第45話 黄金の歯車
レオンは革の筒を開け、中の文書を取り出した。
その動きと同時に、グスタフ男爵の目が、ほんの一瞬、暖炉の脇の机に置かれた、黄金の歯車の模様が刻まれた杯に移った。
その視線には、複雑な感情。
怒り、諦め、そしてある種の悲哀が混ざっているようにレオンには見えた。
「これが、財務卿が北境の救援物資と税金を横領し、私腹を肥やしている証拠です」
レオンが文書を差し出した。
「中には、西山の鉱山から上がる収益の不当な割合が、王都の彼の私邸の建設費として流用されている記録もあります」
男爵は文書を受け取ると、ざっと目を通した。
彼の眉が次第に険しく寄せられていく。
広間の空気がさらに重くなるのを感じた。
「……ふん。この数字は、わしが王都に報告した額と一致している」
男爵が低く唸った。
「では、財務卿の悪事を暴くために、なぜわしの城へ? ヴァイダー卿なら、直接王に奏上すればよいではないか。」
その時、これまで静観していたアーサーが一歩前に出た。
「閣下、お尋ねします。我々が来る途中、廃墟と化した山村を通りました。焼け跡には、双頭の鷲の片翼と歯車の紋章が残されていました。これは、いったい何者の所業でしょうか?」
男爵の顔が一瞬、硬直した。
彼の拳が、机の上で微かに震えた。
「……その村の件か」
彼の声には、抑えきれない怒りの響きが込められていた。
「あれは、『金歯車の傭兵団』だ。財務卿が密かに養っている私兵だ。表向きは、『山賊掃討』を名目にこの地に派遣されていた」
ガレスが低くうなった。
「ならば、なぜ閣下はそれを許した? この土地の守護者として、民を見殺しにしたのか?」
「許した?」
男爵の声が突然、雷鳴のように広間に響き渡った。
彼は机を拳で叩き、その上の杯が揺れた。
「わしが許さぬからこそ、あの村は焼かれたのだ! 財務卿からの『協力の申し出』を、わしが拒絶した報復だ! 金歯車どもは、わしに警告するために、最も遠く、最もわしの目が届きにくい村を襲ったのだ!」
広間が水を打ったように静まり返った。
暖炉の炎がぱちりと音を立て、男爵の苦渋に満ちた横顔を照らした。
キースが、静かに口を開いた。
彼の片目が、男爵の表情の微細な変化を捉えている。「では、城門前で聞いた噂は本当ですな。『外敵からは確かに守ってくれる』と。その『外敵』とは、王国の財務卿とその私兵だったのですか」
男爵は深く息を吸い込み、ゆっくりと座り直した。
その姿には、剛毅な武将というより、重すぎる責任に押し潰されそうな領主の疲労が見えた。
「財務卿は、この西山の鉱脈を、完全に手中に収めたいのだ。わしが彼の『提案』に従い、鉱山の利権の大半を差し出せば、村は焼かれず、税も軽減されると言ってきた。だが、それはこの土地の民を、永遠に彼の奴隷とすることを意味する」




