナリで……」
「うるせぇ! もう二度とやんねぇ!」
「それはそれとして、期待以上だ……確実に成長している」
「だろ? 次は遠くから火を点けてやる。遠隔発火といこうぜ!」
「そんな事も出来るのか?」
「分からん。だが、今日は調子がいい」
タイガの調子がいいのか湿度が低いのが奏功したのかは分からないが、イトにとっては驚くべき結果だった。
「よし、じゃあその遠隔発火とやらを試してみよう。座標の指定はどうするつもりだ?」
「ん? 何だそれ? そんなもん、何となくだよ、何となく」
「お前なぁ、あのリリィだって座標の指定が一番苦労したんだぞ?」
「それはリリィがその程度の能力者だと言う事だ」
「お前、どの口で……まぁいい。結果が全てだ。タイガ、君の思うようにやってみるといい。ただし、指は鳴らすなよ? 君がやるとイラっとくる」
「……まあ見てろ。進化した俺様の力に驚くがいい! 能力とは意志の力! 願えば叶う! 思えば実現する! 確信すれば、自ずと発現する!! うおおおおぉ!」
雄叫びと共にタイガの右手が薄く発光した、その瞬間だった。
ボンッ!
破裂音と共にアルコールランプが砕け散り、アルコールが飛び散る。一瞬間をおいてアルコールを追って炎が走った。
「おおおぉ! ヤベぇ!」
「なっ!」
瞬く間に部室は火の海と化していた。
「燃え移る前に消すんだ!」
「ヤベぇよ! ヤベぇ!」
「落ち着けっ! 直ぐに消せば大丈夫だ。上着を脱げ! 上着で消すんだ!」
「うおっ! 制服に燃え移ってやがる! えらい事になりやがった!」
「燃えやすい物をどかすんだ! アルコールだけならどうという事はない!」
「建築資材だらけだぞ! 部室の改造が仇になってる! 邪魔すぎる!」
「いいから早くしろ! どんどん燃え移ってやがる!」
――ガチャリ
その時、隣の部屋からミナが出てきた。
「もぉ、うるさいよ……って! 何これ! 何やってんの!?」
「ミナ! 君も手伝え! 炎を消すんだ!」
「どういう事!? 何なの! コレ! なんで燃えてんのよ!」
飛び散った炎がティッシュや雑誌、カーテンなど燃えやすい物に次々と引火し、どんどん手が付けられなくなってきていた。
アルコールランプは跡形も無く、置かれていたテーブルは火の海となっている。
テーブルにはイトが抱えていた袋が依然として置かれており、袋も炎に包まれてしまっている。視界の端にそれを捉えたイトが叫ぶ。
「! まずい! あの袋には! 二人とも、伏せろっ!!」
「なにっ?」
「え? え?」
「早く伏せろと言っているっ!」
イトがそう叫んだ刹那、
――ドゴォン!!
「ぐはっっ!」
「ぐおぉぉぉ!」
「!!」
――ガシャン!
一瞬で全てが吹き飛ぶ。強烈な爆発音と共に、イトとタイガの体は宙を舞い、2メートルも後方へ吹き飛ばされてしまった。二人が窓枠にブチ当たった衝撃でガラスが砕け散り、ガラス片の雨が降り注いだ。
「痛ぇ! 目が! 目が!」
「耳が! 何も聞こえない!」
「イト! どこだ! 目をやられた!」
「二人とも無事か!? 火薬が! ハンドロード用の火薬に引火しやがった!」
「何だってそんな物を!」
「うるさい! 今はこの現状を何とかしろ! ミナ! ミナは無事なのか!?」
痛む体を何とか起こし、真っ黒い煙がモウモウと立ちのぼる中、イトは現状を確認しようと必死になっていた。
「イトっ!」
庭からリリィの声がした。
「リリィか!? 無事なのか! 手を貸せ! ミナを探せ!」
やがて煙が落ち着いてくると、人影が見えてきた。
「ミナ! 無事か!? タイガ! 早く起きろ! 部室はもうダメだ! 庭へ脱出するぞ! ミナ! 君も……!!」
煙に霞む目を凝らしてようやくハッキリとミナを視界に捉えたイトは信じ難い光景に愕然としていた。
「ミ、ミナ……君……胸に……ミナァッ!!」
ミナの胸には爆発で吹き飛んだ角材が突き刺さっていた。
「イヤ……イヤァァァ!!」
「リリィ!」
叫んだ途端、リリィは意識を失い昏倒してしまう。
「ゴプ……」
ミナは口から大量の血を吐いたかと思うと、ドチャッという不快な音を立ててその場にぶっ倒れてしまった。
「ミナァァァ! 何で! うおおおおぉ! タイガ! いつまで寝てるんだ!」
「うるせぇ! 目が見えねんだ! 何だこれ? 何かが目に……」
「クソッ! 待ってろ!」
イトはフラフラとおぼつかない足でタイガに近寄り、顔を見る。
タイガの目にはガラス片が突き刺さっていた。
「っ! 君まで! 酷いな……待ってろ! 今抜いてやる!」
タイガの目に突き刺さったガラス片を血でヌルヌルと滑る手で何とか抜き取る。
「ぐああぁぁ! いてぇ!」
「我慢しろ! 左目はもうダメだ! だが、右目は無事だぞ! 早く起きろ! 僕はミナを! マズいぞ……炎が強くなっている!」
「痛ぇ……痛ぇ! クソがっ! 無茶ばかり言いやがって!」
足を引き摺りながら、イトは必死にフラフラとミナに近づく。燃え上がる炎と、散乱した建築資材が行く手を阻む。
「僕のせいだ……クソッ! クソッ! クソおぉぉぉッ!!」
叫びながら何とかミナの元まで辿り着いたイトは言葉を失ってしまった。
「うっ……あぁ……」
角材がミナの胸を貫通し、大量の血を撒き散らして倒れている。
「タイガ! 来てくれ! 大変な事になっている! ミナを連れ出す! 資材に挟まっているんだ! 僕一人じゃ無理だ! 手を貸してくれっ!」
「待ってくれ! 足に力が入らん!」
爆発時にタイガの後ろで伏せていたイトと違って、爆発の衝撃と飛散した物をモロに食らったタイガの被害は思った以上に大きかった。
「早く来いと言っている! お前のそのデカい図体は何のためにあるんだ! 早くしないと手遅れになる! ミナが! 死んでしまうぞっ!」
「うるせぇ! 今行く! 死なせるかよっ! ソウジに顔向け出来ねえぞ!」
やっとの思いでイトに合流したタイガは、爆発で飛ばされた家具や木材を片っ端からどかしていく。
「ミナッ!」
「こんな……ミナァ!」
「タイガ! 君は上半身を!」
「分かってる!」
「待て! 猫が!」
「そんなもん、後にしろ!」
痛みをこらえ、二人がかりでミナを運ぶ。イトは、どかした資材の下から出てきた死にかけの猫の首を乱雑に掴んで、ミナと一緒に運んだ。リリィとじゃれ合っている姿が脳裏をよぎり、見捨てられなかった。
やっとの思いで庭へと辿り着く。二人とも痛みと疲れで体が重くて仕方がなかった。
「ミナ! 返事をしろ! 頼む! 返事をしてくれ!」
「おい! これ……マズいんじゃねぇのか……?」
「そんな事は分かってる! 胸に棒が突き刺さってるんだぞ! 心臓は……? 心音を確認する!」
「ど、どうだ?」
「……」
「どうなんだ!!」
「……分からない……バチバチと炎がうるさくて、心音が聞こえない!」
その時、ミナの口が僅かに動いた。
「……あぅ……イ…ト……タイ……」
――!
「生きてる! 生きてるぞ!」
「どうすんだ!? どうすればいい!?」
「救急車だ! 救急に連絡しろ! 消防もだ!」
「分かった!」
しかし、ミナの目からはどんどん光が失われていた。呼吸が止まり、ぐったりとして、しまいにはピクリとも動かなくなってしまった。
「ヤバい、ヤバい! ヤバい!! ヤバいぞ! このままでは!」
「何とかしろ! 何とかしろよっ! このまま死ぬなんて……」
「……ミナの意識に介入するっ! 死なせない! 無理矢理でもこっちに連れ戻す!」
「俺は! 何をすれば!?」
「救急を呼んだらホースで水を撒け! 火を消すんだ!」
「わ、分かった! イトっ! ミナを頼む!」
「分かってる! 絶対に死なせはしない! ソウジになんて言い訳する気だ! 行くぞ、ミナ! 精神干渉!!」
イトはミナの額に薄く輝く手を当て、ミナの脳へ、精神へと深く深く潜っていった。
読んで頂いてありがとうございます。
次回もなるべく早く投稿したいなぁ、と思っております。




