第57話 東嶺への急報
キースが遠くの山々を見つめる。
「彼らは移動する。次の拠点へ」
ガレスが大斧を肩に担ぐ。
「ならば、追うしかあるまい。だが、次はもっと準備が必要だな」
夜明けが近づき、東の空が薄明るくなり始めていた。レオンたちは、グスタフ男爵と共に城塞へと戻る道を歩き始める。
男爵がレオンを見つめる。
「わしはお前たちに協力する。クラウス殿下の野望を止めるために。そして……」
男爵の声が詰まる。
「あの兵士たちの無念を晴らすために」
レオンはうなずく。
「次の目的地は、東嶺子爵フリーデリカの城塞です。ヴァイダー卿の計画通り、彼女を説得しなければ」
アーサーがため息をつく。
「だが、まずはこの事実を、どう伝えるかだ。信じてもらえるかどうか」
一行は沈黙して山道を登る。
背後では、崩落した廃鉱山が、闇の秘密を再び地中に封じ込める。
しかし、レオンたちは知っていた。この戦いは、単なる権力闘争でも、領土争いでもない。人間の尊厳そのものが問われる、根本的な戦いであることを。
そして、彼らが立ち向かうべき敵は、単なる悪党ではなく、人間の弱さと恐怖から生まれた、歪んだ「進化」の理想を追う者たちであることを。
城塞が見えてきた時、レオンは革の筒を握りしめた。中には、財務卿の不正の証拠文書がまだ入っている。しかし今、彼らが抱える真実は、あの文書よりも重く、暗いものだった。
「東嶺子爵フリーデリカには、すべてを伝えよう」
レオンが言う。
「隠すべき真実など、もう何もない」
グスタフ男爵がうなずく。
「フリーデリカは理知的な女性だ。だが、この話を信じるかどうか……」
キースが突然、空を見上げる。
「鷹がいる。遠くから来た鷹だ」
空高く、一羽の鷹が旋回している。その足には、何かが結びつけられている。
アーサーが目を細め、手をかざして陽を遮った。
「伝書鳩ではない……あれは、東嶺の鷹だ。フリーデリカ子爵の使いだ」
鷹はさらに旋回を続け、突然急降下を始めた。風を切る音が聞こえ、一瞬でキースの前に現れた。キースは反射的に腕を差し出し、鷹は軽やかにその腕に止まった。金色の目が鋭く光り、足には小さな筒が革紐で結びつけられている。
レオンが筒を開け、中の手紙を取り出す。
読み進めるうちに、彼の表情が険しくなる。
「何と書いてある?」
ガレスが問う。
レオンが顔を上げ、仲間たちを見渡す。
「フリーデリカ子爵からの伝令だ。『急ぎ来たれ。東嶺にて、金歯車に似た者たちの動きを確認した。そして……王都より、クラウス殿下自らが、東嶺を訪れるとの報せあり』」
一同の空気が張り詰める。
グスタフ男爵が低く唸る。
「殿下自らが……ついに表舞台に出てきたか」
レオンが手紙を握りしめる。
「我々の旅は、新たな局面を迎える。東嶺へ急ごう」




