第51話 深き坑道の咆哮
「話せ」
レオンの剣先が、男の喉元に触れる。
「『殿下』とは誰だ? この『機造兵』を造っている『工房』はどこにある? 焼け跡の村と、これらはどう繋がっている?」
男は蒼白になり、歯を食いしばった。
「……話せるか、そんなこと。殿下の怒りは……」
その時、坑道の奥深くから、地響きのような低い唸り声が聞こえてきた。
それは、先ほどの機造兵たちの音とは次元が違う、重く、不気味で、生き物のようでもあり機械のようでもある轟音だった。
グスタフ男爵の顔色が一変した。
「まさか……『試作機』が……動いているのか? 奴ら、ここで……!」
唸り声はどんどん大きくなり、坑道の壁が細かい砂を落とし始めた。
金歯車傭兵団の指揮官でさえ、恐怖に目を見開いた。
「あ、あれは……まだ制御不能のはず……工房長が……」
レオンは男をガレスに押し付け、坑道の奥を見つめた。
暗闇の深部で、2つの赤い光が、ゆっくりと灯り始めていた。
ドガン!
次の瞬間、坑道全体が激しく揺れた。
レオンの足元の岩盤が軋み、みしみしと不気味な音を立てて、蜘蛛の巣のような亀裂が一気に走り広がる。もはや、これは戦場ではない。
「全員、撤退!」
レオンの号令が、轟音と岩の軋む音を切り裂いた。
彼の声は極限の状況下でも氷のように冷静だが、その中に緊迫の線が張り詰めている。
命令は短く、明確だ。
「ガレス、捕虜を連れて先行しろ。男爵、我々を地上へ導け。最短ルートでだ。迂回している余裕はない」
彼は剣を構え直す。
仲間たちを後ろへ退がせるように、自分が盾となるように、一歩前に踏み出した。
視線は坑道の奥、あの不気味に輝く2つの赤い光から離さない。
光は、ゆっくりと、しかし確実に、大きくなっている。接近している。
「動け!」
その一声で、凍りついていた時間が再び動き出す。
ガレスが蒼白な男の襟首を掴み、男爵は必死に記憶を辿りながら、来た道を引き返し始める。
金歯車傭兵団の残党も、もはや戦意などなく、這うようにして逃げ惑う。
レオンは最後尾を守りながら、後退する。
背後から響く唸り声と、地を這うような重い機械音が、彼の背中に冷や汗を走らせる。
赤い光は、暗闇の中でゆらめき、彼を追いかけてくる悪意そのもののように感じられた。
何とかして、坑道を抜け、冷たい夜気が立ち込める地上へと辿り着いた。
一同は、文字通り「這い出る」ようにして、グスタフ男爵の城塞の裏口から中へと滑り込んだ。
重厚な鉄の扉が閉ざされ、外の不気味な轟音がかすかに聞こえるだけになった時、初めて、人々は肩の力を抜き、深く、震えるような息を吐いた。
一同の顔には、生還した安堵と、地下で目撃したものへの深い恐怖が、まだらに混ざり合っていた。
ランタンの灯りが、彼らの土埃にまみれ、汗と恐怖で濡れた顔を照らし出す。




