第28話 フロスト・ケイブ鉱山の影
宿屋の一室で、レオンが擦り切れた羊皮紙の地図を広げながら言った。
蝋燭の灯りが4人の顔を揺らめく影で照らし出す。
「明日、フロスト・ケイブ鉱山へ向かう」
レオンの声は低く、確信に満ちていた。
「噂では、囚人や貧民を奴隷として鉱山労働に駆り立てている。公式記録には存在しない『影の鉱山』だ」
ガレスは鍛え上げられた拳を握りしめ、鎧の継ぎ目が軋む音を立てた。
「奴隷貿易は商会と共に終わったはずだ。我々が暴いたのだ。王国も対策を約束した」
老魔術師アーサーは、知恵の重みで磨かれた杖を軽く床に叩きつけた。
「表面上はそうかもしれない、ガレスよ。だが、闇は深い。商会がなくなっても、そのネットワークは残っている可能性がある。蜘蛛の巣のように、中心を失っても縦横に張り巡らされた糸は残るものだ」
ガレスの顔に怒りの色が走った。
「またか。形を変えて同じ悪事が繰り返される」
窓辺に寄りかかるキースは、鋭い片目で外の闇を見つめながら言った。
「フロスト・ケイブは危険な地域だ。吹き曝しの山岳地帯、氷河が削った洞窟群。魔物も多いが、それ以上に、人間の貪欲さがより危険だ」
「我々の戦いは終わっていない」
アーサーが静かに言った。
「真の変化とは、表面を飾り立てることではなく、根を絶つことだ」
キースが窓から離れ、テーブルに近づいた。
「フロスト・ケイブ周辺には、『アイス・ウィスパー』と呼ばれる魔物が生息している。氷のように冷たい息で獲物を凍りつかせる。だが、それ以上に警戒すべきは人間の罠だ。鉱山の警備は商会時代以上に強化されているという」
4人は深夜まで作戦を練った。
蝋燭の灯りが次第に弱くなる中、それぞれの役割と戦術が明確になった。
アーサーが防御魔法を説明する。
「『静寂のベール』で足音を消し、『寒気耐性』の呪文を全員にかけよう。鉱山内部では『生命感知』が使えるが、範囲は限られる」
キースが地形を詳述した。
「東側の崖は崩落が多く、警備が手薄だ。だが、氷雪グリフォンの縄張りに近い。夜明け前1時間が彼らの活動が最も鈍る時間帯だ」
ガレスが接近戦の役割を確認する。
「私は前衛を務める。レオンは指揮と臨機応変の支援を。キースは遠距離からの援護と偵察を。アーサーは魔法支援と罠の探知を」
レオンが全体をまとめた。
「目的は証拠の収集と、可能ならば囚人の救出だ。戦闘は最後の手段とする」
「明け方に出発だ」
レオンが最終確認をした。
「軽装で行く。荷物は最小限に。キースの言う通り、魔物より人間の警戒が難しい。目立たずに近づき、状況を確認する」
4人はそれぞれの準備を始めた。
ガレスは鎧の手入れをし、アーサーは杖に詰め込んだ魔法の成分を確認し、キースは弓の弦と矢筒を点検した。レオンは地図を再び研究し、侵入経路と退却経路を頭に刻み込んだ。
外では冷たい風が吹き、遠くで狼の遠吠えが聞こえた。
フロスト・ケイブ鉱山は、単に物理的に遠い場所ではなかった。
王国の光が届かず、法の目が曇らされた闇の領域だった。
4人はその闇に挑むことを決意していた。
夜明け前、4人は宿を後にした。
街はまだ深い眠りの中にあり、彼らの足音だけが石畳に響いた。
門を出ると、北東に向かう道が闇の中に続いていた。道は次第に険しくなり、雪の気配が風に混じり始めた。
アーサーが杖を掲げ、先頭に立った。
「では行くとするか」
キースは鋭い片目で前方の闇を見据えながら、
「魔物の気配はない。今のところは」と報告した。




