第114話 財務卿の末路
一方、王宮の奥深く、財務卿ロドリック・ヴァインの執務室では、別の物語が終わりを迎えようとしていた。
机の上の水晶球が砕け散り、中に閉じ込められていた青白い光が空中で消えた。
ロドリックは椅子から崩れ落ち、震える手で机の縁をつかんだ。
「不可能だ……あの機械兵団が……」
ドアが開き、騎士団たちが入ってきた。
先頭に立つのは、騎士団長ゴドフリーだった。
「ロドリック・ヴァンガード、王命によりお前を逮捕する」
「民衆勇者たちが城を解放した。機械兵の制御が解かれた今、お前が王国を裏切り、古代の機械技術を悪用していた証拠は隠しようもない」
ロドリックの顔から血の気が引いた。
彼が密かに操っていたのは、単なる機械兵ではなかった。
古代の戦争で命を落とした兵士たちの魂を機械に閉じ込め、不死の軍隊として蘇らせる禁忌の技術。
それを彼は「王国の防衛のため」と称して復活させ、実際には自らの権力基盤を固めるために利用していたのだ。
窓の外から、解放を喜ぶ民衆の声が聞こえてくる。
ロドリックはその声を聞きながら、自らの野望が音を立てて崩れていくのを感じ
数日後、王宮広場で公開裁判が行われた。
証人席には、機械から解放された元兵士たち、ロドリックの不正を内部告発した役人、そしてレオンたち民衆勇者も立った。
老魔術師アーサーが証言台に立ち、杖を掲げて言った。
「我々が解放したのは、単なる機械ではない。そこに囚われていた無念の魂である。ロドリック・ヴァンガードは、死者すら支配の道具にした」
証言は3日3晩続き、ロドリックの罪状は次々と明らかになった。
不正蓄財、権力乱用、禁忌技術の復活、そして何よりも……民衆を機械の奴隷に変えようとした人道に対する罪。
裁判の最後に、王自らが裁きを下した。
「ロドリック・ヴァインガード、お前の罪は死をもって償うには重すぎる。ならば、生きて償わせよう」
判決は意外なものだった。
死刑ではなく、永久追放。
ただし、魔法で寿命を延ばされ、千年の時をかけて王国の復興労働に従事するというものだった。
アーサーが開発した特殊な魔法により、ロドリックは老化せず、疲労は感じるが死ぬこともなく、逃れることもできない。
彼は王国の傷ついた土地を修復し、破壊された街を再建する労働に、文字通り永遠に従事することになる。
「これが、お前が軽視した民衆のために働くという意味だ」
王は静かに言った。
ロドリックは言葉を失った。
彼が夢想した永遠の権力は、永遠の労働へと形を変えた。
手枷と足枷がはめられるとき、その金属の冷たさが、彼が兵士たちの魂を閉じ込めた機械のそれを思い起こさせた。
彼は振り返り、広場を見渡した。
そこには、彼が支配しようとした人々がいた。
彼らの目には、赦しではなく、静かな監視の意志が光っていた。
彼は永遠の管理者から、永遠の償い人へと堕ちた。
そして王国は、一つの時代の終わりと、新たな再生の始まりを、この日から刻み始めるのであった。




