第23話 東の港町カーディフ
鉱山町の入口で、レオンが仲間たちを見渡した。
ガレスは傷だらけの鎧をなおも着込み、アーサーは古びた杖を地面に立て、キースは片目で遠くの山並みを見つめていた。
「次はどこへ行く?」ガレスが聞いた。
その声は低く、鎧の軋む音と重なった。
アーサーが羊皮紙の地図を広げ、指で東の沿岸部をなぞった。
「東の港町カーディフで、密輸された禁術の道具が闇市場で流通しているという情報がある。王国の魔術師ギルドが正式に認可していない危険な品々だ。強化薬、呪いの器物、時には生きたままの禁断の生き物まで……」
次の朝、彼らは再び歩き始めた。
森を抜け、丘陵地帯に入ると、空気が潮の香りを帯びてきた。カーディフ港は近い。
5日目の正午、彼らは丘陵の頂から港町を見下ろした。白い壁の家々が海岸線に密集し、幾隻もの帆船が波間に浮かんでいる。
活気ある港町のように見えたが、アーサーが杖で指し示した闇市場の区域には、不気味な静けさが漂っていた。
「まずは情報収集だ」
レオンが指示を出した。
「ガレスとキースは港の倉庫地帯を探れ。密輸品の搬入経路を特定する。アーサー先生は町の酒場で、商人や船員の噂を聞いてくれ。俺は代官所の周りを探る」
4人はうなずき、それぞれの役割を帯びて坂道を下り、港町カーディフへと潜入した。
レオンは質素な旅人の装いで代官所の周囲を歩き、衛兵の配置や出入りする人物を観察した。
立派な馬車に乗った太った商人が、革袋を抱えて代官所に入っていく。
衛兵たちはその商人に低く頭を下げている。
明らかに通常の商人以上の待遇だ。
一方、港の倉庫地帯では、ガレスとキースが影に潜んで動きを探っていた。
夜になると、武装した私兵に守られた荷車が、特定の倉庫に出入りしている。
荷物は分厚い布で覆われ、時折布の隙間から不気味な紫色の光が漏れている。
酒場「潮騒亭」では、アーサーが老いた船乗りを装い、酒を酌み交わしながら話を聞き出していた。
「禁術の道具だって?ああ、最近はよく聞くな……港の東端の第三倉庫あたりで、夜な夜な怪しい動きがある。でも、みんな口を閉ざす。好奇心を持つ者は、次の日には海に浮かんでるからな」
3日にわたる偵察の末、彼らは情報をまとめた。
「代官は完全に腐っている。密輸商人から多額の賄賂を受け取り、見て見ぬふりをしている」
レオンが報告した。
「禁術の道具は第三倉庫に集められ、毎週木曜の深夜に闇市場へ運ばれる」
ガレスが付け加えた。
「道具の中には、人の精神を支配する首飾りや、生命力を吸い取る指輪まであるらしい」
アーサーの表情は険しかった。
「これらが世に出れば、無数の人々が犠牲になる」
次の木曜の夜、4人は第三倉庫の周囲に潜んだ。
月が雲に隠れ、港は深い闇に包まれていた。
午前零時を過ぎた頃、私兵に護衛された荷車が倉庫から現れた。
「行くぞ」
レオンが囁いた。
計画は単純明快だった。
キースが遠くから警戒の衛兵を矢で気絶させ、ガレスが正面から私兵たちを引き付け、アーサーが魔術で荷車を止め、レオンが密輸品を確保する。
闇の中、キースの矢が音もなく飛び、2人の衛兵が次々と倒れた。
私兵たちが騒ぎ出す瞬間、ガレスが鎧を轟かせて正面から突撃した。
剣戟の音が響き、アーサーが杖を掲げて詠唱を始める。
「縛れ、風の鎖!」
見えない鎖が荷車の車輪を締め付け、動きを封じた。
レオンが影から飛び出し、荷車の覆いを引き裂く。
中には、不気味な光を放つ様々な器物が詰められていた。
「止めるんだ!」
私兵の隊長が叫ぶ。
その時、倉庫の扉が開き、太った商人と、彼を護衛する魔術師が現れた。
商人の手には、まさに禁術の首飾りが握られていた。
「愚かなる者たちよ、我が『支配者の首飾り』の前では、いかなる抵抗も無意味だ!」
商人が首飾りを掲げ、不気味な光が放たれる。
レオンは瞬間、かつて魔王の軍勢と戦った時と同じ、精神を侵食される感覚に襲われた。
だが、その時
「レオン!心を澄ませよ!」
アーサーの声が響き、杖から清浄な光が放たれた。
2つの光が空中で激突し、火花を散らす。
「古びた杖だが、禁術を浄化する力はまだ失っていない!」
アーサーが叫んだ。
その隙に、キースの矢が商人の手を射抜き、首飾りが地面に落ちた。
ガレスが私兵たちを蹴散らし、レオンが駆け寄って首飾りを拾い上げ、地面に叩きつけて粉々にした。
「お前たち……何者だ!?」
商人が震える声で問うた。
レオンは粉々になった首飾りを見下ろし、静かに答えた。
「民衆の勇者だ」
私兵たちは倒れ、魔術師はアーサーの術に縛られ、商人は震え上がった。
レオンは残りの禁術の道具を全て集め、アーサーの浄化の術で無力化した。
夜明け前、彼らは証拠となる書類と、生き残った商人を連れ、良心ある近隣の領主の元へ向かった。
港町カーディフの闇は一時的に晴れたが、レオンは知っていた。
この世界にはまだ無数の闇が潜んでいることを。




