4話 お見舞い
4話 お見舞い
翌日の放課後、アキトとミコの二人は待ち合わせ場所の駅前広場に来ていた。
「なんだってこんな場所で待ち合わせなきゃいけないんだ? 学校で合流した方が早いだろうに……」
「……マーヤは気を使ってるんです。自分の周りで二人もおかしな事になった人がいるんですよ? 極力目立たないようにしたいじゃないですか」
「……気にし過ぎじゃないかねぇ」
「マーヤは優しいんです。それに、とても怯えているんですよ。発狂した二人だけじゃありません。塩見さんの事だって……」
「……そうだな……それもあったか」
何故かマヤの周りで事件が頻発している事実にアキトは嫌な胸騒ぎを感じていた。その時、
「おーいミコタン! アキトンも!」
遠くから声がする。明るく元気な、いつものマヤの声だ。手を激しく振りながら小走りで駆けてくるのが見えた。
「マーヤ!」
ミコもマヤに向かって駆け出した。合流した二人は両手を取り合ってクルクルと回っている。
「……こんな人がいっぱいいる所で何してんだよ。恥ずかしいから止めろよな!」
合流したアキトは周囲をキョロキョロと見渡して落ち着かない様子だ。
「ごめーん! 学校以外だと久しぶりで! はしゃいじゃった。てへ」
アキトはペロッと舌を出し、いわゆるてへぺろったマヤにドキッとしてしまう。
「げ、元気そうで何よりだよ。それより早く行こうぜ。面会時間が終わっちまう」
「大丈夫だよぅ! 時間はまだたっっぷりあるから! ミコタン、何かお見舞い用のギフトを買いに行こうよ!」
「そうですね! 手ぶらで行くのも失礼でしょう。付き合いますよ!」
「はぁ? これから買い物かよ! 全く……」
何でもイベントにして楽しんでしまう女子二人に辟易しながらも、考えようによっては両手に花という事実にアキトはつい頬が緩んでしまっていた。
しかし、女子二人はヘラヘラしているアキトには目もくれずに、さっさと駅ビルの百貨店へと向かって楽しそうに歩いていってしまった。
「ちょ、待てよ!」
急いで二人を追いかけながら、アキトはやはり御船は強いな、全く悩んでいるようには見えないなと率直に思っていた。
暫くの間二人に付いて回っていたアキトだったが、早々にして飽きてしまい、ベンチに腰掛けボーっと二人を目で追っていた。その時、見覚えのある人影を発見した。
「……あのボサボサ頭は……マッチ……?」
あからさまに怪しげな動きだ。本人はバレていないつもりなのだろうか。マッチの目線の先には想像通り、マヤの姿があった。
「あのヤロウ……」
アキトはおもむろに立ち上がると、マッチに見つからないようマヤ達と逆方向から忍び寄る。
「おい! このストーカー野郎!」
「!! ち、違うんだゾ! ぼ、僕は何も……」
アキトと目が合ったマッチは驚いている。
「よう、マッ……森田。こんな所で何してんだ? もしかして本当にストーキングか?」
「そ、そ、そんな訳ないんだゾ! たまたま、たまたま見かけたんだゾ! ぼ、僕はゲーセンに……」
モゾモゾと絵に書いたような挙動不審さにアキトは逆に感心してしまっていた。
「……そうか、なら早く行くといい。じゃあな」
「ま、待つんだゾ! お前は、な、何してるんだゾ!?」
「ん? 俺はミコの付き添いだよ。ミコと御船は仲が良いからな。そんなワケで御船とは仲良くさせて貰ってる」
アキトは妙な悪戯心が芽生え、自慢げにしてみせた。
「お、お前なんかが! 御船さんに! お前も頭がおかしくなってしまえばいいんだゾ!!」
マッチはそう叫ぶと、何事か奇声を上げながら走ってどこかへ行ってしまった。
「悪い事しちまったかな? マッチ、すまんな」
アキトがマッチを使った火遊びの余韻に浸っている所で、ミコとマヤが戻ってきた。
「アキトン、ゴメンね。放ったらかしにしちゃって」
「いや、いいぞ。なんならいつでもミコを貸してやるぞ」
「アキトンったら、ミコタンを自分のモノのように言うんだね!」
「いや、その、まぁ、なんだ……兎に角、俺を気にかける事は無いぞ。それに、今日みたいに荷物持ちぐらいなら俺だっていつでも駆り出されてやるから」
「うん! アキトン、ホントにありがと……」
アキトはしまったと思いながら誤魔化していた。
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病院に着いた途端、マヤの表情に明らかに陰りがさしていた。天真爛漫を地で行くようなマヤに、パッと見で分かってしまうほど怯えというか、不安感が滲んできているように見える。
「病室を確認してくる。お前達はここで待っててくれ」
アキトはそう言い残し、テニス部二年の鷺谷リョウが入院している病室を確認する為、受付へと向かった。
「……ミコタン、ゴメン。やっぱりちょっと怖い」
「大丈夫ですよ、マーヤ。私がついてます。アキもいます。折角お花とお菓子を買ったんです。渡すだけでもいいんですよ」
「……きっと拒絶されちゃう……何しに来たんだって! ひ、人殺しって! そうよ、死にかけたんだもん……きっと……」
「マーヤ! ダメですよ、悪い方に考えてはいけません。偶然が重なっただけです。マーヤは何も悪い事などしていませんよ?」
「……そ、そうよね……それにここは病院だもん。何かあっても大丈夫……今ここで会わないと……多分二度と謝る事が出来ないと思うから……」
「謝る事なんて何も無いんです。マーヤは堂々とお見舞いすればいいんです!」
「う、うん! ……ミコタン、ありがと! 覚悟を決めるぜぃ!」
マヤが空元気を出し、グッと両手の拳を握りしめた時、アキトが戻ってきた。
「ん? どうした、お前ら? 病室が分かったぞ。遊んでないでさっさと行こうぜぃ」
「うん!」
「はい、行きましょう!」
アキトが先導してエレベーターに乗る。三階のボタンを押すと扉が閉まる。
「大丈夫……きっと大丈夫……」
エレベーターの中で、マヤはずっとブツブツと呟いていた。
――ポーン
三階に到着し、エレベーターの扉が開く。アキトに続いていよいよ青い顔をしてうつむき加減のマヤの手を取り、ミコがマヤを先導した。
「一番奥の308号室だ。あそこがセンパイの病室だよ。ん? 先客が居たようだな」
丁度アキトが指差した病室から、三人組の女子高生が出てきた。
「マーヤ? 顔が真っ青ですよ?」
「……ダメ……帰ろう! ミコタン!」
「御船! どうした?」
マヤの様子がおかしい。明らかに怯えていた。
三人組の女子高生は直ぐにこちらに気づくと、不機嫌そうに明確な敵意を丸出しにして近づいてきた。
「なんでアンタがこんなトコにいんのよ!」
「フン! 人殺しが何の用かしら?」
「リョウに近づかないでよ、帰んなさいよ!」
マヤに接近するや否や、三者三様に侮蔑を込めてマヤを罵倒し始めた。
「おい!」
「なんて事言うんですか! 謝って下さい!」
咄嗟にアキトとミコが割って入る。
「なによ! このチンチクリン女!」
「無関係のクセにでしゃばんないでよ!」
「帰れって言ってんのよ! 人殺し!」
マヤは涙目でうつむいていた。ミコは完全に臨戦態勢で起勢の姿勢を取っている。
「おい、お前ら。俺はリョウのダチだ。コイツらにこれ以上フザけた事を抜かしたらタダじゃすまんぞ? リョウを悲しませるな」
アキトは怒りを堪え精一杯のハッタリをかます。さらに覚えたての操電能力で静電気を集めると、右手の人差し指から親指へバチバチと放電してみせた。
「な、なによ、コイツ!? アブないヤツ!」
「キモッ! 誰なの? こんなヤツ知らない!」
「ちょっと、二人とも早く行こっ! コイツ、目がヤバいよ!」
アキトの全力の威嚇に物怖じした三人は逃げるように階下へと消えていった。
「……さて、邪魔者のも居なくなったし、病室に特攻しようぜ」
「アキトン……ありがと」
――コンコン
病室のドアをノックすると、直ぐに中から声がした。
「どうぞ」
アキトはマヤの緊張した顔を暫く見ていたが、やがて問題無いと判断し、ドアを開けた。
「先輩……こ、こんにちは……」
元気の無い声でマヤが挨拶すると、意外な返答が返ってくる。
「マヤちゃん! 来てくれたんだ? マジ嬉しいよ。来てくれないと思ってたからさ……」
ベッドに横たわる鷺谷は少し顔色が悪く、頭の包帯と腕の点滴が痛々しいものの、表情は明るく元気そうだった。
マヤはアキトから花束と菓子折りを受け取ると、
「これ、お見舞いです。その……早く元気になって下さい」
そう言って頭を下げた。
「マヤちゃん、顔を見せて欲しいな。なんだか凄く久しぶりのような気がするから」
笑顔でそう言った鷺谷は、爽やかスポーツ男子といった風貌の女子ウケの良さそうなイケメンだった。
「……先輩」
「……恐らくだけど、噂の事を気にしてる? 酷い事を言う奴が居るようだけど、俺は全く気にして無いし、そもそも全くの的外れだから」
「どういう事ですか?」
「なんであんな根も葉もない噂が流れたのか分かんないんだ。だって、俺はあの時誰かに突き落とされたんだから……」
――!?
心底悔しそうな顔で鷺谷はそう言った。
いつも読んで頂いてありがとうございます。
大変遅くなってしまい、申し訳ありません!
師走に入り、多忙につき御容赦下さい……
続きは明日投稿出来そうです。
宜しくお願いします!




