第67話 霧の谷の封印
霧は濃く、谷全体を覆い尽くしていた。
レオンたちの前に現れた霧の騎士の顔は、深い闇のように空洞になっており、その中に微かな光がちらついているだけだった。
騎士は動かず、ただ立ち尽くしている。
「霧の幻影だ!」
エリザが叫んだ。
「気をつけて! 触れるな!」
しかし警告は遅すぎた。
ガレスが反射的に大斧を振るおうとした瞬間、霧の騎士が剣を抜き、信じられない速さで斬りかかってきた。
金属音が轟き、ガレスが後ろに跳び退く。
彼の鎧の胸板に、深い斬り傷が刻まれていた。
「実体があるのか!?」
ガレスが驚愕の声を上げた。
アーサーが杖を高く掲げ、呪文を唱え始めた。
「霧よ、散れ! 幻影よ、消え去れ!」
魔法の光が霧の中を駆け抜け、霧の騎士の輪郭をわずかに揺らした。
しかし、それは完全には消えなかった。
「魔力と霧が融合した実体だ!」
アーサーが叫んだ。
「この谷そのものが、侵入者を排除しようとしている!」
次々と霧の中から騎士の姿が現れ始めた。
10、20……数えきれないほどの霧の騎士が、一行を取り囲もうとしていた。
エリザが剣を構え、背後で20名の精鋭たちも戦闘態勢に入った。
「皆様、我々が囮になります! あなた方は進んでください!」
「ばかな!」
レオンが叫んだ。
「お前たちを置いていけるか!」
その時、キースが鋭く口を開いた。
「霧の動きに規則性がある。あの大きな岩の方向から、霧の流れが生まれている」
レオンがキースの指さす方向を見た。
確かに、霧は谷の奥深くにある巨大な岩の周りで渦を巻き、そこから騎士たちが生み出されているように見えた。
「あれが源だ!」
レオンが叫んだ。
「全員、あの岩を目指して進む! 霧の騎士たちを突破する!」
レオンたちと東嶺の精鋭たちは、霧の騎士たちの包囲網を突破しようと突撃を開始した。
剣と魔法が飛び交い、霧の中に閃光が走る。
霧の騎士たちは倒されてもすぐに再生し、終わりのない戦いが続いた。
しかし、霧見の水晶の光を頼りに、彼らは少しずつ巨大な岩へと近づいていった。
岩の側に到達すると、霧の濃度がさらに増し、視界はほとんどゼロに近くなった。
「ここだ!」
アーサーが杖を岩に打ち付けた。
「この岩に刻まれた古代文字……これは封印の紋章だ!」
レオンが近づき、岩の表面を触った。そこには、複雑な幾何学模様と、消えかけた古代文字が刻まれていた。
「この封印を解けば、霧が晴れるかもしれない」
アーサーが言った。
「だが、古代の魔法だ。解読には時間がかかる」
その瞬間、岩の陰から新たな影が現れた。
それはこれまでの霧の騎士たちよりも大きく、より詳細な鎧のディテールを持っていた。そして、その手には、光る長槍が握られていた。
エリザが息を呑んだ。
「あの鎧の紋章……それは、千年以上前に滅びた『機神騎士団』の紋章です!」
霧の巨人がゆっくりと槍を構え、一行に向かって突進してきた。
その動きは重厚ながらも驚異的な速さで、谷全体が震えるほどの勢いだった。
レオンは仲間たちを見渡し、決意の眼差しを交わした。




