3話 メモリ不足
3話 メモリ不足
アキトが1年半前に自覚し、ついこの間再び思い出した電気を操るという超能力は、アキトが思い描いたような凄い能力では無かった。
ある程度の電気は確かに操る事が出来た。だが、一定以上の電気を操ろうとすると感電してしまうという致命的欠陥があったのだ。しかも、その一定以下というのは冬場のいわゆる静電気でバチッとくる程度という有様。
つまり、今現在のアキトが扱える能力は、自由に静電気を起こして人をビックリさせる事が出来なくもない……といった、全く意味の無い使えない代物だった。
「もう三日も眠り続けてんだぞ? このまま目覚めないなんて事になったらどうすんだ? ちょっとだけ、ちょっとだけ刺激を与えてみるんだよ! 例えば俺のこの能力で、バチッとやってみるだけだよ! いいだろ? なぁ?」
アキトは半べソをかきながら懇願する。黙って聞いていたミィナはハァ、と溜息を一つつくと、
「……イトは意識を機能停止してるニャ。再起動に時間が掛かってるんニャ。他人の意識下で自分を認識し、保ち続ける事はとても大変な事ニャ。今は自己と他者を分ける作業に専念させるニャ。そもそも、誰のせいでこうニャってると思ってんニャ……」
「何を言ってるのかさっぱり理解できないんだが……」
「要はメモリ不足ニャ。人間は生体の維持だけでも相当のメモリを使ってるニャ。脳力と、能力の限界ニャ。アヤコの薬は恐らく熱暴走を抑えて、不要ニャタスクを強制終了させるモノニャ。きっとイトの助けにニャっているニャ。そのうちひょっこり起きてくるニャ」
「ミィナは物知りなんですね!」
感心した様子でミコがミィナを褒める。
「これでもおミャえ達よりニャがく生きてるニャ。ミィナパイセンと呼ぶニャ」
ミィナは腰に手を当てエッヘン、とでも言うように偉そうに答えた。
「……どんなに凄くても、やはり猫の脳では限界があるんだな」
「そ、それはどういう意味ニャーー!!」
怒ったミィナはアキトに得意のネコパンチを食らわせている。ペシペシと頬を叩かれているアキトは、肉球のぷにぷにした感触に恍惚の表情を浮かべていた。
「兎に角、待ちましょう? 焦ってもしょうがありません。あ、ほら、リリィが戻って来ましたよ。今は動ける者がやれる事をした方がいいと思います」
「……分かったよ。」
アキトは諦めた様子でソファに腰掛けると、少し冷めてしまったコーヒーに口を付けた。
「とは言っても、まともに動けるメンツってのは結局は俺とミコだけだからなぁ……ミィナは猫だし、リリィはアレだから聞き込みなんて無理だろうし……」
「き、聞き込み……」
戻ってきたリリィは突然聞いた聞き込みという言葉に怯え、青い顔をしている。
「……聞き込みだけがやれる事じゃニャいニャ。あたしとリリィの得意分野は隠密行動ニャ。そこんとこヨロシクニャ」
リリィは必死な様子でウンウンと頷いている。
「……じゃあ、ミィナとリリィは引き続き生徒会の動向を探ってくれ。事件関係はこちらで聞き込みしてみるから。リリィは変な噂が流れてるから慎重に頼むぞ。ミィナも喋れるのがバレると面倒だからな。揉みくちゃにされたく無かったら外で喋るのは禁止な」
「ミィニャはどっちみち行く先々で揉みくちゃにされる運命ニャ。可愛さ故に。かわいいは罪ニャ……」
「……ハイハイ。そうですねぇ」
悦に入ったミィナを鼻であしらったアキトに、ミコが話しかけてきた。
「アキ、お話があります」
「ん? ミコ、どうした?」
「明日、一緒に病院へ行ってはくれませんか?」
「え? どこか具合が悪いのか!? どこだ? 最近は調子がいいって言ってただろ? 何で……」
そう言ってアキトはコーヒーをひと口、口に含む。
「……子供でも出来たかニャ?」
「ブッ! なっ!! お前……!」
突然とんでもない事を言い出したミィナにアキトは口に含んだコーヒーを吹き出し、凍りついた。
「そ! そんな訳無いじゃないですか! ミィナ! 何を言ってるんですか! まだ……その……キスも……して……ゴニョゴニョ」
「そ! そうだぞ! 年中サカってる猫と一緒にするなよ! そんな相手……ミコに……いる訳……ゴニョゴニョ」
「ニャにを二人して顔を真っ赤にして中学生みたいニャ事言ってんのニャ……それに、ミィニャは年中サカってニャんかいニャいニャ!」
思い返してみれば、ミコは入学してから頻繁に保健室へ行っていた。それはアキトの記憶を抑え込む為に能力を使い続けていたからだ。やたらと元気が無く、話しかけても素っ気ない日が続いていたのも、実は能力の使い過ぎで肉体的にも精神的にも疲弊していた訳だ。アキトは改めてイトや、自然科学部の面々、そしてミコに救われていた事を実感していた。
だが、あの日以来はすこぶる調子がいいとミコ本人が言っていた。突然病院などと言われ、アキトは不安になってしまう。
「ミコミコ、ママになるの? 産まれたら私にも抱かせて」
リリィは、ミコに密着するとミコのおなかの辺りを撫でながら嬉しそうにしている。
「こら、リリィ! 話をややこしくするな!」
「そうですよ、リリィ。私のおなかに赤ちゃんは居ませんよ……今はまだ」
「ミコ! お前もだ!」
アキトは顔を真っ赤にして叫んでいる。
「大体、俺たちは清く正しい交際なんだ! そんな破廉恥な事……その……ちょっとは……いや、俺ももう高校生だし……人並みには……って、違う!」
「……言質取りました」
「はい?」
急にミコが呟いた言葉に、素っ頓狂な声で答えるアキト。ミコはしたり顔でガッツポーズをしている。
「ここに居る皆さんが証人です。アキは清く正しく交際していると言いました!」
「言ったニャ」
「言ったわ」
「……言ったっけ?」
「言いました! ハッキリと聞きました! 今更逃げるんですか! おなかの子を認知しないのですか!?」
「……最低ニャ」
「……アッキー、非道い……」
「待て待て! 認知ってなんだ?! 話がおかしな方向に行っているぞ! 話を戻せ! 病院だろ? 病院に行くんだよな? だったら付き合うから! 病院でも何処でも付き合うから!」
アキトは涙目だ。既にライフはゼロといった様子だ。
「チッ……なかなか往生際が悪いですね」
「ハッキリしニャい男ニャ……」
「お姉ちゃんはアッキーをそんな子に育てた覚えはないわ」
「ダメだ……女三人に俺一人じゃ辛いよ……イトー! 早く目覚めてくれぇぇーーー!」
アキトの断末魔の叫びが部室にこだましていた。
「……話を戻しましょう。明日お友達と一緒に病院へお見舞いに行く約束をしました。アキにも付き合って貰いたいんです」
「……お見舞いかよ……俺なんかが行ってもしょうがないだろ? やっぱり友達と行ってこいよ。正直、やる事はいっぱいあるからな。明日から本格的に聞き込みをしようと思ってる。こっちは一人でも大丈夫だから、ミコはお見舞いに行ってきてもいいぞ」
「……そうですか……」
「すまんな。空いた時間に自分の能力の研究もしたいんだ。こんな何の役に立つか判らないような能力じゃ、決してない筈なんだ。イトが目覚めない以上、やれる事はやっておきてぇ。それに、このまま何の進展も無いとアイツが目覚めた時に言われちまうぞ?」
「何をですか?」
「ニャにをニャ?」
「何かしら?」
三人は不思議そうにアキトを見る。
「使えねぇってだよ! アイツの事だ。俺が居ないとなんにも出来ねぇだの、人が寝てるのをいい事に、皆んなして遊んでやがったとか言うに決まってるんだ! くぅー、アイツのクッソ腹の立つ、ヤレヤレだぜ! って顔が目に浮かぶようだ!」
「そうですか?」
「そうかニャぁ?」
「どうかしら?」
どうもアキトのイトに対する評価は、他の三人とは酷く乖離があるようだ。
「……兎に角、俺は俺で動く。時間がもったいないからな。そんで? その友達ってのは誰だ? 誰と、誰の見舞いにどこの病院に行くんだ?」
「マーヤとです。なんでも、テニス部の先輩が入院してるんだそうです。最近意識が回復したらしいのですが、一人でお見舞いに行くのが怖いとか言ってました。出来ればアキも誘って欲しいと言われてたんですが……」
「……俺も行く」
「えっ?」
「ニャ!?」
「はぁ?」
急に前言撤回しだしたアキトに三人は驚いているようだ。
「俺も行く! 行くったら行く! ついて行く!」
「……浮気者」
「……マーヤって誰ニャ?」
「愛人までいるなんて……私も立候補しようかしら」
「違う! 違うぞ! そういう意味じゃないぞ! これはその……アレだ! お前らだけじゃ心配なんだ! 決してそういう意味じゃないぞ! 御船は何の関係もないぞ!」
「……どうだか」
「……そういう事かニャ」
「……アッキー、私も混ぜて」
「だから違うって! そ、そうだ! 変な噂があるんだ! 多分、見舞いの相手は噂になってるヤツだ! いや、コレは言っちゃいけないんだった……聞かなかった事に……なりませんよね?」
墓穴を掘ったアキトは、以前タケルに聞いたマヤについての噂を説明した。というか、させられた。
1年能力科A組で噂になっているマヤの魔性の女というあだ名とその理由。これまでにマヤに告白した二人がともに様子がおかしくなり、しまいには発狂しているという事実、お見舞いの相手が恐らくそのうちの一人である事、マヤはきっと悩んでいるだろう事。アキトは誤解を解くように丁寧に説明した。
アキトの話を聞いた女子三人は静かになっていた。ミコに至ってはふつふつと怒りのようなものがこみ上げてきているようだ。
「……マーヤ、そんなに悩んでいたなんて……全然気がつきませんでした。私は友達失格ですね……いつも明るいマーヤの本心をまるで分かってませんでした。私は浮かれていただけです。マーヤと仲良く出来て、浮かれていたんです!」
「……ミコ」
「アキ、明日一緒に病院へ行きましょう。マーヤを放ってはおけません。心が壊れてしまわないよう、私たちで救いましょう!」
ミコの瞳には、決意が宿っているようだった。
いつも読んで頂いてありがとうございます。
次話もなるべく早く投稿させていただきます。
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