第100話 影の承認
片目の猟師キースが、鋭い視線で周囲を見回しながら近づいてきた。
「偵察した」
キースの声は低く、渇いていた。
「城塞の地下には、まだ完全には破壊されていない実験室が残っている。書類の一部も散乱していた」
レオンの目が輝いた。
彼は即座に動き出した。
「見せてくれ」
地下実験室は、機神兵の残骸と割れたガラス器具で埋め尽くされていた。
しかし、一角に設えられた書斎は比較的無傷だった。キースが指し示す机の上には、革で装丁された分厚い日誌と、いくつかの封筒が置かれていた。
レオンが日誌を開くと、そこには緻密な筆跡で実験の経過が記されていた。
「『被験体番号47:転写成功率32%。人格の断片化が顕著。機神兵との適合率は低い。痛覚反応は維持されるが、これが倫理的問題を引き起こす可能性』」
ここで文章は突然途切れ、次のページから語調が変わっていた。
レオンがページをめくると、次第に記述が変化していく。
「『新生計画第二段階開始。対象は志願兵ではなく、政治犯および社会不適格者とする。資源効率が向上。反対意見は排除済み』」
ガレスが拳を握りしめた。
「畜生……人間を実験材料扱いか」
彼の声は怒りに震えていた。
「人間を実験材料扱いか。これが『新生』だと?」
アーサーが杖で床を叩いた。
「ここに書かれている『上層部の承認』という文言……これは明らかに、クラウス個人の計画を超えている。彼一人にこれほどの権限と資源はない」
レオンは黙ってページをめくり続けた。
日誌の後半になるにつれ、筆跡はより乱れ、時には興奮したような走り書きも見られた。
そして最後の数ページそこにはもはや実験記録ではなく、ある種の願望や野望が綴られていた。
「『今日、ヴァインガード卿から直接の指示を受ける。機神兵軍団完成まであと一歩。王国の新たな守護者となる日も近い。すべてはより強き王国のために——』」
さらに調べていくうちに、もっと衝撃的な文書が見つかった。
宮廷の紋章が押された書簡だ。
レオンがそれを広げると、アーサーが息をのんだ。
「『機神の炉建設に関する予算承認について』
レオンが声に出して読み上げた。
「『本計画は王国防衛の最重要課題と認め、第一期予算として金貨五万枚を承認する。必要とあらば、さらなる人的資源も供給可能である。』」
彼の視線が文書の下部に移った。
「署名は……財務大臣ロドリック・ヴァインガード」
地下実験室が急に冷え込んだような気がした。
レオンが革筒から取り出した書類。
彼らがこれまでに集めてきた手がかりと照合すると、同じ紋章、同じ筆跡の指示書が何枚も出てきた。
すべてがつながった。
「クラウスは操り人形に過ぎなかった」
レオンが低い声で言った。
「殿下は最初から、自分が駒の一つでしかないことに気づいていなかった。あるいは気づいていたが、それでもこの道を選んだ」
「真の黒幕は王国の奥深くにいる」
レオンが囁くように言った。




