5話 重い想い
5話 重い想い
「なっ! 突き落とされたって!? どういう事だ?!」
たまらずアキトが割って入った。鷺谷はビックリした顔でアキトを一見すると、直ぐにマヤを見つめ、説明を求めているようだ。
「あ、先輩、彼は同じ学年の大東アキト君です。そしてこっちのかわいい子は丸井ミコちゃんって言います。アキトンとミコタンって呼んで下さい」
「そ、そうか。アキトン、ミコタン宜しく。俺は二年の鷺谷リョウだ。リョウでいいよ」
「それではお言葉に甘えて……リョウさん、その話詳しく教えて頂いても宜しいでしょうか? あと、アキが生意気な口をきいてすみません」
ミコが一歩前に出てアキトの非礼を詫びる。この辺りは流石に慣れた様子だ。普段から口の悪さで人と揉めやすいアキトはまたやっちまったと、こっそり反省していた。
「……まあ、いいよ。元気なのはいい事だ。俺の姿を見れば良くわかるだろ?」
「リョウ先輩、スンマセン……先輩がいい人で良かったっス」
「ハハハ……マヤちゃんの前でカッコ悪くキレる訳にもいかないからな。それはそれとして、あの日の事だろ? 思い出しただけでもゾッとする……」
リョウは青い顔で固まってしまった。やがて落ち着きを取り戻すと、
「……あの時、階段を降りようとした時……誰かに声を掛けられたような気がして振り返った、その瞬間だった。思いっきり突き飛ばされたんだよ! 俺は相当デカい声で叫んだと思う。その声を聞いた奴が、俺の頭がおかしくなったと思ったとしても何ら不思議じゃないと思うぜ……」
「突き飛ばした人を見たんですか? チラっとでも、何か特徴なんかが分かれば……」
ミコがグイグイと前に出て真剣に聞いている。
「いや、ミコタン……全く見えなかった。それに、感触が変だった。背中とか肩とか、部分じゃなく、全身を押されたような……何か衝撃波のようなものを喰らったような感じだった。俺は普通科だし、超能力についてはよく分からないんだが、そういう不思議な現象に思えてならない……」
「超能力ですか……」
「つまりだ、、俺を突き飛ばしたふざけた奴がいるんだ。マヤちゃんは全く関係無いんだよ。だから、気にせずまた来て欲しいな」
アキトとミコはマヤは無関係だと聞いてホッとしていた。これで少しは元気になってくれるだろうと胸を撫で下ろしていたのだが、
「……そんなのわかんないよ……私だって能力科だもん。自覚が無いだけかもしれない! 不幸を撒き散らす、とんでもない能力持ちかもしれない! 犯人の姿を見てないのなら、私だって……ううん、私が一番の容疑者なんだわ!」
「マヤちゃん!」
「マーヤ!」
「御船……」
リョウとミコはマヤを庇い、必死に慰めていた。ポロポロと涙を流してゴメンなさい、ゴメンなさいと何度も謝る姿は痛々しく、見ていられなかった。
「御船、超能力は自覚した瞬間から手足のように扱えるモノだ。お前は自覚しているのか? 人に不幸を巻き散らそうとしているのか?」
アキトが急に口を開き、皆驚いて注目する。
「どうなんだ?」
「そんなわけ! ある筈ない! アキトン、酷いよっ!」
泣きながら叫ぶマヤは、打ちのめされたような酷く哀しい顔をしていた。
「……なら決まりだ。犯人は御船じゃない。さっき言った事は信頼出来るヤツの言っていた事だ。恐らく日本でも指折りの、超能力のスペシャリストが言っていた事なんだ。そして、ついこの間能力を自覚したばかりの俺の体験談でもある。間違いないだろう」
「そうか! そういう事か! それは良かった!」
「そうでした。さすがアキです!」
「……アキトン」
――まあ、実際は無意識で発動する事も珍しくないって話だけどな。だが、無自覚の上無意識に発動ってのはちょっと考えにくい。だけど……確信が欲しい。御船ではないと、犯人が別にいるという確信が……
皆アキトの言葉にホッとした様子だ。重々しい雰囲気は払拭出来たようだ。
「……ミコ、ちょっといいか? 折角だし、二人っきりにさせてやろうぜ」
アキトはミコに耳打ちすると、トイレに行くと言って退出した。
ミコも直ぐに飲み物を買ってくると言い訳し、アキトに続いて退出する。
「アキ、どうしたのですか?」
「……ちょっと、な」
それまで嬉しそうにしていたミコだったが、アキトの険しい顔を見て表情が再び強ばっていた。
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「じゃあ、また来ます! 先輩、大人しくして早く良くなって下さいね!」
「リョウさん、突然三人で押しかけてすみませんでした」
「リョウ先輩、お大事に」
「みんな、ありがとう。誤解も解けたし、またいつでも気軽に来てくれ。俺も毎日暇でしょうがないんだ。花とお菓子もありがとな!」
「はい!」
「それじゃ」
「また……」
和やかな雰囲気で別れの挨拶を済ませると、三人は笑顔で手を振り退出した。エレベーターに乗り込み一階へと降りる。行きとは正反対の終始ニコニコとしたマヤの笑顔が眩しかった。
ロビーを出た所でミコがトイレと言い出し、走って戻っていってしまった。
「アキトン、今日は本当に、ホントーっにありがと!」
「いや、俺は別に何もしてないよ。御船が勇気を出しただけだろ?」
「そんな事ないのっ! アキトンが居てくれなかったら……私……」
頬を紅潮させて、はにかんだようなマヤの顔が魅力的だった。泣き出したいほど苦しい癖に一人で悩んで傷ついて、それでも明るく振る舞うマヤが愛おしくて、アキトの心を揺さぶり掴んで離さない。
「……気にするな……それに、今から俺はきっと御船を苦しませる事になると思うから」
「え? えぇ? アキトン、どしたの? どうゆう事かな? かなぁ?」
マヤはアキトが言ってる言葉の意味が心底理解できないようで、顎に指を当てて小難しい顔をしている。
「御船……お前はリョウ先輩の事どう思ってる? 好きなのか?」
「え? そ、そんなの……よく分からない……よ……告白されたけど、付き合ったりとかは……」
マヤは突然そんな事を言われ、ソワソワと落ち着かない様子だ。明らかに動揺を隠せないでいる。
「……御船、よく聞いてくれ、大事な話だ」
アキトはそう言って真剣な表情でマヤを見ると、
「俺はお前が、お前の事が好きだ。初めて会った時からか、ラウンジで二度目に会った時からか……ハッキリとこの時と言う事は出来ないけど、気づくとお前の事ばかり考えている……」
「ちょ……アキト……ン……そ、そんな……何を……」
マヤは自分でも何を言っているか分からず、しどろもどろで頭が真っ白になっているようだった。それ以上言わないで! お願いだから、もう止めて! そう訴えたいのだが、言葉が出てこない。そして無常にも、理性を失ったかのようなアキトから次々と聞きたくない言葉が紡ぎ出される。
「自分でも最低だって思ってる……ミコは、アイツはきっと俺の事を好きなんだと思う。鈍い俺でも分かるぐらい、アイツは俺を慕ってくれているからな。でも、アイツへの思いとは違う感情を俺は御船、お前に持ってるんだ。こんなタイミングで、お前に危険が無いって分かったタイミングでこんな事を言うなんて、きっと軽蔑されるって事も分かってる。だけど、ダメなんだ。思いを伝えずに居られないんだよ! お前が好きだって伝えずには居られないんだ!」
「ダメ! ダメだよっ! だって……アキトンはミコタンの……ミコタンは……アキトンを……」
「俺の気持ちにミコは関係ないだろ! 俺は、お前の気持ちを知りたいんだ! 今すぐじゃ無くていい。少しでもいい。考えてみてはくれないか?」
「ダメ……分かんない……分かんないよっ! そんなの分かんないよっ! 考えられるワケないじゃん! ミコタンはとっても大事な……なんでっ……どうしてっ! どうしてそんな事言うの!? どうしていいか分かんないよっ!!」
あふれる涙を拭う事すら忘れ、綺麗な顔をくちゃくちゃにしてそう叫ぶと、マヤはその場からアキトから逃げるように走り去っていった。
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