第29話 フロスト・ケイブ鉱山へ潜入
4人は雪と岩の影を縫うように移動した。
キースの片目は、長年の狩りで培われた驚異的な視野と距離感覚で、衛兵の動きを捉えていた。
彼の手振りは無駄がなく、岩陰から岩陰へ、風の音を利用して足音を消すタイミングを指示する。
「ここだ」
キースが低く声を潜めた。
目の前には、氷に覆われた崖の裂け目が口を開けていた。
氷の侵食が作り出した天然のトンネルは、暗闇へと続いている。
内部からは、かすかな金属の音と、時折聞こえるうめき声が風に乗って流れてきた。
ガレスが傷だらけの鎧の袖を引き締めた。
「中は狭い。順番に進もう。私が先頭を、キースが最後尾を。レオン、アーサー、中央で準備を」
レオンはうなずいた。
アーサーは古びた杖を握りしめ、口の中で古代語の呪文を紡いだ。
杖の先端に微かな青白い光が灯り、氷のトンネルをほのかに照らした。
「光は最小限に。目立たぬよう」
一行は裂け目へと入っていった。
氷の壁が触れるほど近く、吐く息が白く瞬いて消える。
通路は下へ下へと螺旋を描きながら続き、時折、人の手で拡張されたような痕跡が見られた。
「奴らはここを秘密の搬入路として使っている」
ガレスが氷に刻まれたそりの滑った跡を指さして呟いた。
やがて、通路は広がり、かすかな明かりと、よりはっきりとした音が聞こえてきた。
金属が岩を打つ鈍い音、鎖のきしむ音、そして……疲れ切った、力のない泣き声。
レオンが岩陰からそっと覗いた。
その光景は、彼の想像を超える地獄だった。
広大な氷の洞窟が、生きた採掘場と化していた。
数十人いや、百人以上の人々が、ぼろぼろの布をまとっただけの姿で、氷のように冷たい岩壁をツルハシで叩いていた。
その多くは、かつては罪人として裁かれた者たちだったが、中には無実の罪を着せられた者がいる可能性がある。
手足には重い鎖がつながれ、衛兵たちが鞭を手に監視している。
衛兵の紋章は、レオンがよく知るもの。
王立鉱山管理局のものだった。
表向きは閉山となっているこの鉱山を、誰が動かしているのか、答えは明らかだった。
「見ろ」
アーサーが息を殺して言った。
「あの中央のテント。紋章がある」
洞窟の中央には、厳重に守られた大きなテントが設けられていた。
その入口の旗には、3つの塔を抱える冠の紋章——ヴァンガード公爵家の紋章がはためいていた。
公爵は、王国財務省の重職に就き、国王の信任も厚い人物だ。




