第63話 霧の谷の誓い
広間が重い沈黙に包まれた。
窓の外では、日が完全に沈み、最初の星が輝き始めていた。
フリーデリカが顔を上げ、レオンたちとグスタフを見渡した。
「私は東嶺の統治者として、この領地と民を守る義務があります。殿下の計画が真実なら、彼が成功することは許されません。ですが、正面からの反抗は、東嶺の壊滅を招くだけでしょう」
レオンが一歩前に出た。
「我々には選択肢があります。殿下が到着する前に、『機神の炉』へ向かい、彼の計画を阻止するのです」
ガレスが低く笑った。
「つまり、また戦いか。悪くない」
キースが微かにうなずいた。
「霧の谷なら、私の目が役に立つ」
アーサーは杖を握りしめた。
「古代の魔術機械か……この老いぼれの知識が試される時が来たようだ」
グスタフがフリーデリカを見た。
「お前はどうする、フリーデリカ? この計画に加わるか?」
フリーデリカの目に決意の光が灯った。
「私は東嶺子爵です。この地の秘密を守り、民を護るのは私の責務です。ですが、私は戦士ではありません。……ですから」
彼女はエリザを見た。
「私の代理として、エリザと東嶺の精鋭20名を同行させます。彼らはこの地の地理に詳しく、霧の谷でも道に迷わないでしょう。そして私自身は、城に留まり、殿下の訪問への準備を整えます。時間を稼ぎ、諸君の行動を可能な限りカモフラージュしましょう」
レオンが深く息を吸った。
「では、作戦は決まりました。明日の夜明けと共に、『死者の谷』と『機神の炉』へ向かいます。殿下の計画を阻止し、王国の真実を明らかにするために」
フリーデリカが机の引き出しから、小さな水晶のオーブを取り出した。
「これは『霧見の水晶』です。死者の谷の霧の中でも、周囲数十メートルならば視界を保てます。持って行きなさい」
レオンに渡された霧見の水晶は、彼の手のひらに収まる大きさだったが、不思議な重みを感じさせた。エリザたち兵士も、より小さな霧見の水晶をそれぞれ持っているという。
そして彼女はレオンを真っ直ぐ見つめた。
「レオン様。あなたは王国から追放されながらも、民のために戦うことを選びました。その覚悟が、東嶺の運命を変えるかもしれません。どうか、無事に戻ってきてください」
レオンはうなずき、水晶を受け取った。
「約束します。真実を携えて」
その夜、レオンたちとグスタフの兵士、エリザ率いる東嶺の精鋭は、明日の旅に備えて休息を取った。
城塞の客室で、レオンは窓辺に立ち、遠くに広がる暗い山々を見つめていた。
そこには、古代の秘密と、王国の未来を左右する技術が眠っている。そして、それを手に入れようとする王子の野望が迫っている。




