第60話 東嶺子爵フリーデリカ
一行は難民たちに残りの物資を残し、エリザの先導で東嶺の中心部へと急いだ。
道中、エリザは東嶺の状況を詳しく説明した。
「子爵は当初、これらの襲撃を単なる野盗の仕業と考えておられました。ですが、奪われるものがあまりに特定されていること、襲撃部隊の規律の高さから、背後に大きな組織がいることに気付かれました。そして1週間前、王都から正式な通達が届いたのです」
「クラウス殿下の訪問についてか?」
レオンが尋ねた。
エリザは驚いたようにレオンを見た。
「……はい。殿下は『東嶺の古い技術と魔術の融合に関する研究視察』として、1週間後に来訪されるとのこと。ですが、子爵はこれを疑っておられます。殿下の訪問と襲撃事件が無関係とは思えないと」
アーサーが深くうなずいた。
「当然の疑念だ。殿下は表向きの理由で東嶺に入り、その間に何か大きなことを成し遂げようとしている可能性が高い」
山道を登り切ると、眼前に東嶺の城塞が現れた。
西山の城塞が威圧的な戦闘要塞だったのに対し、ここは優美さと堅固さが調和した建造物だった。
高い尖塔がいくつもそびえ立ち、窓には精巧なステンドグラスがはめ込まれている。
城の周囲には、段々畑が広がり、多くの工房からは鍛冶の音や、不思議な機械の動作音が聞こえてきた。
城門を通り、中庭を横切ると、彼らは広間へと導かれた。
広間の奥には、玉座というよりは大きな仕事机が置かれており、その前に一人の女性が立っていた。
東嶺子爵フリーデリカ・フォン・リヒテンフェルスは、年齢は30歳前後だろうか。
銀色がかったブロンドの髪を簡素に結い上げ、実用的ながらも品位のある青いドレスを身にまとっている。
その顔は美しいが、何よりも印象的だったのは、鋭く澄んだ知性の光を宿した碧眼だった。
彼女の周囲には、開かれた本や巻物、複雑な設計図が散らばっており、まさに「理知的な統治者」という言葉がふさわしい雰囲気を漂わせていた。




