第43話 グスタフ男爵の評判
4人は、ヴァイダー卿が提供してくれた質素だが十分な物資を背負い、城塞を後にする。
西山へ向かう道は、平坦な王都周辺の街道とは異なり、次第に険しさを増していった。
切り立った崖に刻まれた細い道、深い霧が立ち込める森、轟音を上げて流れる渓流。
ここは、中央の華やかな宮廷文化からは忘れ去られた、荒々しい辺境の地だった。
旅の3日目の夕暮れ、彼らは廃墟と化した小さな山村を通りかかった。
焼け焦げた家屋の梁だけが、灰色の空に向かって無言で突き刺さっている。キースがうずくまり、地面の灰を指でなぞった。
「……1ヶ月は経っていない。略奪だ。だが、規律がある。家財は奪われているが、無駄な破壊は少ない。兵の仕業だ。」
アーサーが杖で焼け跡をそっと叩き、呪文のような低い詠唱を口にした。
杖の先端がかすかに青白く光る。
「苦痛と絶望の残滓が……まだこの土地にまとわりついている。領主たる者が、民を守れなかったのか、あるいは……」
レオンの目が険しくなった。
彼は革の筒を握る手に力を込めた。
「この西山の領主は、グスタフ男爵だ。もしこれが彼の配下の所業ならば、我々の交渉は水の泡となる。」
「待て」
ガレスが、廃墟の隅から何かを拾い上げた。
それは、半分焼けた木片にへばりついた、歪な紋章の切れ端だった。
双頭の鷲の片翼と、何かの歯車のような模様。
「これは……王家直属の工兵隊の紋章ではない」
アーサーが目を細めた。
「むしろ……私的な傭兵団、あるいは誰かの私兵の徽章に近い。」
疑惑は深まるばかりだった。
グスタフ男爵は、単なる粗暴な辺境領主ではなかった。
何かもっと複雑な事情を抱えているかもしれない。
さらに数日、山道を進むうちに、彼らは男爵の城塞の存在を、空気そのもので感じるようになった。
道行く商人やきこりからは、グスタフ男爵の名を口にする際に、畏敬と恐怖が入り混じった小声で囁かれるのを耳にした。
「鉄槌のグスタフ様か……あの方は、王都からのお役人もねじ伏せたという。」
「だけどな、この一帯で略奪を働く野盗を、あの方だけが真っ向から追い払ってくださった。理不尽な税の取立ては厳しいが、その代わり、外敵からは確かに守ってくれる。」
評判は二分していた。冷酷な独裁者か、厳格な保護者か。真実はそのどちらでもない、第三の道かもしれない。




