第69話 霧の巨人
「ガレス! 左から囮になれ! キース、動きのパターンを崩せ! アーサー、霧そのものへの対処を!」
レオンの指示に、3人は即座に動いた。
ガレスは低く唸り、大斧を振り回しながら巨人の左側へと走り出す。
「こっちだ、でかいの!」
巨人の注意が一瞬、ガレスに向く。
その隙に、キースが放った矢が霧の奥へと消えていく。
矢には細いワイヤーが結びつけられており、霧の中を伝って何かに引っかかる音がした。
「当たった」
キースが短く報告する。
アーサーは杖を高く掲げ、古代語のような詠唱を始めた。
杖の先端から拡がる光の波紋が、周囲の霧をかき乱す。
霧が渦を巻き、巨人の輪郭が一瞬、ほんの一瞬だけ見えた。
その姿は、岩石と霧で構成された、人間の形をした何かだった。
目と呼べる部分には、不気味な赤い光が灯っている。
「機械……ではない」
アーサーが息を詰まらせた。
「これは……霧そのものが意志を持ち、形を成したものだ。古代の精霊術……いや、それ以上の何かだ」
エリザがレオンの傍らに駆け寄る。
「レオン様、この霧の性質、東嶺の古い記録に類似した記述があります。『死者の谷』は、かつて古代王国が禁忌の実験を行った地と言われています。霧は……境界を曖昧にするための『カーテン』かもしれません」
「境界?」
レオンが問う。
「現世と……異界との境界です」
その言葉に、レオンの背筋に冷たい戦慄が走った。
フリーデリカ子爵が警告していた「殿下」の計画「機神の炉」の真の目的が、少しだけ見えてきた気がした。
巨人は再び動き出す。
今度は両腕を振り上げ、地面を叩きつけるような攻撃を仕掛けてきた。
「全員、回避!」
レオンの叫びと共に、一行は散開する。
地面が大きく揺れ、亀裂が走る。
数人の東嶺兵がバランスを崩し、転倒する。
巨人はその隙を逃さず、霧の触手のようなものを伸ばし、兵士一人を巻き上げようとする。
「離すな!」
ガレスが飛び込み、大斧で触手を断ち切る。
救われた兵士は地面に転がり、すぐに立ち上がって槍を構え直す。
東嶺の精鋭たちは、恐怖に駆られながらも、確かな訓練の成果を見せていた。
レオンは霧見の水晶を高く掲げた。
水晶の光が、巨人の「顔」と呼べる部分を照らし出す。
そこには、単なる岩石の集合体ではなく、何かしらの紋様……歯車と翼を組み合わせたような紋章が浮かび上がっていた。




