第94話 機械の支配者
城庭の空気が重く淀む。
クラウス殿下……いや、もはやその名で呼べる存在かどうかさえ怪しい。
体は変容は止まることを知らなかった。
人間の輪郭を辛うじて保ちながら、皮膚の下から機械の部品が隆起し、関節からは油圧の音が軋み、片目から漏れる赤い光が、不気味に脈打っていた。
彼の背後から伸びた無数のワイヤーは城壁に食い込み、石積みを割り、彼を中心にした蜘蛛の巣のような支配網を形作っていた。
「見よ、これが進化の姿だ!」
殿下の声は、人間の声と機械的な倍音が混ざり合い、城壁に反響した。
「痛みも、病も、老いもない!永遠の命と完璧な力を手に入れた!これが人類の未来だ!脆弱な肉体に縛られる時代は終わる!」
フリーデリカ子爵とその家臣たちは、非戦闘員の避難と城塞の封鎖を急いでいる。
「殿下」
レオンの声は静かだが、城庭全体に響き渡った。
彼は、剣を構えながらも、最後の言葉を投げる。
「もう一度だけお尋ねします。この道を諦め、人間としての尊厳を取り戻すことはできませんか?」
クラウス……機械化したその存在は、歪んだ笑みを浮かべた。
その笑みは、人間の表情筋の動きと、機械的に制御された顔面部品の動きが組み合わさった、不自然なものだった。
「尊厳?レオン、お前はいつもそんな感傷的な言葉に縛られていたな。勇者パーティーからお前を追放した理由の一つもそこにある。真の進化には、古い価値観の捨て去りが必要なのだ。人間の尊厳とは何だ?痛みに泣き、病に倒れ、老いて無力になることのどこに尊厳がある?私はそれを超越した。感傷的な倫理観に縛られず、純粋な効率と力によって世界をより合理的に導く。これが真の進化だ」
レオンは、クラウスの言葉に、深い失望と決断を感じ、仲間たちを見回し、それぞれが最終的な準備を整えていることを確認した。




