第101話 深淵の計画
アーサーは杖を地面にトンと突きながら、ゆっくりと言った。
「古文書に『魂の転写』という禁忌術についての記述がある。肉体を機械に置き換え、魂だけを移植する……まさに機神兵の原理だ。だが、この術を完成させるには、膨大な実験データが必要だろう」
アーサーの目は、レオンが慎重に革筒から取り出した文書に向けられていた。
羊皮紙は古びており、一部はかすれて読めない部分もあるが、そこには衝撃的な内容が記されていた。
『新生計画 第一段階報告書』
・対象:辺境の村々の住民
・方法:疫病と偽装し、住民を「保護」名目で収容
・転写成功率:37%
(対象100名中、生存・機能維持37名)
・失敗例:魂の崩壊63名、
肉体拒絶反応による死亡42名
・備考 :成功率向上のため、より強靭な魂を
持つ対象の選定が必要
レオンの手が震えた。
辺境の村々……確かにここ数年、謎の疫病が流行し、住民が「保護施設」に連れ去られたという報告が相次いでいた。
王国は「治療のため」と説明していたが、真実はこれだったのか。
「畜生……」
ガレスが低く唸った。
「これが王国のやっていることか」
アーサーは目を閉じ、深く息を吐いた。
「魂の転写……これほどまでに邪悪な術はない。人間の尊厳そのものを踏みにじる行為だ」
キースはようやく口を開いた。
「森でも……同じことが。『疫病対策』と言って、人々が連れ去られた。二度と戻らなかった」
文書の後半には、さらに恐ろしい計画が記されていた。
『機神の炉建設計画』
・目的:大規模な魂転写施設の建設
・場所:王都地下(仮称:深淵層)
・規模:1度に千名の転写が可能
・完成予定:3年後
・最終目標:王国全土の「非効率的な人間要素」
の機械化
「王都の地下に、こんなものが……」
レオンの声は怒りに震えていた。
「千名も……一度に? これはもはや実験ではない。大量生産だ! 人々を機械に変える工場を、王都の真下に?」
アーサーが杖を強く握りしめた。
「3年後……つまり、計画はすでに進行中だ。クラウスはほんの一端に過ぎない。彼の背後には、もっと大きな組織がいる。おそらくは王国の上層部そのものが関わっている」
風が吹き抜け、城塞の旗がはためく音が聞こえる。
戦いは終わったが、彼らが暴いたのは氷山の一角に過ぎなかった。
王国の闇は、彼らが想像する以上に深く、広がっている。
4人は暗くなり始めた空の下、東嶺を出発し新たな旅路へと歩み出した。
彼らが背負う真実の重みは、彼らの足取りを確かなものにした。
戦いは終わっていなかった。
むしろ、本当の戦いが今、始まろうとしていた。




