第104話 沈黙の図書館への鍵
旅路の夜、キャンプファイアの炎が暗闇を揺らめかせていた。
サラを守りながら王国の首都ローレリアを目指す一行は、疲れを癒すため焚き火を囲んでいた。
アーサーが古代の伝承を語り始め、サラは真剣な表情で耳を傾けた。
「機神兵の原型となった技術は、実は千年以上前の『機械神話時代』にまで遡る」
アーサーの声は低く、重々しかった。
「当時、人間は神々と共に暮らし、彼らの技術を学んでいたと言われている」
「神々の技術?」
サラが興味深そうに尋ねた。
「そう。だが神々が去った後、その技術の多くは失われ、あるいは封印された。魂の転写などは、最も禁忌とされていた技術の一つだ。なぜなら……」
アーサーは炎を見つめながら、声を潜めた。
「それは人間の本質を弄ぶ行為だからだ。魂が機械に移されれば、その者はもはや人間ではなくなる。感情も記憶も、すべてが模倣された偽物になる危険性がある」
ガレスが唸るように言った。
「なら、なぜ宮廷がそんな技術を復活させようとする?」
「力だ」
レオンが即座に答えた。
「完全に制御できる兵士、疑問を持たず命令に従う市民、不老不死を手に入れたい権力者……理由はいくらでもある」
その時、キースが突然、立ち上がり弓を構えた。
「誰か来る」
暗闇から、よろめくように1人の男が現れた。
ぼろぼろの衣服は泥と汗にまみれ、やつれた顔には恐怖と疲労の跡が刻まれていた。
彼はレオンたちを見ると、その場に崩れ落ちた。
「助けて……ください……彼らが……追って……」
レオンが駆け寄り、男を支えた。
「落ち着いて。誰が追っている?」
男は震える手で、胸の内ポケットから皺くちゃになった紙切れを取り出した。
羊皮紙は汗で滲み、端が破れかけていた。
「これ……見て……」
レオンがそれを広げると、宮廷の紋章入りの逮捕令状だった。
名前の欄には「ベネディクト・クロウ」と記され、罪状は「国家機密漏洩」と書かれていた。
「私は……財務省の下級官吏でした……新生計画の予算書類を偶然目にして…」
男の咳き込む声に、ガレスが険しい表情を浮かべた。
「計画は……東嶺だけじゃない……王国全土に……7つの『炉』が建設される予定だった……首都の地下に最大のものが…」
言葉を終えぬうち、男の体がぐったりとした。
アーサーが急いで診ると、深く息を吐いた。
「毒だ。遅効性の毒が仕込まれていた」
レオンが男の手を握りしめた。
「炉の場所は?他に何を知っている?」
ベネディクトはかすれた声で囁いた。
息づかいが浅く、不規則になっているのがわかった。
「王宮の……地下深く……『沈黙の図書館』の下に……鍵は……『三人の賢者の印』…」
彼はレオンの目をまっすぐ見つめ、最後の力を振り絞って言い足した。
「止めて……ください……無数の魂が……機械に……囚われようと……している……」
それっきり、彼の息は止まった。
「『沈黙の図書館』か」アーサーが眉をひそめた。
「伝説では、禁断の知識が封印されている場所と言われている。入り口さえほとんど知られていない」




