第71話 金歯車の守護者
「金歯車だ!」
エリザの叫びが霧の中を切り裂いた。
灰色の鎧の者たちは、装置を守るように陣を構えている。
その中に、より精緻な装飾が施された鎧をまとった指揮官が立っていた。
その目は、冷たい決意に輝いている。
「よくもここまでたどり着いたな」
指揮官が剣を抜き、金属音が冷たく響いた。
「だが、これ以上は進ませぬ。『機神の炉』は殿下のものだ」
レオンは剣を構え、一歩前に踏み出した。
「クラウス殿下はなぜ、この古代の力を手に入れようとする? この力がどれほどの危険をはらんでいるか、わかっているのか?」
指揮官は冷笑した。
「殿下は、この腐りきった王国に新たな秩序をもたらすお方だ。貴族たちの横暴、貧富の差、無能な王政……すべてを一掃するために、古代の力こそが必要不可欠なのだ」
その背後で、古代の機械装置が不気味な音を立てて動き続けている。霧の巨人はまだ完全には止まっておらず、装置が破壊されるまで動き続けるだろう。
「ガレス、アーサー! 装置の破壊を頼む! エリザ、兵を率いて金歯車を食い止めろ! キース、指揮官を狙え!」
レオンの指示に、仲間たちは再び動き出す。
ガレスは大斧を振りかざし、装置の基部へと斬りかかった。
金属と金属がぶつかる鈍い音が響く。
アーサーは杖を高く掲げ、古代語の詠唱を始めた。
杖の先から魔力の奔流が放たれ、機械の外殻を焼き始める。
エリザは東嶺の精鋭たちに指示を飛ばした。
「散開せよ! 各個撃破だ!」
金歯車の傭兵たちが襲いかかる。
剣戟の音が谷中に響き渡り、鎧がぶつかり合う音、叫び声、倒れる者のうめき声が混ざり合った。
キースは岩陰に身を隠し、弓を引き絞った。
矢が風を切り、指揮官の足元に突き刺さる。
指揮官は咄嗟に身をかわし、キースの方向を見据えた。
レオンはその隙に、指揮官の前に立った。
「これで終わりだ」
2人の剣が激しくぶつかり合い、火花を散らした。
指揮官の剣術は洗練されていたが、レオンのそれは戦場で磨かれた実戦的なものだった。
「お前たちのような理想主義者が、王国を救えると思うか?」
指揮官が嘲笑しながら剣を振るった。
「現実を見よ! この腐敗した体制では、何も変わらぬ! 力こそがすべてだ!」
「力がすべてなら、お前たちはなぜ民を苦しめる?」レオンが切り返す。
「焼け跡の村を忘れたか? 無辜の民から奪ったものを、殿下は何に使う?」
指揮官の目が一瞬、揺らぎを見せた。ほんの一瞬だけ、確信が揺らいだように見えた。
「それは……必要悪だ。新たな秩序のためには、多少の犠牲は避けられぬ。やがて、すべての民が恩恵を受けることになる」
「必要悪?」
レオンの声に怒りが込もっていた。
彼は村の焼け跡を思い出していた。
泣く子供たち、何もかも失った老人の目、希望を失った人々の顔。
「民の命と暮らしを犠牲にする秩序など、意味がない!そんな秩序は、ただの暴力に過ぎない!」
レオンの剣が、鋭い弧を描いた。
指揮官がかわそうとしたが、遅かった。
剣先が指揮官の鎧の隙間を鋭く突き、鎖帷子の下の肉を切り裂いた。
指揮官はうめき声を上げ、よろめきながら後退した。手で傷口を押さえ、血が指の間から滲み出ている。
「ぐっ……!」




