第83話 プロトタイプ・ゼロ
アーサーは杖を掲げ、新たな詠唱を始めた。
「これが最後の術になるかもしれぬ……大地の縛りよ!」
地面が大きく揺れ、石の腕が這い出し、ガーディアンたちの足を掴み、動きを封じていたが、その術を維持する魔力は彼の限界を超えていた。
杖を支える指が震え、額に冷や汗がにじむ。
「アーサー!」
レオンが駆け寄ろうとした瞬間、アーサーは必死に首を振った。
「気にするな! 進め!」
その声には、もはや余力のない覚悟がにじんでいた。
レオンは歯を食いしばり、霧見の水晶を握りしめた。
光る宝玉は彼の手の中で微かに脈打ち、アルフォンスの冷たい視線を浴びていた。
彼は走り出し、水晶を高く掲げた。
その純白の光がアルフォンスの顔を直撃した。
「その野望は終わりだ!」
アルフォンスは目を細め、手に持っていた制御装置を操作した。
彼の口元に、薄い、しかし確かな嘲笑が浮かんだ。
「愚か者め。お前たちの抵抗も、すべて計画の一部だ。戦闘データを収集させてもらっている。お前たちのような優れた戦士たちの動きは、次世代機神兵の開発に大いに役立つだろう」
レオンの背筋が凍りついた。
「つまり……我々を実験台に?」
「そうだ。そして十分なデータが集まった。そろそろ終わりにしよう」
アルフォンスが装置のボタンを押すと、地下空洞の中央が開き、巨大な何かがゆっくりと昇ってきた。
それは人間の形をしていたが、その大きさは通常の三倍はあり、全身が黒光りする金属で覆われていた。
背中には無数の銀色の糸が生えており、それらが無機質に蠢いている。
最も不気味だったのはその顔だ。
目も鼻も口もない。
代わりに無数の小さなレンズが蜂の巣のように埋め込まれており、一つ一つが微かに動き、焦点を合わせている。
「機神将『プロトタイプ・ゼロ』だ。
古代の技術の粋を集め、殿下自らが設計された。お前たち人間の限界を、思い知らせてやろう」
プロトタイプ・ゼロのレンズが一斉に赤く輝いた。
無数の光点が集まり、一筋の太い赤い光線となって放たれる。
その光が当たった石の床が、まるで蝋のように溶けていった。蒸気と焦げ臭い匂いが立ち込める。
「逃げろ!」
レオンが叫んだが、すでに遅かった。
プロトタイプ・ゼロの銀色の糸が無数に伸び、あらゆる方向から攻撃してきた。
東嶺の兵士たちの盾はあっという間に切り裂かれ、数名が傷ついた。
「散開せよ!一点集中攻撃を避けろ!」
エリザの声が響いた。
彼女は剣を抜き、前方に立つ。
しかし、その目には初めて戸惑いの色が浮かんでいた。
プロトタイプ・ゼロの攻撃はあまりにも速く、予測不能だった。
銀色の糸は一度に十方向を攻撃し、防御の隙を突いてくる。
アルフォンスが高笑いを上げた。
「見よ!これが新たな時代の力だ!お前たちのような古い種族に未来はない!」
プロトタイプ・ゼロが一歩踏み出した。
その重い足音が空洞に響き、地面が震えた。銀色の糸が再び蠢き、次の攻撃の準備を始める。




