第64話 死者の谷の霧
キースがそっと部屋に入ってきた。
「見張りは完了した。城の周囲に不審な動きはない」
「ありがとう、キース」
レオンが振り返った。
「明日からが本当の戦いだ。今までのすべては、そのための前哨戦に過ぎなかった」
キースは片目を細めて窓の外を見た。
「谷の霧は、自然のものではない。魔術がかかっている。千年も保つ魔術だ」
「機械魔術師の防御手段か…」
「ああ。だが、どんな魔術にも、弱点はある」
レオンは革の筒を手に取り、中から財務卿の不正の証拠文書を取り出した。
薄い羊皮紙に記された数字と記録は、どれもが民衆から搾取された富の痕跡だった。
「我々は、ただ戦っているのではない。真実のために戦っている。この文書も、廃鉱山で見た機械も、すべては大きな真実の一片だ」
キースは無言でうなずいた。
彼は言葉少ない男だが、その沈黙には仲間たちへの信頼と、任務への確信が込められていた。
ドアがノックされ、アーサーとガレスが入ってきた。
「明日の準備は整った」
ガレスが言った。
「武器も鎧も、最高の状態だ」
アーサーは杖を軽く床に叩きつけた。
「霧に対する対抗呪文もいくつか準備した。だが、千年の魔術には、どれほど効果があるか……」
「我々はもはや、4人の民衆勇者だけではない」
レオンが静かに言った。
「真実を求める者たちの連合だ。明日、死者の谷で何が待ち受けていようと、我々は立ち向かう」
4人は固い決意を胸に、それぞれの部屋へと散った。
城塞の外では、冷たい風が山々を渡り、遠くで狼の遠吠えが聞こえた。
東嶺の夜は深く、星々がきらめいていた。
その星明かりの下、古代の秘密と王国の運命を握る戦いの舞台が、静かに準備されていた。
そして夜明けと共に、真実を求める者たちの、最も危険で重要な旅が始まるのだった。




