第37話 北の辺境伯爵へ
吹雪の夜、鉱山を脱出した一行は、森の中の廃墟に身を隠した。
労働者たちは憔悴しきっていたが、解放された者たちの目には、久しぶりの自由の光が灯っていた。
ガレスが傷の手当てをしながら呟く。
「次はどこへ向かう?」
キースが地図を広げる。
「北には辺境伯爵の領地がある。彼は王国中央から距離を置いている。話が通じるかもしれない」
アーサーが魔晶石を手に取り、じっと見つめる。
「この鉱石から抽出された魔力は……恐ろしいことに、生体エネルギーと融合している。これは単なる採掘ではない。何かもっと邪悪な目的がある」
レオンは火の傍らで、剣の手入れをしていた。
彼は仲間たちを見回し、ゆっくりと口を開いた。
「我々の目的は一つだ。王国の腐敗を暴き、真実を民に知らせる。そのために、まずはこの鉱山の真実を、証拠と共に辺境伯爵に伝えよう」
彼らが鉱山の地下深くで発見したものは、王国の闇そのものだった。
囚人や貧民、時には行方不明となった旅人までもが、鎖で繋がれ、魔晶石の採掘に駆り立てられていた。
公式記録に存在しない『影の鉱山』から採掘された貴金属と魔力は、密かに財務卿の私腹を肥やし、彼の闇の勢力を拡大する資金源となっていた。
過酷な労働と魔晶石の呪いのような性質により、鉱夫たちは次々と命を落とし、その亡骸さえも魔力の材料として利用されていた。
「これが……私が守るべきだった王国の現実か」
レオンが握りしめた拳が震えた。
彼が勇者として守るべきだった民衆が、このような形で搾取されていた。
キースが慎重に周囲を見回しながら言った。
「証拠は十分揃った。問題は、これをどうやって辺境伯爵のもとへ安全に運ぶかだ」
アーサーが古びた杖を掲げた。
「私が隠蔽魔法をかけよう。書類や証拠品を一時的に透明化できる」
ガレスが重々しくうなずいた。
「では、早速辺境の城塞に向かおう。だが、警戒を怠るな。我々の動きが財務卿の耳に入っている可能性もある」
彼らが鉱山を離れ、辺境伯爵の城塞を目指して旅立ったその頃、王国の首都では、財務卿が執務室で不気味な笑みを浮かべていた。
「ついに動き始めたか」
財務卿の前に並べられたのは、レオン、ガレス、アーサー、キースの4人を描いた懸賞書だった。
それぞれの容姿が詳細に描かれ、その下には莫大な賞金の金額が記されている。
財務卿はそれらの懸賞書を机の上に一列に並べ、じっと見下ろした。
蝋燭の炎が、紙上の4人の肖像をゆらめかせ、まるで彼らが既に炎の中にいるかのようだった。
「全ての街道、全ての村にこれを貼れ。」
財務卿の声は氷のように冷たかった。
「そして、辺境伯爵ヴァイダー卿には、特別な伝言を届けよ。
『王国の敵が、貴殿の領地に向かっている。温情は無用である』と。」
部下は深々と頭を下げ、懸賞書を抱えて退出した。
部屋に1人残された財務卿は、再び窓の外の闇を見つめた。
遠くの北の空には、星がちらほらと見え始めていた。
「星の光も、闇に消える時が来る」
財務卿の呟きは、闇の中に吸い込まれていった。




