第89話 再び死者の谷へ
翌日、民衆勇者たちは再び死者の谷へ向かった。
今回は東嶺の精鋭20名に加え、ルドルフ侯から送られた北境の戦士10名も合流した。
総勢30名以上の部隊が、朝もやの中を進んでいく。
一方キースとアーサーは岩壁の前に立っていた。
アーサーの杖が岩を叩く音は、空洞のような反響を返した。
長い年月で緩んだ人工的な塞ぎ跡は、彼らの推測を確かなものにした。
「力を合わせて」
キースが低く言い、肩を岩壁に押し付けた。
軋む音と共に岩が動き、暗いトンネルの入口が現れた。
中から流れ出す冷たい空気には、かすかに油と金属の匂いが混じっている。
遠くからは規則正しい機械音が響き、古代の技術がまだ動き続けていることを物語っていた。
アーサーが杖の先をかすかに光らせ、暗闇を照らした。
「地図は正しかった。これこそが保守用通路だ」
2人は身をかがめてトンネルに入った。
壁は滑らかな金属板で覆われ、所々に青白く光る古代文字が刻まれていた。
足元にはほこりが積もっているが、中央の通路は定期的に清掃された痕跡があった。
「誰かがここを使っている」
キースが警戒して剣に手をかけた。
「機神兵か、それとも……」
アーサーの言葉が途中で止まった。
前方の曲がり角から、かすかな足音が聞こえてきた。
一方、谷の入口ではレオンが最後の指示を与えていた。
30名以上の部隊は緊張した面持ちで時を待っていた。北境の戦士たちは荒々しい鎧をまとい、東嶺の精鋭たちは整然と列を組んでいる。
ガレスが大斧を振り回しながら不平を漏らした。
「正面からぶつかれないなんて、戦士として面白くないぜ」
エリザが冷静に答えた。
「今日の目的は勝利ではなく、時間稼ぎです。キース様たちが内部から機神兵の制御を止めれば、無駄な犠牲を出さずに済みます」
時計の針が正午を指した。
「行くぞ!」
合図と共に部隊が谷へ突入する。
その瞬間、無数の警報音が谷全体に鳴り響いた。
陽光を反射する銀色の装甲が四方から現れ、瞬く間に包囲網が形成される。
「散開せよ! できるだけ多くの敵を引きつけろ!」
レオンの指示で部隊は3つのグループに分かれ、谷の異なる区域へと散っていった。
剣が金属装甲にぶつかる鋭い音、魔法が爆発する轟音、指示を叫ぶ声が入り混じり、死者の谷は混沌の坩堝と化した。
レオン自ら前線に立ち、機神兵の一団を引きつけた。彼の剣技は流れるように優雅でありながら、一撃ごとに確実に敵の動きを封じた。
だが、機神兵の数は減る気配がなく、次々と新しい部隊が戦場に現れる。




