第76話 霧の巨人と古代の機神
ガレスが既に動いていた。
彼は巨人の右側から大きく迂回し、霧の壁を切り裂くように突進する。
巨人は遅れた左側を守るように腕を動かすが、その動きは確かにキースの指摘通り、わずかに遅い。
「今だ!」
ガレスが跳躍し、大斧を振り下ろす。
彼の全身の力が斧に込められ、刃が濃密な霧の塊に突き刺さる。
一瞬、何も起こらないかと思われた。
巨人の動きは止まらず、霧の腕がガレスを払おうとする。
しかし次の瞬間、金属が軋むような甲高い音が谷全体に響き渡り、巨人の動きが止まる。
左足の付け根から青白い閃光が迸り、霧の体に亀裂が走る。
霧の巨人から悲鳴のような轟音が上がる。
その音は人間の声ではなく、機械が限界を超えて稼働するような、不気味な金属音だった。
「続けろ!」
レオンが叫ぶ。
アーサーが詠唱を変える。
杖の先から放たれた光の矢が、ガレスの斧が突き刺さった地点へ一直線に飛んでいく。
光が霧に吸収されるかと思われたが、逆に霧が光を増幅し、巨人内部から青白い閃光が迸る。
巨人の体が震え、霧が激しく渦巻く。
赤く光っていた「目」が明滅し、次第に暗くなっていく。
霧の形が崩れ始め、巨人の輪郭がぼやける。
エリザが機を見て、精鋭たちに指示を出す。
「全員、後退せよ!」
レオンたちも急いで距離を取る。
巨人は最後の力を振り絞るように腕を上げようとするが、その動きは次第に緩慢になり、やがて完全に停止する。
霧の巨体が崩れ始める。
霧がゆっくりと地面へと沈み、渦巻きながら分散していく。
数分後、そこには巨大な機械の残骸だけが残されていた。
それは複雑に組み合わされた歯車と管の塊で、所々に青白い水晶が埋め込まれている。巨人の正体は、霧を操る古代の機械装置だったのだ。
レオンたちが慎重に近づく。
霧が薄まったことで、死者の谷の様子が初めて明らかになる。
谷は天然のものではなく、何者かによって掘り進められた巨大な坑道の入り口のように見えた。
岩壁には、廃鉱山で見たものと同じ、歯車と翼を組み合わせた紋章が刻まれている。
機械の残骸の中から、ガレスが歪んだ金属板を引き抜く。
それは人間の背丈ほどもある歯車の一部で、表面には複雑な魔術陣が刻まれている。
「これは……」
アーサーが息を呑む。
彼の指が魔術陣の線をなぞる。
「古代の機神術……伝説では、千年前の大戦で失われた技術とされていた。どうしてこんなものが…」




