第47話 城塞の影
城塞の客間は、粗削りだが堅牢な石造りで、暖炉の炎がゆらめき、冷たい山の夜気を追い払っていた。
レオンたちに与えられたのは、衛兵たちの詰め所に近い、簡素な一室だった。
ベッドはわらが詰まった粗末なものだが、清潔で、窓からは城塞の中庭と、遠くに連なる西山の稜線が見えた。
ガレスが背中の大斧を壁に立てかけ、大きなあくびを一つした。
「はあ……『鉄槌』の説得、か。思ったより話が早く進んだな。あの男、筋は通っている」
アーサーは暖炉の前の椅子に腰を下ろし、古びた杖を膝に横たえた。
炎の光が彼の深いしわをくっきりと浮かび上がらせる。
「ふむ……早すぎるかもしれん。グスタフ男爵は、証拠文書を一目見て、即座に協力を約束した。彼ほどの人物が、王都からの使者すらねじ伏せたというのに、我々の言葉をあそこまで素直に聞き入れるとは……」
レオンは窓辺に立ち、暗くなりゆく中庭を見つめていた。
衛兵たちが規律正しく巡回し、鍛冶場からは遅くまで槌の音が響いている。
男爵の城は、確かに戦いのための要塞だったが、同時に、統治の行き届いた共同体の様相もあった。
「彼は、我々が焼け跡の村について質問した時、明らかに動揺していた」
レオンが振り返って言った。
「そして、あの『黄金の歯車』の杯を見た時の目……あれは、単なる装飾品ではない何かだ」
キースが、部屋の隅で革の水筒を手入れしながら、低く口を開いた。
「城の『匂い』が、2つある。」
3人の視線がキースに集まる。
「……説明してくれ、キース」
レオンが促した。
キースは片目を細め、言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。
「1つは、鉄と汗、規律の匂い。衛兵、鍛冶、厩舎……城の表の顔だ。だが、もう1つ……地下から、かすかに漂ってくる。錆びた金属、古い羊皮紙、それに……薬草と、腐敗が混じった匂い。」
アーサーの目が鋭く光った。
「地下牢か? それとも……」
「実験場、あるいは隠された工房かもしれん。あの歯車の紋章は、我々が廃村で見たものと同類だ。男爵は、あの略奪が『自分の配下の所業ではない』と言った。ならば、誰が? そして、なぜ彼はそのことを隠すように話した?」
レオンの胸に、冷たい疑惑が渦巻いた。
グスタフ男爵は味方になった。
少なくとも、表面上は。
しかし、この城塞の地下には、彼らに明かされていない真実が眠っているかもしれない。
財務卿の陰謀は、単なる汚職や権力闘争を超えた、何かもっと深いものに繋がっているのか?
その夜、レオンは浅い眠りについた。
夢の中で、彼は再び焼け跡の村に立っていた。
灰が風に舞い、泣き声のような音が聞こえる。
そして、遠くから、規則正しい歯車の回る音が、カチ、カチ、カチ……と響いてきた。




