23話 あの日の記憶2 リリィの奇行
1章 幕間
23話 あの日の記憶2 リリィの奇行
「イト……アッキーとミコミコ、また来る?」
「どうだろうね……しかし記憶も感情も失くした筈の君が……驚いたよ。彼等について色々と分かったこともある。暫くは様子見だろうね……」
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アキトが二度目に部室を訪れた翌日も、イトは相変わらず引きこもっていた。
「クソっ! こんな時は何をやっても上手く行かないね……200万が溶けてしまった……」
イトは眼前に並んだモニター群を凝視しながらイライラを爆発させていた。腕を組んで椅子にもたれ掛かる。暫くそうやって押し黙っていたが、思い出した様に口を開くと、
「……やはり、どう考えてもおかしい……自分の能力を忘れるなんて事があるのだろうか? 確かに無意識で能力が発動する事例は多数報告されてはいるが……」
イトは、アキトが語った言葉に違和感を感じていた。彼の能力の一つ、既視感覚は、目を合わせた者の過去を知る事が出来る。ただし、本人が覚えている事しか知る事は出来ないようだ。
「イト、コーヒーでも飲んで」
リリィが淹れたてのコーヒーをイトの机に置く。自身もソファに座って美味しそうにコーヒーを口へ運んでいた。
リリィの隣に一匹の黒猫が飛び寄った。リリィの太ももに顎を乗せると、
「ニャーに? いい匂いがするニャ」
「ミィナ、食べ物は無いよ」
イトが呆れてそう言う。
「そんニャに食い意地張ってニャいニャ! またあの、おおひがしニャんとかって子の事考えてたニャ?」
「アッキーよ……」
「そんニャニャまえだったかニャ?」
「君に探って貰った大東アキトだよ……リリィをどこぞの戦場で拾ってきて、僕の父親に預けた大東博士の息子だよ。博士は……僕の父親、長南教授が亡くなったのとほぼ同時期に亡くなってしまったらしい。半信半疑だったが、まず間違い無いだろう」
「ニャ!?」
「……」
リリィは無言で部室を出ていこうとするが、
「リリィ、どこへ行く?」
「アッキーに会いに……」
「よしたまえ。今の彼には君の記憶は無い。少し気になる事がある。折角だから君に頼もう。ミコちゃんと接触して欲しい。出来るかい、リリィ?」
「任せて……」
「あの様子じゃ彼女は君を拒絶するだろう。覚悟するんだ。そうそう、必ずミコちゃんとだけ接触しろ。アキトが居ると話がこじれる。接触したら彼女の能力の有無を探れ」
「……うん」
「ただ、君は目立ち過ぎる。変装するんだ。ゲリラ戦だよ。得意だろう? なるべく他の生徒に目撃されない様に頼むよ。理事長に迷惑を掛けたくない」
「了解……」
リリィは内ポケットからサングラスを取り出し装着すると、愛用のアサルトライフルを肩に掛ける。
「リリィ! それは置いてくんだ。ここは日本なんだよ。もう二年も日本で暮らしてるのにまだ慣れないのか?」
「……落ち着かないの……」
「……せめてハンドガンにしてくれ」
そう言うとイトは机の引き出しからハンドガンを取り出す。手製のダミーカート入りのマガジンと一緒にリリィへ投げて寄越した。
リリィは不満そうにしながらも、細い脚にニーソックスの上からホルスターを装着すると、ハンドガンにマガジンを装填し、ホルスターに仕舞う。
「頼むから、目立つ様な行動は控えて欲しいね。ミィナ、ついて行ってあげてくれ」
「一人で大丈夫……」
「ダメだ!」
いよいよリリィの顔が曇ってきている。分かりづらいが、感情を表に出すことの無いリリィの事だ。少しの変化でイトもミィナも驚いてしまう。
「リリィ、ワガママはダメニャ。一緒に行くニャ」
「……分かったわ」
ミィナはホッとした様子で歩き出し、扉の前で止まる。
「今、扉を開けるニャ」
ミィナがぷにぷにとした肉球を扉に当てた瞬間、ガチャりと音がした。
「ミィナ、いつも通り出たら施錠を頼む。この前の様に忘れないでくれたまえ」
「分かってるニャ。じゃあ、行ってくるニャ」
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リリィはつま先でトントンと二度三度地面を叩くと、猛スピードで駆け出した。ミィナが急いで追い掛ける。
「待つニャ! どこへ行くニャ!」
「まずは屋上……高所から様子を伺うのがセオリー……見つからない様に、一気に駆け抜ける」
「それはスニャイパーのセオリーじゃニャいのニャ!?」
部室棟を出ると、いよいよトップスピードに乗ったリリィは風の様に疾走する。リリィに追い付き並走するミィナと共に、授業中の教室の窓から複数の生徒に目撃されている事を、一人と一匹は知る由もなかった。
階段を駆け上がり、踊り場では壁を使って高速ターンを繰り広げるリリィに、少し遅れながらも必死でついて行くミィナ。
「ニャ!?」
二階から三階へと続く踊り場に差し掛かった時、一人の生徒の姿を捉えたミィナは、ぶつかる! と本気で思ったが、リリィは冷静に壁を蹴って飛び上がり、空中で体を捻りながら宙返りする。階段の中腹に見事着地すると、そのままの勢いで屋上へと駆け去っていった。
踊り場には唖然とした表情の女子生徒と急ブレーキを掛けたミィナが残され、顔を見合わせていた。
「縞パン……?」
振り返ってそう呟いた女子生徒の脇をそそくさとすり抜け、ミィナはリリィを追って屋上へ続く階段へと消えていった。
屋上に着いたリリィは落下防止フェンスの上に立ち、眼下を見下ろしていた。
「リリィ、危ニャいニャ」
ミィナはぴょんとフェンスに飛び乗る。
「ニャんで授業中ニャのに階段に生徒が居るニャ……危ニャかったニャ……」
「見られてしまったわ」
「しょうがニャいニャ……で? ニャにしてるニャ?」
「放課後になれば生徒が玄関から出てくる……ここから探すの」
「……上手く見つけられるかニャ?」
「大丈夫……目は良いから」
リリィは無表情でじっと眼下を見つめていた。ミィナは欠伸をしながらリリィを見ている。
「……パンツが丸見えニャ……もう少しお淑やかにニャって欲しいもんニャ……」
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放課後になると、校舎の玄関からワラワラと生徒達が出てくる。リリィは制服の内ポケットから単眼鏡を取り出すと、一人一人確認していく。
「……目は良いんじゃニャかったかニャ?」
ミィナは欠伸をしながらそう言った。
「……見つけた」
「ニャ!?」
「でもダメ。アッキーが傍に居る」
リリィは内ポケットから手鏡を取り出すと、太陽光を反射させミコに合図を送る。
眼下のミコはキョロキョロと周りを見渡すと、リリィの存在に気づいた様子で、指で自分を指し、その後リリィに向かって指を突き出した。
私がそっちへ行く。という事のようだ。
リリィはフェンスから飛び降りると、校舎へ戻る扉へ向かう。
「ニャ! リリィ! 誰か来るニャ!」
ミィナは耳をピクつかせている。誰かが屋上に向かっているようだ。扉が開かれる。
リリィはすぐさまUターンし、フェンスを飛び越えると、直ぐ下の三階の教室を覗き込んだ。近くに窓が開いている教室を見つけ、壁にぶら下がると、体を振って教室へと飛び込む。教室には何人かの生徒がいたが、皆あんぐりと口を開け驚いている。リリィは無視して教室を飛び出し、階段に向かって疾走した。
「人が多過ぎるニャ!」
しっかりと付いてきていたミィナが叫ぶ。
「……一旦離脱するわ」
階段を壁と手摺りを上手く使って一瞬で駆け降りたリリィとミィナは開いている窓へと飛び込み、一階へと消えていった。
「……相変わらず凄まじい能力だニャ……性能拡張を使われたらついて行くのが精一杯だニャ」
「……私にはこれしか無いから……」
「そんニャ事はニャいニャ。リリィは二つの恵まれた能力の他にも一杯いい所があるニャ。むしろ、存在自体がチートだニャ。自信を持つニャ」
「ミィナ、ありがとう」
「……ところで、これからどうするニャ?」
「もう一度見つけて合図を送るわ」
「……リリィは目立ち過ぎるニャ。ここで待ってるニャ。あの子を連れてくるニャ」
ミィナはそう言うと校舎へと入っていった。
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「ニャーォ」
ミコを見つけたミィナは一声鳴いてじっとミコの目を見ていた。
「……かわいい猫ちゃんですね。こんな所にどうしたんでしょうか」
ミィナはゆっくりと近づいてくるミコを確認し、ちょっとずつ距離を取る。
「猫ちゃん? 逃げなくても大丈夫ですよ?」
ミコが止まるとミィナも止まる。ミコが動くとミィナも同じ距離だけ動いた。ミィナはゆっくりと歩き出し、少し歩くと振り返る。
「……ついて来い、という事でしょうか?」
ミィナに先導されて向かった先には、金髪金眼の少女、リリィがいた。リリィを見つけたミコは険しい表情に変わり、大声で捲し立てる。
「リリィさん! これは一体何のつもりですか! これ以上私たちに関わらないでください! 私たちを放って置いてください!」
「ミコミコ……私は……」
「近寄らないで下さい!」
フラフラと寄ってくるリリィをたしなめるミコ。その目は明白な拒絶を表していた。
「……ミコミコの能力に興味があるの」
――!
「リリィさん!」
リリィは叫んだミコの瞳に吸い込まれるような気がした。不思議な事に警戒していた筈のリリィは微動だに出来なかった。
ミコは何事も無かったかのようにクルっと背を向けると、歩いて校舎へと戻っていった。
「リリィ? ミコニャンは行ってしまったニャ? ニャにをぼーっとしてるニャ? 追わなくていいのかニャ?」
「ミィナ……私はここで何をしているの?」
「ニャニャ!?」
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「それは凄いね……相手に触れなくても発動出来るのか……気を付けなければ……目を合わせなきゃ良いのだろうか」
「あたしはニャんともニャいから、多分そういう事ニャ」
「……まあ、猫と人が同じ結果かは分からないが……」
部室に戻ったリリィとミィナはイトに体験した出来事を話していた。コーヒーを飲みながら、イトは何事かを思考しているようだ。
「イト、ごめんなさい。失敗したみたいで……やっぱり何も思い出せない……」
「しょうがないよ、僕が浅はかだった。リリィ、君はもう休むといい。能力を使ったのだろう?」
「うん。ありがとう」
「……さてと。なかなかに相手も手強そうだ。これは一つ、博打を打つ必要があるねぇ」
そう言ったイトの口元は微かに笑っているように見えた。
いつも読んで頂いてありがとうございます。
次回より2章スタートとなります。
1日1話では追いつかないので、出来次第アップさせて頂きます。
宜しくお願いします




