第95話 機械の王子
彼の機械化した腕がゆっくりと上げられた。
金属の関節が滑らかに動き、微かな駆動音を立てる。指先からは微細なワイヤーが伸び、空中で不気味に蠢き、蜘蛛の糸のように周囲を覆い始めた。
「私は病に冒されていた。不治の病だ」
彼の声は機械的な響きを帯びていたが、かつての人間らしい激情が込められていた。
「医師たちはもう長くないと宣告した。だが、私は受け入れなかった。なぜなら私は王国の第一王子であり、この国を導く使命があるからだ!」
「古代遺跡の研究の中で、私は『機神』の技術を知った。肉体は朽ちても、魂は機械の中に永遠に生き続ける技術を!それは進化の次の段階だ!人間は脆い肉体から解放され、より高みへと昇るべきなのだ!」
アーサーが杖を打ち付け、低い声で言った。
「愚かなり。魂の転写などというものは、単なるコピーに過ぎない。本物の魂が移るわけではない。殿下はご自身のコピーを作り、本物のご自身は死の闇の中に消えていったのだ」
「黙れ老いぼれ!」
クラウスの片目が激しく赤く光った。
「私は確かにここにいる!記憶も、感情も、意志もすべて持ったままだ!」
その瞬間、キースの矢が放たれた。
青く光る矢は風を切り、機械化した王子の肩を貫いた。魔法金属と機械部品が衝突し、火花が散る。
「ぐっ……!」
傷口からは血ではなく、火花と黄金色のオイルが噴き出しただけだった。
彼はゆっくりと肩の矢を引き抜き、金属の指で粉々に砕いた。
「虫けらが……!」
彼の怒りが爆発した。
無数のワイヤーが突然、生き物のようにうねりだし、周囲の兵士たちに向かって襲いかかった。
数人が捕捉され、悲鳴を上げて空中に引きずり上げられる。
「今だ!」
レオンが叫んだ。
ガレスが咆哮を上げて突進した。
大斧が弧を描き、何本ものワイヤーを断ち切った。
切断されたワイヤーは地面で蠢き、油のような液体を撒き散らした。
アーサーは杖を高く掲げ、古代語を詠唱し始めた。
地面から光の鎖が現れ、クラウスの動きを縛ろうとする。
しかし機械化した体は、魔法に対する抵抗も強かった。
魔法の鎖は次々と崩れ、光の破片となって散っていった。
「魔法など、古の遺物に過ぎない!」
クラウスが嘲笑した。
彼の声には、もはや人間らしい温かみはなかった。
「機神の技術の前には無力だ!私は進化した!私は永遠なのだ!」




